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はるまきごはん3rdアルバム「ふたりの」 感想&世界観整理

※お借りした画像はニコニコ動画版「再会」のスクリーンショットです。

はじめに

 お久しぶりです、初めましての方は初めまして、B,Fと申します。
普段はボカロ曲を聴いたり曲紹介ニコ生をしたりDJをしたりしている者です。

早速ですが皆さん、「ふたりの」ご購入されましたか???

 今回のnoteは「ふたりの」初回限定版に付属しているアートワークや、「ふたりの」の結末に関する重大なネタバレを含むものです。もしご購入されていない方やネタバレNGの方は、今すぐブラウザバックするか下記の特設サイトのURLからお好きな通販会社で初回限定版をご購入ください。

アルバムクロスフェードはこちらから

 通常版を買われた上でこのnoteを読まれている方、またその結末に満足されている方は、もしかしたら初回限定版のアートワークを読まれない方が良いかもしれません……。それでも、どんな形であれ本当の「ふたりの」の結末が知りたい方。是非初回限定版を改めてご購入くださった上でこのnoteをお読みください。


※ここから先はネタバレを含みます、ご容赦ください。


登場人物・世界観

 この物語の主要な登場人物は、2人と1台です。以下アートワークから引用。

ナナ NANA
真面目で努力家だけど上手く行かない事が多い。お父さんから貰ったお掃除ロボ「マカロン」を飼っている。
好きなもの:夜

リリ LILI
わりとなんでもこなしてしまう天才肌。お金持ちの家に産まれた。
好きなもの:おにぎり

マカロン MACARON
ナナの部屋をお掃除し続けてきたお掃除ロボ。
好きなもの:ハッピーエンド

 より詳しい人物描写をすると、「ナナ」は肩より少し上程度の長さである藍色の髪をハーフツインテールにした桃色の瞳の少女であり、「リリ」は腰まで伸ばした豊かな金色の髪に大きなリボンをつむじ辺りに結う藍色の瞳の少女です。「マカロン」には詳しい色彩描写はなく、ルンバのような自律式お掃除ロボとして描かれています。
 また2人と1台のスペルをアルファベットで代用していますが、本来はアルファベットによく似た私たちには未知の言語です。と、言うのもこの「ふたりの」の世界は私たちの世界の延長線上にあるものではなく、はるか遠い銀河にある惑星の物語なのです。よって文字は私たちが何となく理解できる、そんな気がする未知の言語のものとなっています。

 以下、改めて世界観を整理します。

 「ふたりの」は私たちの暮らす地球ではなく、はるか遠くの青い太陽に連なる星系、深い青に輝く星の物語です。この星に住まう人類は「大人」と呼ばれるブリキの人形のような姿をしている者が大半を占め、「ナナ」と「リリ」のような、私たちと変わらないように見える「こども」と呼ばれる者は少数です。少々ややこしいですが、「大人」の子供も「大人」と同じ姿をして産まれてきます。また空には鯨や蛇のような形をした大きな生き物「オリジン」が住んでおり、「大人」たちとは対立関係にあります。約束のMVに登場する鯨もこの「オリジン」ですね。

 そしてこの星にはいよいよ終わりの時が近づいている、そんな終末世界がこの物語の背景です。

 またこの星には「北の都」と「南の都」の2つの都が星の反対側同士に存在しており、それぞれ別の王がその都を支配しています。文明が最高潮に達していた頃には、2つの都を繋ぐ星を貫くトンネルの掘削計画もあったそうです。しかし星の終わり近づく中、人類の半分は管理され、もう半分は見捨てられていました。アートワークには明記されていませんが、恐らく管理された人類や富裕層・支配層は「北の都」に、残りの人類は「南の都」で見捨てられたまま住んでいるのでしょう。それを表すように、この星の歴史は「北の都」でのみ共有され、見捨てられた人々は立ち上がり、そして倒れていったと記されています。

