伊藤 芳浩 / コミュニケーションバリアフリーエバンジェリスト

1970年岐阜県生まれ。耳がほとんど聞こえない。名古屋大学理学部卒業後、日立製作所勤務…

伊藤 芳浩 / コミュニケーションバリアフリーエバンジェリスト

1970年岐阜県生まれ。耳がほとんど聞こえない。名古屋大学理学部卒業後、日立製作所勤務のかたわら、自身の経験を生かしコミュニケーションのバリアフリーを推進するNPO代表として、講演活動中。 詳細はこちら。http://bit.ly/itouyoshihiro_prof

最近の記事

  • 固定された記事

手話歌に関するモヤモヤ

最近は手話歌を使うグループなどが徐々に増えてきています。日本手話という主にろう者(聴覚障害者の中で手話を使う人のことを指すことが多い)というマイノリティが使用している言語の存在を広く知っていただく良い機会になっていると思います。手話歌は新しい音楽ジャンルを確立しつつあるように思います。でもなんだかモヤモヤするものがあります。(詳細は後述) 自分のことになりますが、私自身は、飛行機の音がやっと聞こえるレベルで、補聴器を使用しても、何か音がしているということが分かる程度です。そ

    • ダイアログ・イン・サイレンス〜静寂の世界で感覚を研ぎ澄ませる体験〜

       真冬にもかかわらず、2月20日は20度を超える暖かさで、春と間違えそうな日、静寂の世界で感覚を研ぎ澄ませる体験をしてきました。 浜松町駅から徒歩6分ほどで竹芝桟橋方面に向かい、芝商業高校を過ぎて左折すると、アトレ竹芝があり、その1階のダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」が会場でした。  ダイアログ・イン・サイレンスは、1998年にドイツで開始され、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国など世界中で100万人以上が体験したエンターテイメントです。日本では

      • 感謝と振り返り:2023年の私的ベスト10

         2023年も間もなく終わりを迎えますね。皆さんにとって、どのような年だったでしょうか。私個人としては、非常に充実した一年でした。多くの方々からのご支援を受け、情報アクセスの困難さやコミュニケーションの障壁の解消に少しでも貢献できたと思います。また、厳しい暑さの中で健康を保てたことにも感謝しています。 そこで、今年一年を振り返り、特に印象深かった10の出来事を選んでまとめてみました。 (1) 初の単著「マイノリティ・マーケティング」上梓 5年間の構想と1年間の執筆を経て、

        • M-1グランプリの新たな挑戦:字幕導入による笑いの拡大

          M-1グランプリに字幕が導入された背景 2023年12月24日、M-1グランプリにおいて、初めて字幕が導入されるという、大きな進展がありました。  以前から、SNSなどを通じて多くの人々からM-1グランプリへの字幕導入の要望がありました。例えば、去年、以下のポストには多くの反応が寄せられ、制作担当者にもその声が届いていたようです。  女性自身の取材に対し、朝日放送テレビの担当者は字幕制作の課題について次のように言及していました。  そして、「生字幕の正確性とその許容度合

        • 固定された記事

          「デフ・ヴォイス」のすごかったところとは:手話ドラマにおける当事者表象の変遷

          手話ドラマの変遷 これまでのTVではろう・難聴者役の登場人物が手話を使用してコミュニケーションするシーンが放映される手話ドラマはいくつかありました。 主要的なものは次の通りです。 ※他にもたくさんの手話ドラマや手話映画は存在します。 星の金貨(1995年) 愛していると言ってくれ(1995年) 君の手がささやいている(1997年-2001年) オレンジデイズ(2004年) silent(2022年) 星降る夜に(2023年) デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士(2

          「デフ・ヴォイス」のすごかったところとは:手話ドラマにおける当事者表象の変遷

          手話に関する誤報が相次いだ佳子さまのペルー訪問:言語表現を正確に行うことの大切さとは

          秋篠宮ご夫妻の次女の佳子さまが南米のペルーを公式訪問されました。11月6日午前(日本時間7日未明)には、リマ市の「ルートビッヒ・バン・ベートーベン初等特別支援学校」にて、ペルー手話で生徒たちとコミュニケーションされました。 このペルー手話(Peruvian Sign Language)は、2010年にペルーの法律で公式に認められていた言語で、最新の国勢調査によると1万人程度が使用しているとのことです。 マスメディアの手話の誤った伝え方しかし、多くのマスメディア(TV・新聞

          手話に関する誤報が相次いだ佳子さまのペルー訪問:言語表現を正確に行うことの大切さとは

          情報バリアフリーな報道への一歩 -NHK報道番組における手話通訳放映 -

          今年に入って、NHKが積極的に情報バリアフリーな報道への一歩を踏み出したと思われることが相次いでいます。今回、その背後にある要因について私なりに考察してみました。 全国初!定時ニュースに手話通訳付で放映NHKは2023年7月26日(水)、ユニバーサルサービス拡充の一環として、10月から総合テレビで日曜夜の定時ニュースに手話通訳を付けて放送すると発表しました。 https://www.nhk.or.jp/info/pr/toptalk/assets/pdf/soukyoku

          情報バリアフリーな報道への一歩 -NHK報道番組における手話通訳放映 -

          初の単著を出します!(3/9販売開始)

