広い駐車場にぽつんと立つ、星月さんが見えた。ぼくに気づいて手を挙げ、翼をはためかす。白い羽が、ふわふわと浮かぶ。――「天使は奇跡を希う」032

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 放課後、ぼくは自転車で集合場所に向かっていた。

 学校からそのまま一緒に行くと、いろんな人に見られて気まずいというか、よけいな誤解を生んでしまうだろう。

 そんなぼくの説明に星月さんは「たしかにそうだね」とうなずいた。

 というわけで、いったん家に帰ってから今治城前にあるファミマに集合ということにした。

 いつもの大通りを駅と逆方向に走ると、大きな赤い門のようなものが見えてくる。

 あれは船を停める桟橋だ。

 つまり、あんな近くに海がある。

 右に折れ、商店街を横断すると、道路沿いにある港に出る。

 港といっても狭いもので、岸には小さなボートが並べてつながれているだけだ。

 でもそれがなんというか、港町、という懐かしい風情を醸している。

 そこを抜けると、大きなカーブ。

「――!」

 自動車が、ひやりとする距離で追い越していった。

 ――危ねえ。

 東京から今治に来て感じた違いの一つは、車の危なさだ。

 東京のドライバーのほとんどが歩行者優先で、その存在に常に気を張っているのに比べ、こっちのドライバーはそのへんの意識が薄く、たとえば住宅街の十字路も、歩行者を警戒せずに突っ込むことが多い。

 最初に比べればぼくもわかってきたけど、今でもたまにどきっとする瞬間がある。

 カーブを抜けると、ファミマの緑が見えてきた。

 その広い駐車場にぽつんと立つ、星月さんが見えた。

 ぼくに気づいて手を挙げ、翼をはためかす。

 白い羽が、色づいてきた陽差しの中でふわふわとした質感で浮かんでいる。


七月隆文・著/前康輔・写真 

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天使は奇跡を希う 七月隆文

100万部突破の大人気作『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の七月隆文、最新作。note×「別冊文藝春秋」同時連載
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