 都に住む支配層を中心に、この星を離れるため沢山の宇宙船が造られ、その発着場である高い塔が各地に建てられました。しかし実際に船が次の惑星に辿り着いたかどうかは知られておらず、「塔よりも高いところに暮らしている大きな蛇が船を食い破った」、「船がストラトスフィアを越えたあたりで燃え上がった」などという噂が囁かれるだけとなっています。


収録曲の時系列整理・感想

 アルバムに収録されている曲の内、直接物語に関わるものを時系列順に整理します。文章はアートワークより引用。これらはナナ視点のものとなっていますので、動画もナナ視点のものを先に貼ります。


・Tr.02 「約束」(ナナ・リリ:7歳)

ある晴れた日、ふたりはなんとなく出会いました
はじめて出会った、自分と同じ姿をした人間は
黄金色の髪に、藍色の瞳をしています

どうしてそんな色なのかと尋ねると
藍色の瞳の子は言いました
「わたしがあなたじゃないからよ」

その意味はわからなかったけれど
大人達からは聞いたことの無い言葉だったので、嬉しくなりました

ふたりはなんとなくずっと、一緒にいると思いました
でも、違いました

「藍の鐘でまた会おう」
 よく晴れた青空、入道雲がもこもこと地平線に積み重なっていた夏の日だったと思う。マカロンを連れていつもの草原を歩いていたら、見慣れない姿の少女を見つけた。わたしは初めて自分と同じ姿をした人間に出会ったのだ。大人に囲まれて育ったわたしにとって、それは忘れられない出会いとなった。
(とある桃色の瞳の少女の手記より)

 この物語の始まり、ふたりの出会いと別れに当たる「約束」。ふたりは「大人」だらけの世界で初めて同じ姿をした人間に出会います。この星の人間は私たちよりも脳の発達が少し早く、割と達者に喋り相手の感情を理解できるところがあるそうで、私たちの想像よりも鮮烈な出会いであったでしょう。舞台は恐らく「南の都」、つまり見捨てられた人類の住まう場所です。これはナナが北の都へ行くのがもっと先の話であること、引っ越すのがリリであることから読み取れます。

 恋のコの字も、大人のオの字も知らない無垢なふたり。故に世界で一番穢れなくいられ、その約束はひとつの歪みもなく純粋であるのです。そして流れ星の下で交わした約束の内容は、恐らくアートワークに記されている「藍の鐘でまた会おう」であると考えられます。藍の鐘とは宇宙船の発射音ですが、この時のふたりはまだ知る由もありません。
 また歌詞では「こどものままでいられるならば もう一度どこかで巡り合う気がした」とも語られています。もしかしたら「こどものままでいよう」というものが約束の内容なのかもしれませんね。

 その後ふたりは二度と会うことがありませんでした。アートワークやCDジャケット裏の手紙の内容的に、離れ離れになった後も暫くは文通をしているようでした。しかしリリのお家柄のせいか権力闘争か、文通すらしなくなりふたりは本当に離れ離れになります。
 幼い頃の淡い思い出とするには鮮烈すぎた。忘れてしまうには存在が大きすぎた。会えない中で思い出を縁(よすが)とし、互いへの想いだけが膨らんでいきます。そして約束の重みはどんどんと増していく……。

 はっきり言って地獄なんですが、どうしてここまで美しい景色を描くんですかね。動画が投稿された当時はまだシリーズが「再会」しかなかったので、始まりと終わりの美しさ・儚さ・やるせなさに染み入るだけで済んだのですが、物語の顛末を知った今はこの出会いの圧力にただ打ちひしがれることしかできません。


・Tr.03 「秘密」(ナナ・リリ:15~16歳)

七がもうひとつと少し増えた頃

心地の悪い眠れぬ夜に
鏡を見て知りました

秘密にしてしまいたくなる自分の姿を

大人になってしまったのだろうか
 都の大図書館の本を読むためには、たくさんの言葉を覚えなければいけなかった。わたしはなにかに突き動かされるように、ただ本を読み、この星と、あなたのことを考えていた。別に、本を読むことや考えることが楽しいわけではなかった。楽しくはないけど、好きだった。考えることは、どうしようもないほど強大な悲しみの前に立ちはだかってくれる唯一の救済だ。楽しいか否かだけしか、手を動かす理由を知らない大人がいるが、そんな大人たちは到底わたしを理解できないし、して欲しいとも思わない。
(とある桃色の瞳の少女の手記より)

