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『ワタシ御伽ばなシ』で我々が体験したものとは。

『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)のイベントLIVE Groove Visual burst『ワタシ御伽ばなシ』が終了した。
『ワタシ御伽ばなシ』の作詞・作曲は毛蟹氏。
『Fate/Grand Order』ユーザーならばお馴染みだろう。
あの毛蟹曲がデレステに!
あの毛蟹曲をシンデレラガールズが!
どちらのヘビーユーザーでもある私にとってはまさに一挙両得。
ちなみに森久保乃々役の高橋花林さんはFGOではヴァン・ゴッホを演じてらっしゃいます。
楽曲の歌唱担当したのは『ファブラ・フォリオ』、メンバーはライラ森久保乃々古賀小春喜多日菜子双葉杏の5人。
これまでに活動歴のない、またしてもサプライズユニットだった。
『ファブラ・フォリオ』は直訳すると「物語の二つ折り本」
曲もコミュもそれにちなんだものであり、となれば普通に考えればメンバーもそのイメージが強いアイドルたちが集められたことになる。

ライラさんはドバイ出身であり、その外見のエキゾチックさからもアラビアンのイメージが初期からある。
乃々は絵本作家の夢を持つので順当な選出。
小春日菜子はお姫様枠。即興力と妄想力。
そして
……杏?
はて。
これまで様々な仕事をしてきた杏だが、当然それ系の仕事も数々こなしてきた。
しかし物語系のイメージはさほどない。
どちらかと言えばゲームの方だ。
いくら頭をひねってもしっくり来る答えがない。
ならばとりあえずコミュを進めてみるしかない。

……なるほど。
杏は過去の経験を活かしつつプロデューサーと他の4人との橋渡し役として重要なポジションを担っていた。
なにしろ杏は今回のメンバーにおいて最年長だ。
小春が12歳、乃々が14歳、日菜子が15歳、ライラが16歳。
で、杏が17歳。
ふわふわほわほわした面子の中で、彼女は今回保護者ポジション
まだある。
今回のイマーシブシアターで演じたのは「リリア」というメイド役だった。
そう。
メイドである。
『ファブラ・フォリオ』の中でメイドと密接な関係を持つ者がひとりいる。
そう。
ライラさんである。

私はこの『ワタシ御伽ばなシ』コミュを読み、ひとつ独自の仮説を立てた。
賛同はしていただかなくて結構。
「そんな考えもあるのか」とニヤリとしてもらえれば重畳。
それは何か。

「杏が演じたメイドのモデルはライラさんのメイドさんではないか?」

ということ。
「イマーシブシアター」体験型の演劇であると同時に、みんなで物語を作り上げていく没入型エンターテインメント
メイド役を演じるに当たり、杏が身近な「本物」であるライラさんのメイドさんを参考にしていたとしてもなんら不思議はない。
『ワタシ御伽ばなシ』コミュはメインキャストであるライラさんのバックボーンを補完する側面も色濃かった。
それこそ彼女にソロ曲が実装されてストーリーコミュを作る時に困るのではないか、と心配になるほどにがっつりと。
だからこそなおさら杏が演じるリリアにライラさんのメイドさんの姿を幻視した。
いざライラさんのストーリーコミュが実装された時にこれの答え合わせをするのが楽しみだ。
ドバイの富豪のお嬢様だったライラさん。
きっとたくさんのメイドを抱えていたことだろう。
その中で単身ライラさんについて来た奇特な人物。
ただものであるわけないんだよなあ。

ところで「イマーシブシアター」って皆さんご存知でした?
私、恥ずかしながら不勉強でしてこのコミュで初めて知りました。
前述したように体験型の演劇である没入型エンターテインメントで、台本そのものはしっかりと存在している。
その上でアドリブもアリアリ、と。
選択肢によって展開が変わるとか。
まるでADVG(アドベンチャーゲーム)か古のゲームブックのようだ。
それにしてもいつもコミュ読んでて思いますが、アイドルとお客さんの距離近過ぎん?
握手会もやけに各自の持ち時間長いし。そういえば剥がしも見た憶えがないな。
色々心配になるがそれはともかく。
それぞれの役柄は西洋風のものだったが、当て書きではないかと疑うレベルで各アイドルの内面を反映したものとなっていた。

