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太陽の子供たち

 太陽の周りを、地球が、月が、火星が、回っている。明け方と宵闇には美しい金星が輝いている。地球は無邪気に太陽の周りを回っているばかりで、追いかける月の気持ちに気づいていないのかも知れない。

小学生から大人へ

 小学校中学年の時にその学校に転入してきてからというものの、すぐに毎日のようにつけ狙われるようになって、いじられ、いじめられ続けてきた。その女子に。

 目がまん丸で、癖っ毛のボブで。肌は白くて背は小さくて。授業中は赤いメガネをかけていて一生懸命に聞いていて、先生の前では大人しいふりをしている女の子。
 彼女にはいつも一緒にいる連れがいた。その子も一緒に意地悪をしてきたんだけど、そいつは特に性悪で意地悪を本当に楽しんできたのだけど、あくまで彼女の真似をしているだけなのは分かったから僕の敵では無いことは分かっていた、けど、とはいえ、ひっじょうに鬱陶しかったのは違いない。そっちの子は普段は全然ませていて、その子もメガネで、きッとした目をしていて、白くて、少し背が高く、いつもヒラヒラしたロングスカートだった。

 体育の授業の時もひどかった。彼女は体育測定では僕の成績をわざわざ聞いてきて、自分の方が上だと知ると「情けない!」「女子より低い!」「やーい女の子!」とバカにされて僕は悔しくて泣くしかなかった。ドッジボールでは、なぜか彼女は僕ばかりを狙ってきた。プールでも僕は泳げないのに彼女に水中に引きずり込まれて、本当に溺れそうになって死ぬかと思った。僕は本当に嫌だった。その頃はその子のいじめが本当に嫌だった…。それ以外は学校で嫌なことなんてなかったのに。

 僕は勉強はそれなりに出来て、絵がうまかったから、先生の信頼も厚く、今度の絵も何かに入賞して廊下に飾られていると言うので友と一緒に見に行くと、それを見つめる目があった。誇らしげに…?あの子だった。あの子は、僕に気づいて、そして驚いた顔をしたかと思ったらおもむろにカバンで殴ってきた。カバンはうまく腕でブロックして防げたけど、文句を言う前にあの子は走り去って行ってしまった。残された友と彼女の連れはそれをみて腹を抱えて笑っていた。何とかしてくれよって言う…。

 中学校に上がる前の3学期はもうみんな子供じゃなくなっていて、すでに大人になった気分だった。
 授業中男子が教室の後ろで馬鹿騒ぎして先生を困らすようなこともしなくなっていた。男子たちもバカなふりをしなければ女子の興味を引くことが出来ない、と言うほどにシャイじゃなくなっていたから。それは僕も同じだった。卒業も近づいたある小春日和の昼の授業開始前に、隣の席の、一番人気で美人で優しい、男子の間での通称「マドンナ」と僕と友とで気軽におしゃべりしているという状況になった。どんな流れでそうなったか分からないけど、爽やかなそよ風が吹いていたのを覚えている。僕はその子のことはこの数年知ってからよく隣や前後の席になっていたからずっと好きではあったししばしば見惚れることはあったけど、自分にとって一番好きな女子なわけではなかったのだが、しかしどんな流れでそんな話題になったか分からないけど、彼女は僕のことを「去年は好きだった」と言って微笑んだ。マドンナが、学年で一番の美女が、僕のことを好きだったなんて。ていうか、女子に好きだと言われたのは初めてだ。ていうか、友がそのマドンナのことをずっと好きだったのに。友が冷静なふりを努めつつ小刻みに震えていることが伝わってきたので、僕はがむしゃらにその話題を切り上げさせて授業の準備に取りかかったので、みんなそれに従ったけど、後味が少し悪いままになってしまった。

 中学生から大人へ

 中学では友は私立に行ってしまったのでもう滅多に会えなくなってしまった。それ以外の小学校の殆どは同じ中学に上がった。中学はつめえりの制服が格好良く、女子はセーラー服で、皆大人びて見えた。特に上級生の女子が何かのイベントの説明で教室に来た時、その大人っぽさに見惚れたことがある。僕は異性を意識するようになっていた。それから、僕はクラスのちょっと可愛くて美人で、話しかけるといつも気さくに対応してくれるポニーテールの隣の席の女子を好きになった。またクラスメートの秀才と趣味で一致し、校内外でよく遊ぶ親友が出来た。彼は見た目は普通だが僕以上に秀才な上にスポーツも結構できるので、ある日の放課後に一緒に外を歩いているだけで彼がクラスの女子からキャーキャー声援を送られているのを見て僕は嫉妬したわけではないのだが、女子って成績とか男子のスペックを結構見てるんだな、と感心したことを覚えている。

 あのいじめっ子、明日香も、もちろん同級生だった。クラスは違ったけど、相変わらずあのもう一人、Rさんも一緒だった。Rさんは元から成績ではライバルだったが、中学ではすでに首席になっていたにも関わらず、一緒に僕を狙い撃ちしてきた。けど、僕はもう対処方法はわかっていて、うまくかわすことが出来るようになっていた。それがある時あまりにしつこいから(休み時間中追いかけ回されてた)、ちょっとムカついてはっきり言ってやった。