 大きくなって、北の都にやって来たナナ。今まで知らなかった世界の歴史を知り、心の洞を埋めるように貪るように大図書館の本を読み文字を学ぶ生活を送ります。そしてある夜、鏡に映った自分が「大人」に近づいた姿をしていることに気づいてしまいます。またアートワークには服を捲り、顔と腹が「秘密」のMVに出てくる「大人」のようになったナナと、顔を覆って泣いているリリが描かれています。これが比喩なのか、それとも本当にブリキ人形のような「大人」に変わりつつあるのか、それは分かりません。

 キャラクターデザインの「秘密」部分では、「16歳くらいの思春期のふたりというテーマのキャラクターデザイン。秘密という楽曲だったので、フードでなんとなくベールに覆われて掴めない感じにした。」と語られています。このことからMV(特にリリと大人の結婚式やナナのクーデターのようなシーン)は16歳のふたりがどのような思いを抱えて当時を過ごしてたのか、ということを暗喩するものなのではないでしょうか。
(なぜなら「秘密」の段階でふたりが会ってしまっては「再会」という曲に繋がらなくなってしまうので……。)

 「信じてなんて無いかもね 愛してなんか無いかもね」「信じてなんて無いからね 愛してなんか無いからね」という歌詞から、ふたりはあの日心を囚われたあなたを思い続け、同時に約束や自分への想いなど残っていないだろうという思いを抱えています。けれど、もしかしたら「幼いふたりだけが暴けるのかもね」なんて思いもある。

 ここで何が言いたいかって言うと、恋のコの字も知らなかったふたりが愛を知ってしまったんですよ。あの日あなたに抱いた感情の正体を知ってしまい、その上で「信じてなんて無い」「愛してなんて無い」と言ってしまっているんです。だってずっと会っていないから、あなたは思い出の中にしかいないから。自分の抱える思いが本物なのかさえ分からないんです。

エッモ……つっら……。

 そしてこの想いはそれぞれ、次の曲でより深く描かれています。


・Tr.04 「ナナ」(ナナ:16~19歳) ※はるまきごはん版収録

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 この曲はナナからリリへの届かない想いを綴った曲です。言いたいことは大体他の部分で語ったので私のここ好き歌詞載せます。

「あなたになりたくて片耳に藍色をさげた あなたが見たら笑うかな笑ってくれるかな」
「あなたになりたくて いつからだろう口もきけなくて さよなら言わないだけで あなたは金色のシャンデリー」
「これほどの時間が経って世界はずっと止まっている」
「長い髪のろうそく 思い出を吊るそう 美しく見えるよ そりゃそうだわたしが選んだんだから」

 ゥ”ン”ッッッッッッ!!!!!!!!!!!

 囚われている、忘れられないでいるあなたを。思い出にいるあなたが褪せてくれない、寧ろ特別になっている。そんな呪いを片耳に下げて。なんという拗らせ……。
 ナナの方はどちらかというとまだ爽やかというか、虚無感が目立つのでさらっと聴ける印象があります。曲調が柔らかいし。


・Tr.04 「リリ」(リリ:16~19歳) ※VOCALOID版収録

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 こちらはリリからナナへの届かない想いを綴った曲です。同じようにここ好き歌詞置いておきますね。

「君に押し付けたイノセンスは 僕の代わりの夢のようです
生きてもいいと思った 死んでもいいと思った 傷つけないならなんでも良いと思った」
「大好きだった狂いそうなほど 何も話せなかった嫌われたくなかった
ただこの冷めた瞳を溶かすのは 君のイノセンスが僕を知る時だ」
「君の青い髪が僕のイノセンスだった
あの日大人のフリして逃げた馬鹿な僕を 許して欲しかった」
「ボロボロになったイノセンスで 僕を認めてよ」