          5年越しの企画がようやく形になりました。感無量です。 これまでコミュニケーションバリアをなくすための様々な活動をした中で、大切にしてきたこと、工夫したことをエッセンスにまとめて、次世代の人たちに何らかの道標を残したいとの思いを持ち始めたのは、NPO活動が軌道に乗り始めた5年目の頃でした。その頃から、様々な出版社に企画を持ち込んでは、断られることの繰り返しでした。 しかし、最近の日本は、インクルーシブ社会へ徐々に進み始め、多様性ある社会の中で、マイノリティ(少数者)も生きや

          ドラマ「silent」が見せる分断とは

           2022年10月6日からフジテレビ系「木曜劇場」枠にて放送されたドラマ「silent」は、主人公 青羽紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)のラブストーリーだ。佐倉想は中途失聴のため、音声がきこえないことに対する抵抗があって、なかなか障害受容ができないことがこのドラマを通して描かれていた。その中で、青羽紬・親友役の戸川湊斗(鈴鹿央士)・ろう者役の桃野奈々(夏帆)らと分断や軋轢を起こしているシーンもいくつかみられた。  佐倉想は、きこえない人=当事者、青羽紬・戸川湊斗は、きこえる

          ドラマ「silent」を見てギョッとしたこと

          「優生」のネーミングの是非 巷で話題の木曜ドラマ「silent」 第9話が12/8に放映された。  その中で、ギョッとしたのは、佐倉 想(さくら・そう)の姉で、現在は結婚して実家を離れている井草 華(いぐさ・はな)が、今は2歳の息子・優生(ゆうき)を連れて、実家に顔を出しているシーンだ。  音声だと「ゆうき」なので多くの人は気づかなかったと思うが、字幕だと、「優生」という言葉が出てきたのだ。ここになんとも言えない気持ち悪さを感じた。  ちなみに断っておくが、一般的に存

          【ポイント解説】国連障害者権利委員会から出された総括所見について

          最近、国連において日本政府の「障害者権利条約」の取り組みに対する初めての審査が行われました。そこで、障害者権利委員会からの総括所見(勧告)が出たという下記のようなニュースをご覧になった方も多いと思います。 本記事では、まったく初めての方でも理解できるように、ポイントを絞って解説しています。詳細を知りたい方は、いくつか参考サイトを紹介していますので、必要に応じて参照ください。 後半では、総括所見(勧告)のうち、情報アクセスについても取り上げていますので、興味のある方は是非ご

          【ポイント解説】国連障害者権利委員会から出された総括所見について

          入試において個別対応よりユニバーサル対応を!

          入試の時に障害学生が受験の際に様々な配慮が必要になります。例えば、聴覚障害学生の場合は、口頭連絡の代わりに連絡事項を記載した紙を配布するなどの配慮があります。しかし時には、必要な配慮を受けられないことが起こっています。今回、その当事者にお話を聞いてみました。 聴覚障害学生の入試における配慮について2021年11月12日に、Twitterでこんな発言がありました。 2021年に耳が聞こえない方が関西の某外大を受験する際、必要な配慮が得られなくて、受験を断念したという悲しい事

          入試において個別対応よりユニバーサル対応を!

          最近注目されつつある「手話」の本を探すには?

          現在日本で公開中の「Coda コーダ あいのうた」に出演したトロイ・コッツァさんが、男性のろう俳優として初めてアカデミー賞にノミネートされ、話題を集めています。世界でヒットしたマーベル映画「エターナルズ」という映画の中でも、手話が出てくるのをご覧になった方も多いかと思います。 それがきっかけで「手話」に関心を持ち、「手話」についての本を、図書館や書店で探したいと思った時にどうしていますか? 図書館では「日本十進分類法」の基準に沿って本の内容ごとに下記の10種類に大きく分類

          最近注目されつつある「手話」の本を探すには?

          共生社会実現のカギは公共調達における情報アクセシビリティ対応

          普段、我々が使用する公共系サービスには、障害者や高齢者にとって、使いづらく、そういった方が取り残されているケースがいくつかあります。例えば、次の2点があります。 公共機関が提供している端末・Webサイト・アプリなどが読み上げに対応していないため、視覚障害者が操作をしたり、内容を理解したりすることができない 公共機関が提供している説明の動画などに、字幕や手話がなく、音声のみなので、聴覚障害者が内容を理解したりすることができない 公共系サービスは、公共調達によって、製品・サ

          共生社会実現のカギは公共調達における情報アクセシビリティ対応

          パブリックコメントの書き方

          私はNPO活動をしている際、活動目的と関連するパブリックコメント(以降、パブコメと称する)が募集されるごとに、意見を提出してきた経験があります。提出した意見の中には、採用されたものもあれば、採用されなかったものもあります。パブコメを担当されたことのある方に色々アドバイスをいただき、自分なりに調べたり、考えをまとめたりしてみたので、これからパブコメを書く人にとって参考となれば幸いです。 本記事では、国や地方自治体などの行政が募集するパブコメが対象です。 パブコメとは「行政手続

          「誰一人残さない」パブリックコメントにするために

          パブリックコメント(以降、パブコメと略す)は「行政手続法」で定められている意見公募手続のことです。パブコメは、行政機関が政策を実施するために政令や法令を定めたり、制度の改廃を行ったりする際、事前に案を公表して意見を募り、集まった意見を考慮する仕組みのことで、以下を目的として行われます。 行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図る 国民の権利利益の保護に役立てる 目的の1つの「国民の権利利益の保護に役立てる」を達成するためには、パブコメ自体をステークホルダー(利害関係者)

          「誰一人残さない」パブリックコメントにするために