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佐那河内暮らし探訪第2回「下水道」第1部

今回はテーマが広いので、2回に分けて書きます。第一部は目次の1と2です。
目次
1.テーマ選定にあたって
2.下水処理の基礎知識
3.佐那河内の下水処理ポテンシャル 満足度
4.下水から見えたもの
5.エンディング

1.テーマ選定にあたって
徳島県の南の牟岐町というところに出羽島という小さな島がある。連絡船で片道10分200円ちょっとで渡れる釣り客に人気の島である。昔は鰹漁でにぎわい1000人ほどの人が暮らし、島には小学校もあったそうだが現在は20人ほどが漁業を中心にひっそり暮らしている。とりたてて観光スポットらしきものは何もない島だが、何故かこの島は人気がある。(徳島の移住者の皆さんはよくご存じの島である)
この島にずいぶん前に移住しゲストハウスを経営しているN氏がいる。私も移住先が決まる7年前にこの島を訪れた。なにせ小さい島でクルマと言えば大八車のみ。荷物はみんなこれで運ぶ。なかなか本題に入れないがもう少し脱線にお付き合いいただくと、このNさんが営むゲストハウスの中の写真を見て驚いた。実は彼はサーファーでこの島にいつ訪れるか分からないBig Waveを待つために島に移住したのだ。そのBig Waveの写真ときたら、おそらく説明無しで見せられたら絶対に日本だと思わない。映画Big Wednesdayの舞台のノースショアかと思ってしまうぐらい見事な波に乗っているNさんの写真が飾ってある。これでご飯三杯は固い。
さて本題に戻ると、この小さな島でも当然毎日生活排水や屎尿はでる。それをどのように処理しているか疑問を持ったことで私は下水を意識をするようになったのである。都会に住んでいると自分の生活排水がどこに流れてどのように処理されているか気にもしなかったが、このような完全に閉ざされた島ではどのように処理されているのか自然と興味を持ってしまうのである。Nさんの説明では、全戸汲み取り式で、2か月に1回ぐらいの頻度で、島にある唯一の自動車(軽自動車バキュームカー)が格納庫(サンダーバードの格納庫ようかどうかは定かではないが)から登場し各戸の汚物を集めるらしい。そしてそれを船に積みかえて本土に運ぶと、また別のバキュームカーがそれを船から吸い上げるそうである。風呂や洗濯、炊事などの生活排水は地面にしみこませているそうである。
ことほどさように、人間が生活していく上では上水と同じように必ず必要となる下水の処理について調べることが第2回テーマにふさわしいと考えた。今回はテーマがテーマなので、食事中の方は読むことを控えることをお勧めします。

2、下水処理の基礎知識
せっかくの機会なので、下水処理の概要をシェアしておきたい。

(1)下水とは
まず下水に含まれるものは3つある。一つは、人間の生活で必ずでる「し尿」(公衆衛生)、二つ目は、これも生活で必ずでる洗濯やお風呂、炊事などの「生活排水」(環境保全)、最後に「雨水」(防災)である。下水というとどうしても「し尿」に注目がいきがちだが、特に都市部などでは「雨水」処理は防災という観点で非常に重要となる。
東京でもため池山王あたりは、すり鉢状の地形から雨水が集まりやすく、ゲリラ豪雨が降ると地下鉄の駅は防水シャッターを閉めないといけないぐらい危険な状態になるのである。
20年以上前にインドネシアのジャカルタに市場調査で出張したことがある。その目的は何故インドネシアでは最低地上高の高いクルマの人気があるのか理由を知るためであった。クルマに詳しくない人のために少しだけ解説しておくと、最低地上高とは道路とタイヤ以外の車体の下の部分の隙間がどれぐらいあるかということで、悪路を走るクルマなどはこの隙間が大きくないとクルマの底が地面に擦るのである。
実際にジャカルタに到着すると、高層ビルや幅の広い舗装された道路など近代的な都市の景観に感心したのだが、5分ほど市街地を走るといきなりスコールのような大雨(雨季には、ほぼ毎日夕方ごろに降るらしい)が降り、瞬く間に目の前の道が水深30センチぐらいの川になるのである。今はもうさすがにこんな状態ではないだろうが、当時はそのあたりにあるため池のようなところからも水があふれだし大変なことになっていた。これが車高の高いクルマが支持される大きな要因であった。この雨水処理が大都市のインフラの重要な部分であることを体感した。その当時のインドネシアは高層ビルや道路は整備できても、インフラまでの投資が行き届かなかったのである。

(2)下水の処理方法
次に、現在ではこの3つの対象となるものをどうやって集めて処理するかがポイントである。
      A汲み取り式 B単独浄化槽 C合併浄化槽 D公共下水道
し尿処理     〇     〇      〇       〇
生活排水                  〇       〇
雨水                            〇

おおまかにわけるとこの4つの下水処理の方法がある。
AからCまでは、土地に余裕のある地域(分散型居住地域)で、公共下水道は人口密集地にあり各戸からでた汚水と生活排水を下水道管に集め、下水処理施設でまとめて浄化し放流している。まあ早い話が人口が増えて都市に集中した結果、各家には浄化するスペースもなく下水を集める下水道ができたということである。Bの単独浄化槽というのは、現在では法的に認められていないので、皆さんはACDのいずれかにお世話になっている。
この記事を書いているときも、徳島県内の徳島市や小松島市の下水道計画見直しのニュースが入ってくるが、下水道は上水道よりも設備の維持費用がかかり、東京や大阪などの大都市部でなければ維持できないため計画の見直しが各地方都市始まっている。