タスケテ……タスケテ……

 好みで言えば完全にこちら、これは好きな女の話になるので割愛。
 貴族社会とまでは言わずとも上流階級の世界で揉まれたリリは、擦り切れて純粋性(イノセンス)を失ったと感じている。自分の失ったイノセンスを、記憶の中のまだ純粋なあなたに押し付けている。イノセンスを持ったあなたが変わってしまった私を知って落胆するのを恐れている。けれど薄々気付いている、あなたのイノセンスもボロボロに擦り切れていることを。

 叫ぶように切り裂くように歌われるこちらの曲は、聴くだけで辛かった。同じ拗らせでも、絶望感が強くて。

 どちらの曲も本当に素敵で胸が苦しくなるのでアルバムご購入の暁には是非歌詞を見ながらお聴きください。


・Tr.05 「彗星になれたなら」(ナナ:19~20歳)

もういっそ、彗星になれたならいいのに
 何も知らぬ彗星になれたならいいのに、わたしは本気でそう思った。ここらの海にはたくさんの海ホタルが、夜になると綺麗な青で光り出す。この場所を知っているのは、多分わたしだけだと思う。潮が引いている夜は夜光蟹たちが足元を歩くから、いつもその模様をひとつひとつ眺めている。昔、新月の夜にむこうの浮き島まで行った時、洞窟の壁に夜光蟹の背中に似た模様が描かれていた。昔栄えていた文明のものなのか、自然が生み出したものなのか・・・結局この星のことは調べてもよくわからない。もう、誰も興味がないからだ。
(とある桃色の瞳の少女の手記より)

 ここでナナの好きなものを思い出してください、彼女の好きなものは「夜」です。何故好きなのか、それは「あなたのあの黄金色の 髪が眩しすぎなくなるから」、「あなたの瞳が僕の泣いてるとこ 見えなくていいから」。

 色々なことに諦めがついてきたナナ、それでもあなたが忘れられなくて。忘れてしまうくらいなら、あの日ふたりで見た彗星に焼き尽くされたいと願います。大人にはやめた方がいいなんて笑われているけれど。

 恐らくですがもうこの頃にはふたりとも、互いを忘れる前に「死ぬ」ことを考えていたのではないでしょうか。「約束」から「彗星になれたなら」まで実に12年、膨らみ歪んだ想いを抱えて生きるには長すぎる月日です。「秘密」では愛してなんかないと言っていたのに、今は「夢のように愛して 愛のように夢をみて」なんて歌っている。この気持ちを愛だと認められるようになってもあなたはここにいない。……そんな現実に耐えらえるでしょうか。彗星にもなれないのならいっそ……。

 ところで他の動画投稿曲ではナナとリリ、ふたりの視点でそれぞれ描かれていましたがこの曲は一見ナナだけの視点のように見えます。しかしよく見比べると、はるまきごはん版ではナナのいるシーンが、VOCALOID版ではマカロンのシーンに切り替わっています。お気づきになられたでしょうか?(私はアートワークを読むまではるまきごはん版を視聴していなかったので気付きせんでした。)
 アートワークによると、はるまきごはん版MVは通常の時間軸ですが、VOCALOID版MVは再会の後ひとりになったマカロンがナナとよく来た海岸へ来ているシーンが混ざっているそうです。これが主要な登場人物が2人と1台であると言った所以でもあります。


・Tr.06 「夜魔」(ナナ:20~21歳) ※VOCALOID・はるまきごはん版収録

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そう夜魔に言いました

 「彗星になれたなら」と「再会」の、ほんのちょっとの間の話。ナナは公共機関も動かなくなり手紙を届ける人がいない中、リリに手紙を書き続けます。自身の絶望や憂いが形になった「夜魔」と会話しながら。

