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マルガサリMarga Sari 大井さんにQ&A

今回劇場でも生演奏を担当されました、マルガサリMarga Sari 代表の大井さんにいくつかご質問してみました!!ガムラン初心者&三輪眞弘ファンにはとてもためになる機会でした。大井さん、ありがとうございます!!

Q 今回、劇場で実際に音を出すのはおひとりですが、ガムランではあまりないそうですね?

 そうですね、ガムランは基本的に複数の楽器のアンサンブルで演奏する音楽なので、少なくとも伝統音楽の中では、一人だけで演奏するということはありません。ただし、今回は舞台に投射されている4名の演奏者の映像とリンクして演奏をしていまして、バーチャルな意味ではひとりではないのかもしれません。
 ちなみに今回、舞台上では私一人で4種類の楽器を演奏したのですが、実はこれはガムランの楽器の一部分に過ぎません。フル編成のガムランだと20種類近い楽器がオーケストラのように演奏され、豊かな音のうねりを聞くことができます。

Q そもそもガムラン演奏するというのは神様への捧げ物と伺いましたが、神聖さが伴うのでしょうか。演奏をする際に気を配っていらっしゃる点はありますか?

 私もきちんとインドネシアの思想や宗教観を理解できているわけではないので、受け売りなのですが。私がガムランを習っている時には、ガムランは人間のために演奏する音楽なのではなく、神様に向けて、また神様と交信するために演奏するものであって、お客さんはその交信に立ち会っているだけなのだ、という風に聞いてきました。なので、演奏する際には心を静めて取り組むのはもちろん、また、ガムランの楽器自体もとても神聖なものなので、跨いだり雑に扱ったりしないように気を付けています。今回使用した中では、一番大きな銅鑼のような楽器「ゴン」は最も神聖な楽器でして、劇団の方にお願いして毎公演ごとにお供え物をご用意いただきました。

2023年2月KAAT公演でのガムラン楽器たち

Q 指揮者や音頭を取る人がいないようですが、曲の進め方はどうするのでしょうか?
楽譜というものはあるのでしょうか?

 伝統的なガムランには、いわゆるオーケストラの指揮者のような、全体を支配するリーダーのような人はいません。ただ、その時その時にアンサンブル全体を引っ張っていく役割を持つ楽器はあり、代表的なものとしては「クンダン」と呼ばれる太鼓がリズムをコントロールするシーンが多くみられます。ただ、それもクンダン奏者の一存で演奏がすべて決まってしまうのではなく、クンダンの出すサインに対して他の楽器がどう反応するかに応じて、合議的に曲が進んでいくようなシステムになっています。
 また楽譜に関しては、本来ガムランは口承文化というか、一子相伝的に伝えられていく音楽のため、記譜というものはありませんでした。ただし近年では数字を使った楽譜を書くようなこともあり、特に私のような海外のプレイヤーはそういったものを通じてガムランに触れることも多いのではないかと思います。
 今回の三輪眞弘さんの作品は、2進数の計算に従って演奏される「グンデル」という楽器が曲の骨子になっているのですが、この演奏内容に関しては明確には楽譜化されておらず、演奏の方法=アルゴリズムだけが三輪さんより伝えられておりまして、ある意味でガムラン的と言えるのかもしれません。

Q 舞踊や影絵との演奏もありますが、今回の演劇での演奏についての参加はいかがでしょうか?

 これまでも影絵や紙芝居など、色々なパフォーマンスとコラボレーションをしてきたことがあり、そういった何とでも融合できる包容力こそがガムランの魅力の一つだと思っています。
 演劇の伴奏音楽でのコラボレーションも以前にも一度経験したことがあるのですが、その時は録音の提供だけでしたので、実際に演奏者として一緒の舞台に上がるのは今回が初めてです。地点の演劇は以前より拝見しておりましたが、同じ舞台にあがるとやはり俳優のみなさんの熱量と世界観がすごく、気後れしないように頑張っています(笑)。

Q マルガサリと今回の音楽監督として参加された三輪眞弘さんとはお付き合いが長いそうですね?