(3)一言で下水道と言っても
これまたタイムリーにNHKNES WEBで「徳島県は下水道普及率21年連続 全国最低 普及率18.7% 全国平均80.6%を大きく下回る」というニュースを流していた。徳島県のホームページを調べてみると66%になっている。(まあ順位が全国最下位であることは変わらないが)これは何が違うのか調べてみると?なんと管轄の省庁が違うことによる統計上の差である。下水道は国土交通省管轄、佐那河内村などの農業集落排水事業は、農水省、コミュニティプラント(下水処理施設の一つ)は環境省管轄となっている。結局やってることは同じでも呼び方が違うだけのことである。あー日本らしい。したがって、徳島の場合、国土交通省の推進している下水道の普及率は18%だけど、それ以外の下水処理方法が48%もあるということ。ニュースの見方もよく注意しないと勘違いしますよ。

(4)下水処理の流れ
今回も徳島市中央浄化センター(徳島で一番古い施設)とアクアきらら月見ヶ丘(徳島県で一番新しい施設)を見学してきた。水道の施設見学の時もそうだったが、普段は小学生が社会科の見学で訪れることはあっても、こんな大人が見学を申し込むことはなく、見学を受け入れていただいた方々に非常に興味を持たれたのが面白かった。インフラ見学は勉強になるし、無料だし大歓迎してもらえるのでお勧めである。デートや家族サービスでいかがでしょう?
さて(2)で説明したB~Cの各戸で下水を浄化処理する場合は、処理した下水は家の近くの排水路に直接流すことができる。Aの汲み取り方式は、溜めた汚水をバキュームカーで定期的に集めてもらい下水処理施設に持っていかれるのでわかりやすいが、Dの下水道は、下水を下水処理施設までパイプを通して運ばなければならないという非常に大変な役割がある。下水が途中で詰まってマンホールから汚水があふれだしたら街中パニックである。
下水道管も水道管と同じように道路に埋設されている。それも基本的には1%の勾配でなければならないそうだ。勾配がきつ過ぎても緩すぎてもだめ。1%が長年の試行錯誤から得られた根拠に基づいた数値だそうである。勾配が緩い場合は渋滞が起こることは想像しやすいが、少々勾配がきつくても大丈夫ではないかと素人は思いがちである。だが勾配がきついと水分だけが先に流れてしまい固形物が管の中に残ってしまうのである。この絶妙な勾配が1%である。これ試験にでるから覚えておくように。
下水道管の話はまだまだ続く。下水処理施設というのは、街中のそこら中にあるものではない。もちろん匂いの問題もあるし、地域住民の理解が得られないと作れない大きな施設である。したがって、大変遠いところから下水を集めなければならない。ここまで書けば、アタマの良い方はすぐに気が付くと思うが、わずか1%の勾配でも何キロにもわたって長い下水道管を埋設するとどうなるか。当然どんどん深くなって下水処理場まで着くころには海底よりも深かったなんてことになりかねない。でどうするかというと、下水道管がある程度の深さまでなるとポンプで地表近くまで吸い上げるのである。これによりまた位置エネルギーを得た下水たちは自然流下で下水処理場へと向かって流れているのである。
さらに川や運河などをまたぐときはどうなるのかという疑問を持った方はもっとアタマがキレキレている。橋のたもとを注意してみると下水道管が橋のすぐ下を通っているのをみかけることがある。橋の下は船も通るので橋の道路面に近いところを通さなければならない。道路の面と近いところまで埋設した下水道管を上げるためには、そこでもまたポンプアップが必要となるのである。下水は運ぶだけでも電気も設備もたくさん必要となる。
 下水道管を使っている地域は大半が自然流下+ポンプアップ式ではあるが、佐那河内村や徳島県内でも一部の地域は真空方式という特殊な方式で下水を集めている。これは一か所の施設で管の中を真空にして下水を吸い出すのである。これは土地の形状などで下水管を深く埋設できない場合などに用いられる技術である。

(5)汚水処理の仕組み
非常に苦労して集めた下水は、下水処理場で浄化され川や海に放流される。以下は下水処理施設を見学に行ったときに頂いたパンフレットの内容を転載する。
「集められた下水がまず最初に沈砂池というところで、土砂などを沈殿させたり掻き揚げたりして除去します。そのあと最初沈殿池で小さな汚れを沈殿させ除去します。次に反応タンクで微生物が汚れを食べて汚水を浄化してくれます。最終沈殿池で汚れを食べて大きくなった微生物を沈殿させ、処理水と分離します。最後に処理水を塩素消毒してから川や海へ放流します。汚水処理で発生した汚泥は、処理施設で焼却され焼却灰は資源としてセメント原料や埋め立てに再利用します。」令和3年度版 徳島市の下水道より
「最新の設備のアクアきらら月見ヶ丘では、この工程に加え富栄養化(赤潮など)の原因となる窒素やリンの除去も行うため、嫌気無酸素好気法による高度処理を行います。さらに消毒は塩素を使わず紫外線で消毒し海水と混合したのち放流しています。」アクアきらら月見ヶ丘の概要より

以上で#1を終わります。#2では佐那河内の下水処理ポテンシャル 満足度と、下水の勉強から見えたもの、エンディングについて書きます。

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