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神さまなのはお客様だけではない


私は自分の顧客だけでは仕事が足りない時には、マッサージに限っては登録しているエージェント経由でも仕事を受けている。そうして出会ったクライアントから、施術後に次回からはプライベートでお願いしたいと言われることが良くある。

厳密に言えばエージェントのクライアントを横取りしない、つまり個人の連絡先を教えない、という契約があるのだけれど、私は断ったり説明したりするのが面倒なので、名刺が欲しいと言われればどうぞと渡している。というのも、エージェントは相場よりずっと安い価格設定をしているので、エージェント経由で出会ったクライアントがわざわざ相場相応の価格設定をしている私個人のクライアントになることはまずないから。

それでも始めたばっかりの頃はあわよくばという気持ちもなくはなかったけれど、便利な方法(エージェントのアプリ)で予約した人が、わざわざ個人的にメールしてとか面倒なことはしない、ということに割とすぐ気付いた。例えば、良いUberドライバーに当たって次は直接お願いしたいと思って連絡先を聞いても、なんだかんだでUberのアプリからその時近くにいる車を頼んじゃうのと一緒だと思う。大都市では選択肢があり過ぎるから、人は怠惰に、時に傲慢に、なりやすいのかもしれない。

それでもたまにそうした経緯で名刺を渡した人からメールがやってくることもある。けれど私の施術料を伝えると、ほぼ連絡が途絶える。または、しばらくしてエージェント経由で再予約が入ることも。そしてそういう反応は当然だし、全然ありだと思っている。

ところが、極々稀に、なんでエージェント経由より高いの?とクレームがつく。または、もう一回その辺考慮してから連絡ちょうだい、なんて返事がくることもある。嫌ならスルーしてくれればいいのに。

彼らの思惑はこうだ。
エージェントが中間マージンを私達セラピストから取っているのは周知の事実。だからセラピストと直接やり取りができれば、その中間マージン分をクライアント本人とセラピストで山分け、つまりセラピストはエージェント経由より高い収入が得られ、クライアントは安くマッサージを受けられる、つまりWinWinじゃね?というのが、彼らの言い分。私も個人経営をしてなかったら、そう思ったかもしれない。

でもね。
確かにエージェントには、かなりのパーセンテージを手数料として払っていて、セラピストの実入りは少ない。代わりに、何度にも渡るクライアントとのメールのやり取りも、予約のリマインダーも、料金の決済も、キャンセル時の面倒なことも、問題発生時の対応も、宣伝も、私は一切関わらなくていい。ただ、エージェントの指定したクライアントに施術を提供するだけ。対プライベートのクライアントでは、当然この細々としたこと全てが私の仕事で私の責任なのだ。

さらに言えば、個人セラピストは提供できる施術数に制限がある。薄利多売をしようとしたら、サービスの質が下がる、というか身体を壊す。エージェントは、多少安くしても数を売れた方が断然儲かる。だからどうしたって、個人が企業と値段だけで勝負しようとしたら敵わないのだ。個人商店にアマゾンで同じものがずっと安く売ってると文句言ってるようなものだ。だったらアマゾンで買えばいい。

そんなわけでその手のクレームには、「あなたの言い分はよく理解できるし、エージェント経由で予約してもらっても大歓迎ですよ」と返信する。プライベートのクライアントはもちろん増やしていきたいけれど、誰でも良い訳ではないのだ。

神さまなのはお客様だけではない。みんなひとりひとりが神さまと同じくらい尊い存在だ。サービスを提供する側だってそうなのだ。お金を払うほうがパワーを持っているわけではない。お金というエネルギーとサービスというエネルギーを交換しているだけなのだから。

安いことを求めるのが悪いわけじゃない。けれど、たまにはふと立ち止まって、目の前そのものの背景に思いを巡らせ、相手に敬意を払うことは必要なんじゃないかと思う。


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