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街角の異空間と馬券オヤジ〜「かなざわいっせいさんの仕事」を読んだ。

場外馬券売場

昔、香港に住んでいた時期があって、現地の競馬を楽しんでいた。

競馬場にもよく行ったが、住んでいたところから場外馬券売場に歩いてすぐ行けたのでよく利用していた。

香港の場外馬券売場は、たいていはビルの1階に入っており、広さとしては200平米前後のところが多かったと思う。(記事トップ写真の、青い壁の部分が売場。)

街のあちこちにあり、地下鉄一駅に対して1〜2売場はあった印象がある。馬券以外にサッカーくじなども売っていたので、競馬開催日以外も賑わっていた。

HK場外2

自分がよく行っていた売場。
雰囲気は、日本のWINSとほとんど同じ。
レース実況時は、じっと画面に見入るオヤジ、つぶやくオヤジ、祈るオヤジ、叫ぶオヤジ、などなど多様だった。


場外派、競馬場派

何かの競馬本で、最初に競馬をやったのが「場外馬券売場」か「競馬場」かで、どちらに通うようになるかが左右される、という説を読んだことがある。

自分の場合、最初に競馬をやったのは場外馬券売場で、たしかに、その後しばらくは場外馬券売場にばかり行っていた。

府中にある競馬場に行った方が近い場所に住んでいたのに、なぜか後楽園の場外馬券売場にまで足を伸ばしていた。

その後、競馬場にもよく行くようにはなったが、最初の頃は何か落ち着かない気もした。場外売場では、予想する・馬券買う・実況見る、この3つの行為に集中していればいいが、競馬場ではこれら以外の選択肢が多すぎて、かえって何をしようか迷い、気が散ってしまったのかも、と今振り返って思う。

競馬歴も長くなった今では、どちらかと言うとたぶん競馬場の方が好き、というか、中年になり体力もないので、立ちっぱなしのWINSよりも、競馬場の方が休めるので助かる。(それに、競馬場のB級グルメも好きなので。)

ただ、場外の魅力は捨てがたいものがある。

おそらく、競馬場には、割合的に”競馬をスポーツとして楽しむ層””レジャーとして楽しむ層”が高く、場外馬券売場にはそういう層の人たちは来ないだろう。

では、場外馬券売場に来ているのはどういう人たちかというと、”競馬をギャンブルとして楽しむ”、つまり、”馬券オヤジ”たちがほとんどだと思う。

その分、流れているギャンブル臭が濃い

その臭いは独特の緊張と弛緩をはらんでいる。

その場にいることで異空間を楽しむことができる。

自分にとって、場外馬券売場の楽しさはそんなところにもあるように思う。


馬券オヤジが好き

競馬ブックに「八方破れ」を連載していたかなざわいっせいさんが亡くなったのは、去年の3月のこと。

自分も一時期競馬ブックを毎週買っており、「八方破れ」はよく読んでいた。

競馬ブックはほとんど処分してしまったが、家の押し入れを漁ったら何冊かは発見できた(↓)。

カナ1

かなざわさんの没後、この「八方破れ」のベストセレクションや、他の文章を友人たちが編纂した「かなざわいっせいさんの仕事」が発売され入手した。

カナ3
2020年発行


このかなざわさんこそは、生粋の”場外馬券売場派”であり、「八方破れ」でも毎回のように場外馬券売場の様子や、馬券オヤジの奇怪な生態が描かれている。

滅多に競馬場へは行かない。WINSへ突撃して、オヤジやオババたちに背中や肩をつつかれながら勝負する、わしは場外馬券オヤジである。
(かなざわいっせい 著「続々・七転び八つアタリ」より引用。)

ぱらぱらとページをめくれば、オヤジたちの奇声がかなざわさんならではの擬音で表現されている。

「た、単勝なのに、ぐがああああー!」

「アヒ・・・アヒハヘアヒハ・・・」

などなど、たしかにWINSでこんなような叫びやうめき声を聞いた思い出がオーバーラップする。


このかなざわさんが、香港競馬に遠征して馬券勝負に挑んだ紀行文が昔のNumber誌(No.244 1990年のダービー直前特集号)に載っていた。

カナ2

場外馬券売場ではなく、ハッピーバレー競馬場での馬券勝負だったが、香港でも変わらぬ”かなざわ節”が炸裂しており、読んでいて楽しい。

馬券売場窓口の若い女(パーマをあてていたので”電髪娘”と呼ばれている)と、マークシートの塗り間違いを発端とする格闘がひとしきりあったあと、ついに馬券を的中させたかなざわさん。

私は再々度、電髪香港娘の窓口に走った。
「アイ、ウィン。日本人大勝利。早速是変換現金!」と当り馬券を叩きつけてやった。

無事、払戻しを受けたかなざわさんは、「アイ、シャル、リッタアーン!」と叫び、再び香港を訪れることを決意している。

”場外馬券オヤジ”のかなざわさん、香港の場外馬券売場には行ったのだろうか。

もし香港場外で馬券勝負していたら、香港馬券オヤジ達についてどんな文章を書いたか、読んでみたかった。

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