 三輪さんとの交流がはじまったころ、私はまだマルガサリに入団しておらず、具体的なことはあまり知らないのですが、最初のコンタクトは2007年に三輪さんに「愛の讃歌」という作品をつくっていただいたことだと聞いています。ちなみに、この「愛の讃歌」こそが今回の舞台でも使用されている「4ビットガムラン」の原型となっておりまして、今回の作品の中にも様々な片鱗を聞くことができます。
 そして私がマルガサリに参加したのがたしか2010年なのですが、その翌年2011年に、サントリーホールにて「作曲家の個展2011―三輪眞弘」という演奏会が行われまして、その際に三輪さんから「『愛の讃歌』を演奏してほしい」とお声掛けいただいたのが、私と三輪さんの初めての出会いでした。
 その後、「愛の讃歌」を再演する機会が何度かあるなど少しずつ交流は続いていたのですが、特に関係が深まったのは2018年からですね。この年、三輪さんから突然「IAMAS(情報科学芸術大学院大学)でガムランを学びたいので、楽器を貸してもらえないだろうか」と、マルガサリにご相談がありまして、そこから3年間、IAMASの「タイムベースドメディア・プロジェクト」という取り組みでご一緒することになりました。このプロジェクトの中ではIAMASの学生さんと一緒に演奏をしたり、三輪さんの新作を初演したり、と様々なイベントを行いました。特に2020年に開催された配信イベント「三輪眞弘祭」は、夜の11時から深夜2時にかけて、岐阜のサラマンカホールを会場に、舞台の上では三輪さんの演算に則って6名のパフォーマーが歩き回り、その真ん中ではダンサーが白い粉を振りかけられ続け、また6羽の鶏が放し飼いにされ、そして私たちはそのパフォーマーを「楽譜」と見立ててガムランを演奏する(曲名は「鶏たちのための五芒星」)・・・という衝撃的&伝説のイベントとなりました。
 その後IAMASからは楽器を返却いただき、一旦交流は途切れていたのですが、なんと今年度よりまたIAMASにガムランが設置されることとなり、今後も新しい展開が生まれそうでワクワクしています。
(註:今回の公演でも使用した碧水ホールの楽器をIAMASに置かせてもらう契約を結んでいる)

Q 今回三輪さんの新曲とのことでしたが、いかがでしたでしょうか?

 今回の新作の最大の特徴としては、映像とライブ演奏のコラボレーションという点があげられると思います。近年の三輪さんのガムラン作品は、先述した「鶏たちのための五芒星」の音楽システムをもとにしたインスタレーション作品「母音廻し、または遠隔音響合成のための五芒星」など、演奏者の身体性の有無ギリギリを狙うような作品が多いように感じているのですが、新作はバーチャルな身体4名とリアルな身体1名の合奏ということで、そんな三輪さんの実験の最先端なのではないかと勝手に想像しています。
 特に今回は、演劇作品のための音楽ということで演出と同時にクリエイションをしていったため、本番ギリギリまで音楽が変わるなど、スリリングな部分もありました。でも、そんなライブ感も含めて楽しい公演でした。

Q 今回使用されている楽器はIAMASから運び込まれたものだそうですね。それぞれの特徴を教えてください。

 今回使用した楽器は、滋賀県甲賀市にある「碧水ホール」というところからIAMASが借り受けているものです。碧水ホールは「日本初のガムランがある公共ホール」として知られており、この楽器も様々な形で地域の人たちに親しまれてきました。
 私の知っている限り、日本にあるジャワガムランのなかでもなかなか豪華な楽器で、サイズも大きく、装飾も美しいのが特徴だと思います。なお、一部のガムランファンからは「今、日本で一番良い響きのするガムランかもしれない」という声も聞かれます(笑)。
 ちなみに、ガムランの楽器は製造後100年以上経つまでにだんだんと音が良くなっていくと言われているのですが、この楽器は2001年の製造でまだまだ若者。なのでこれからもっとリッチで優しい音になっていくのかもしれません。

                           (撮影:松見拓也)

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