ライラさんは意外にも悪役ポジションだった。
悪役というよりは黒幕か。
だが彼女にはその気持ちが分かった。
分かってしまった。
「キラキラは幸せですけど……ずっと決められた道、同じ道を歩き続けるのは、ときどき、胸がきゅっと苦しくなりますねー」
まさに家を飛び出した時のライラさんの心境そのものだ。
最後にライラさん演じる「リデル」は物語の結末を変える。
「彼女の物語は続く」
それはリデルが今のライラさんに追い付いた瞬間だった。

乃々は劇中で「マーガレット」という作家を演じる。
絵本作家ではないが、一足先に役で夢を叶えた形だ。
いや、すでに連載は持っていたことがあるらしいのでどっちだ?
ともかく「前にも演劇のお仕事をしたことがあって、すごく大変だったけど頑張ったぶん楽しいって思えた」
と、これまでの経験を血肉とした彼女は今回のような「大人のメルヘン」をも今や十分に楽しめるようになっていた。
さすがは数いるシンデレラガールズのアイドルの中でも成長具合を感じられることに定評のある森久保乃々である。

小春はお姫様像に疑問を持つ。
U149のアニメを経て、そこから自身のストーリーコミュである『How to become a princess』を経て、「お姫様」は彼女のゴールではなく、これからもアイドルとして進化していくための最重要要素へと変質していた。
劇中で小春が演じる「イーディス」は「ずっとお姫様になりたかった」と話すが、そこはすでに彼女が通った道だ。
気付けば小春は自分で思うよりもずっと大人になっていた。

日菜子演じる「ロリーナ」(すごい名前だ)は、「空想の世界なら、なんでもできると思ってた」と嘆いた。
日菜子と違い、空想(妄想)への信頼度が揺らいでしまっていた。
空想の産物であるロリーナは、現実の日菜子に敵わない。
喜多日菜子は妄想との付き合い方のプロだ。
妄想なしでは生きてはいけない日菜子は、妄想の酸いも甘いも熟知している。
空想を妄想でねじ伏せた日菜子。
劇作家は喜多日菜子というアイドルを甘く見過ぎていたようだ。

泣き落としに弱い杏。
偽悪癖を持ちつつも、悪になり切れない面倒臭い性格。
「演じる姿を人に見せるのは苦手」と言いつつも、役を巧みに利用して本音を漏らす。
プロデューサーはそんな彼女に「斜に構えるな」と諭す。
不器用な優しさを持つ杏。
演じる「リリア」の口を借りて言う。
「ひねくれてても、夢は見たくなる」
双葉杏はアイドルとしての夢は何一つ捨ててはいない。

コミュ冒頭で扉が不思議な世界へとつながる。
その扉こそまさにフィルターだった。
ライラ、乃々、小春、日菜子、杏の5人は登場人物の名を借り、とっておきの「アドリブ」として普段は隠している心情を吐露してみせた。

ライラの過去、現在、未来。
森久保乃々の成長。
古賀小春の進化。
喜多日菜子の揺るぎなさ。
双葉杏の根幹。
『ファブラ・フォリオ』、紐解かれた二つ折りの本が紡いだのは果たして本当に「御伽噺」だったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
今まで彼女たちのことをずっと見てきた我々にはそれが分かるはずだ。
『ワタシ御伽ばなシ』というイマーシブシアターで我々が体験したのは彼女たちのこれまでと現在の姿そのものだった。
その最後に見せてくれたものは未来への扉。

彼女たちに惚れ込み、彼女たちのプロデュースに没入していることは決して御伽噺などではない。
現実だ。
御伽噺みたいなシンデレラ・ストーリーを御伽噺のままにはしない。
夢を夢で終わらせない。
それこそが我々が愛するアイドルマスターシンデレラガールズだ。

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