 「普通に笑って普通に泣いて 生きてみたかった それができないから僕はこうして夜魔と話している」、「無理して笑って無理して泣いて 普通の真似をした どれが本心(ほんとう)かもわからないから 夜魔と話している」と歌っており、また「上手く生きていけたのなら 歌も絵も詞もお前すらも いらなくなるってことなんだ」とも。

 ナナなりに普通に生きていこうとしたけれど、そんなこと出来なかった。無理をしている内にどれが本心かもわからなくなりつつあった。心の中に夜魔まで生み出してしまいます。絶望の中思い詰めていくナナの姿が伺えてただ辛いですね。曲の明るさと軽やかさがその重みに拍車をかけています。

 そして、そして……。


・Tr.07 「再会」(ナナ・リリ:21歳)

明くる日の夕景に、ピアノの旋律のような鐘が響き
高い塔から次々と飛行船が飛び立っていきました

大きくなったふたりは
その鐘の意味を知っていました

約束を果たそう
 エレベーターから見る景色は、この星の終末に相応しい薄紅の夕焼けに覆われている。乗り合わせた大人たちは、すっかり疲れ切った顔をしていて、お世辞にも居心地の良いものとは言えなかった。ガタガタと不規則な音をたてながら、わたしたちは塔の一番上へと選ばれていく。数十分ほどの時間が経った頃に、少しばかりの静寂のあと目の前の扉が開いた。
(とある桃色の瞳の少女の手記より)

 ついにその時はやって来ました。星は限界を迎え、都に住まう人々は宇宙船に乗るため塔の上を目指しエレベーターに乗り込みます。その中にはナナとリリの姿も。

 発着場の端に腰かけ、幼かったあの頃に撮った写真を眺めながら思い出を反芻します。……さながら走馬灯のように。タイムリミットの藍の鐘が鳴り響き、大人たちは「正気じゃない」とふたりを船の中から憂います。

 そしてふたりは飛びます、星の裏側、あの時を過ごした「南の都」を目指して。「こどものままでいよう」という約束を果たしに。

 花びらの散るように、幼気な春風に舞うように、当たり前を知らないで、徒然な後悔も言わないで。そんな最期を星の終わりと共に、思い出の中のあなたと手を繋いで落ちていく。きっと、それなら二度とあなたと別れることがないから。2度目の再会が来ることがないから。きっと、そんな最期が相応しいから。

 地面に激突する寸前、あなたの姿を見たような、そんな気がする。

・Tr.08 「誕生

 そうしてふたりはあの日見た彗星に、翠の鯨の羽根になって、空を飛んでいきます。そうして、あの日のふたりを見に往きます。鯨はそんなふたつの羽根を包みこむように、身に宿すように凛と歌っています。

 ようやく、ふたりはひとつになりました。ひとつの愛になれました。その先は誰も知りません、知り得ません。

 「ああ、良かった。」そう思いました、投稿された動画を見ながら。
ふたりはひとつの愛になれたんだ、再会できたんだ、約束が守れたんだ。CDを聴きながらそう思っていました。


 ……けれど、それは勘違いでした。

 アートワークの本当に最後の最後、はるまきごはんミュージックメイキングのコーナーも終わった後。クレジットのほんの手前、人によっては見逃してしまいそうな、のどの右隣りにそれは記されていました。

この星の鯨が飛べるのは
叶わなかったこどもたちの夢が
その鯨の羽根となるからだ

 ……ふたりは鯨の羽根となった、それはふたりの夢が叶ったからではなかったのです。寧ろその逆、ふたりは再会できませんでした。約束が果たせませんでした。
 思い出の中のあなたと手を繋いで落ちていった結果は、冷たい地面で潰れて死んだことでした。残ったのはふたりの魂ではなく、ふたりの叶わなかった夢だけです。

 「再会」のラストシーンと「誕生」は、ふたりが死ぬ間際に見た幻。もしくはふたりの見た夢の姿。叶わなかった夢であって、ふたりじゃない。


 ふたりは ただ 現実を拒否して 死んだだけ


 ……誰が、この物語がバッドエンドだと想定していた?少なくともハッピーエンドではなかったけれど、私はずっとメリーバッドエンドだと思っていました。それこそ「再会」を初めて聴いた時から。