「なんで俺のことばっか追いかけるんだよ!何も悪いことしてないだろ!?」

 すると明日香はピタと止まり一瞬驚いた風だったが、すぐに元の凶暴な、いや無邪気な顔に戻って高い声でこう言った。今思えば、あれは一生懸命に、だったと思う。

「な、なんで俺のことばっか追いかけるんだよ、何も悪いことしてないだろって、…だからするの!」

「わ、わけ分からない。とにかくやめろよな!」

 僕はその場から逃げ出そうとも考えたが、ここはもう決めなくてはならない。一生このままなんて嫌だ。踏みとどまって、そして彼女の反応をじっと待って睨みつけた。
 すると彼女は、無邪気で強気な表情が一瞬緩んだかと思うと、なんと突然踵を返して、階段を降りて行って消えてしまった。

 僕は唖然とした。わけ分からない。取り残された僕と、隣にRさんがいた。Rさんは彼女の消えた方を腕を組んでしばらく見ていたが、フゥとため息をついてから、横目で僕をきッと見て、言った。

「分からない?明日香ね、あなたのことが、好きなのよ。」

「え!?」

 その場では、もはや唖然とするしか無かった。

 それ以来彼女のいじめはぱったり途絶えたが、僕が引越しをすることになって、突然その関係は幕を閉じた。クラスも違ったし、彼女に引っ越すことを伝えられなかったのは少し心残りだった。いや、そんな義務も義理も無い、と思い返すたびに自分に説得を試みるも、心残りだった。

大人へ、それから

 転校した先は、普通だった。田舎だったし、何か満足に楽しめない自分がいた。中学を卒業し、高校も何事もなく卒業し、しばらくして僕は地元に帰ってきた。帰ってきたら懐かしく嬉しくなってしまい、小中学生時代の当時近所だった友人の家にいきなり遊びに行ったら出てきた彼に、「なんで遊ぶんだよ?お前ホモなの?」と言われて愕然とした。僕たちは、もう完全に大人になっていたらしい。気が付いていないのはいつも僕だけだった。

 大学も行かなかったから、将来も決めかねている中、バイトをしながら闇雲にいろんなワークショップなどで勉強して資格を取ったりして、そして自動車免許も取ろうということを思いついた。地元の教習所に通っている間、昔の知り合いに会えないかな、と言う気持ちは確かにあった。その願いは思わず、叶った。

 教習所の帰りがけに、あの子にばったり会ったのだ。

 明日香だ。

 彼女は、以前と変わらない癖っ毛のボブで、肌は白くて背は小さくて、目をまん丸に開けて驚きつつ、明らかにはにかんで、それでいて嬉しそうだった。僕は彼女を観察するためまっすぐ真剣な目で見つめていたと思う。

「…久しぶり。明日香も通ってるの?」

「…うん。そう。Aくんも?Aくん、帰ってきたの?」

「うん、そうなんだ。またこの町に、帰ってきた。…今日はまだ受講するの?」

「…ううん、も、もう帰らなきゃ。じゃあね。」

 すると彼女は、無邪気な表情が一瞬緩んだかと思うと、突然踵を返して、階段を降りて行って消えてしまった。

 あっという間の再会だったから、追いかけることもできなかったし、僕はまだしばらく教習所には通っていたというのに、二度と会うことは無かった。

 その後、中学の時の秀才の友にその話しをしたことがある。ああ、彼女はお前のことずっと好きだったらしいよ、とさらりと言われた。

 彼女の連れだったRさんに駅でばったり会ったことがある。その時も、聞いてないのにわざわざ教えてもらった。「明日香ね、引っ越したの。結婚してね。」

 その時のRさんは僕に対してちょっと厳しい顔をしていたように思う。

 あれから十年ほど経って僕は都会に出て働き家族もできて、色々あるけどまあ幸せにやっているのだけど、ふと思い出すことがある。

 教習所の帰りがけに会った君は、素敵な女の子になっていた――。

 気が付いていないのはいつも僕だけだった。

〜結〜

あとがき

昔の、とある思い出を、視点を変えてちょっとアレンジして書いてみました。
よくある話し、ささやかな運命の交差点…。

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楽しい哀しいベタの小品集 代表作は「メリーバッドエンドアンドリドル」に集めてます

きゃっ
40

ベタココッテ

私は熱帯魚ベタ、美しいヒレはご主人様のためだけにあるの。他の大きなヒレのある魚は許せない、ここは私だけのアクアリウム。代表作はマガジン「メリーバッドエンドアンドリドル」に。お気に入りは「VeryBest」「誰よりも」に。フォローアンフォローブロックスキ嫌い引用コメント御自由に。

ベタのショート集

散文詩じゃ無いものを。ていうか散文詩が何なのか本当に分かっていません!内容は、エッセイ、自伝的なもの、創作的なもの、作曲した音楽の紹介その混合等様々ですが、特定な自白は控えさせて頂きます。
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コメント22件

フジミドリさん
「神さまはハンドメイドで」の方なのですね??まあでも、書き方は同じですね!どれもいいって、とっても嬉しいです。また書きたくなってきますね…!!
コネコさん
イラストを褒めて下さって有難うございます!
コネコさんの記事「宇宙のすべてを支配する数式」といえば、「宇宙のすべてを支配する数式をパパに習ってみた」という本が女子高生にも分かるように説明してあって面白いんですよ!コネコさんも宇宙とか物理学とか好きなんですか?!一緒ですね!!ナカーマ
その本、私も知っています!
近々読みたいですにゃん🎶

ナカーマと言って貰えて
嬉しいですにゃん(^-^)人(^-^)🐈
チャプタータイトルが、ひどいですよね。センス無い。苦手である。もともと章立てで考えて無いというのもあるけど。だれかtasukete w
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