 私はハッピーエンドが好きです、メリーバッドエンドも好き。主人公がどんな形であれ、報われてほしい。

だってこれは「物語」だから、「フィクション」だから。

 現実世界はそんな綺麗に終わりを迎えない。特に自殺や心中なんて、死に損なって重い後遺症を負ったり、片方だけ生き残ったり、死ねても魂だけ縛り付けられて成仏できなかったり、周囲の人間を絶望のどんぞこに落とし込んだりする。どこまでも汚くて苦しくて息ができない、そして一瞬の幸福が訪れることもあれば訪れないこともある。

それが現実だから、リアルだから、人生だから。

 それなのに、これは何なんだ。もちろん物語の中には、どうしようもなくやるせない結末を迎えるものもある。そういった作品はそういった作品として私は楽しんでいる。しかし、「ふたりの」はそうじゃなかった。動画だけ観ていれば、通常版だけ聴いていれば、メリーバッドエンドだった。

 初回限定版を買い、アートワークを隅々まで見るような人間でなければ、「ふたりの」の本当の結末を知ることは出来ない仕様になっている。これは一体何なんだ、なんだって言うんだはるまきごはん!!!!!!!!

 ……この結末を知ったのは、「結論」以降の曲を聴いている最中でした。世界観に合った、隣接した既存曲を聴きながら心地良さに浸っているそんな最中。手から物を取り落としたのは久しぶりで、衝動でCASまで取ってキレ散らかしたのも久しぶり。

 私は確かに激怒したし、絶望しました。けれどそれはこの作品の、物語の否定するためではありません。怒りながら泣きながら、一方で感嘆していました。だって、それでもふたりの軌跡は美しかったから。はるまきごはんさんが描き切った世界は綺麗だったから。

 心を揺さぶり続ける作品を作り上げたはるまきごはんさんに、敬意を表します。

・Tr.09 「結論 ※VOCALOID・はるまきごはん版収録

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 誰も知らないその後、もしくはどこかで下したふたりの「結論」であるこの曲。インスト曲ですので、曲の感想のみ話します。

 「再会」や「誕生」のMVにも登場するピアノは2ヵ所の鍵が押されています。そのふたつの音が合わさったのが、藍の鐘の音だそうです。ところどころ聴こえそうで聴き取れない、人の声と思しきノイズがもどかしくもその儚さを伝えてくるようで、短いインスト曲であるにも関わらずグッと引き込まれます。

 結論と言えば、「はるまきごはんワンマンライブ2020『ふたりの結論』」が2020年11月15日に公演されます。昨今の情勢を踏まえ、現地開催は人数を絞り、ライブ配信も行うそうです。ここで私たちのまだ知らない「ふたりの」の物語に触れることが出来そうですね。私はニコニコ動画でチケットを購入し配信を観る予定です、詳細はこちら。

・Tr.01 「ふたりの」 ※VOCALOID・はるまきごはん版収録

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 ふたりの物語が終わったずっとずっと先の未来、はるか遠い銀河に浮かぶ小屋。そこに住まうふたりの物語を知る語り部と、月並みに歩まず辿り着いた旅人。どちらも何者かなどわかりません、しかしそんなことは些事。ナナとリリ、ふたりが確かに生きていたことを知る誰かがいて、それが語り継がれることが大事なのです。

 そうしてまた、ふたりの出会いから始まる物語が紡がれます。はるか遠い銀河の、なんでもないふたりの物語が。


おわりに

 ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました!

 感想と言いながら世界観整理と考察がメインになった気がしなくもありませんが、いかがでしたでしょうか?

 少しでもはるまきごはんさんの描く世界の、「ふたりの」の魅力をお伝えすることが出来たのなら幸いです。これを機に、はるまきごはんさんの他の作品にも触れてみてはいかがでしょうか?下記にユーザーページを貼ったのでご活用ください。

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 改めて、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。

良きVOCALOIDライフを!!!


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