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内容を理解して同意していますか

利用規約を熟読することが趣味、という友人が珍しく興奮した様子でチャットを飛ばしてきたので、これは何か致命的なミスなどを見つけたのか、と前のめりに返信していたら、ニュース速報が流れてきた。ロードされたポップアップウィンドウを見てみると自分と同姓同名の人間が指名手配されているというものだった。同姓同名ということで、なにか言われるかもしれないと思い実名で登録しているSNSを確認しようとログインするとまだこのニュースは話題になっていないようで、いつものように人々の日常の様子がタイムラインに流れていた。チャットに戻ろうと画面を切り替えると、インターホンが鳴ったので、Amazonでも届いたのかと出てみると。
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キノコです。

もっと分かりやすく説明して欲しい、と言われるとついカッとなってしまう性格を直したいと思いアンガーマネジメントのセラピーに通っているのですが、先日そのセラピストに話をしていたところ、もっと分かりやすく説明できませんか、と言われカッとなってしまい決裂した、という話は今考えた創作ですが、分かりやすく説明して欲しい、と言われることは実際に多く、分かりやすさとは何か、というのをよく考えさせられます。でも、世の中分かりやすいことってそんなに多くないですよね?

分かりにくいといえば、個人情報の利用について色々と言われておりますが、記載の用途以外で利用された場合に怒るのは当然なものの、アプリやwebサービス、ポイントカードや種々様々な便利なサービスを利用する際に私達は利用規約に同意をしているため、事前に説明された用途についてはOKと言っているわけです。でも実際自分がどんな情報を提供することに同意しているのか理解しているでしょうか。例えば、地図サービスの精度を上げるために位置情報の利用を許可する、みたいなのは典型ですよね。でも、位置情報って?となります。

理解しているかどうかはさておき同意してそうなものといえば、お部屋を借りる時の重要事項説明書があります。不動産屋さんに重要事項説明書を読み上げていただき、規約に同意をすることが求められます。昨今の個人情報に限らず、周りをちょっと見るとあらゆるところに同意を求める注意書きがあり、利用するとそれすなわち利用規約に同意したとみなされるわけです。

産むことに同意もしていないのにこの世に産み落とされた!という憤りを抱く方も中にはいるようですが、生まれてこの方我々は色々なものに同意を示して生きてきており、今もまた日々何かしらの同意をしていることになるわけです。まずはnoteのサブスクリプションに同意をすべきだということは論を待たないわけですが。

同意に似た言葉で合意というものがあります。同意というのは条件が明示されており、その内容を提示された側が賛同するというもので、合意というのは条件の提示の有無はさておき、双方に賛同できそうな条件を議論や検討を通して見出した結果いたるもの、という違いがあり、同意は得るもの、合意は至るもの、という感じでしょうか。なので最近話題になった性交同意書みたいなものは条件をどちらかが提示し、それに同意をするというものなので、本来双方向性がありそうな性交というものにおいて同意という言葉を用いた時点で独りよがりだったのかもしれません。合意に至るという場合、マンション建設における周辺住民への説明会を実施し、賛同を得るべく問題点やメリットデメリットについて議論し、合意に至るみたいな例があります。

人権や私的所有権といった権利が確立されつつあるので、権利を侵害しないようにするためには同意を得たり合意に至ったりする必要があるし、積極的にそのようなプロセスに参加することが奨励されているのが現代なのかな、と思います。

同意を得たり合意に至ったりするには、説明、という過程が必須です。その点、重要事項説明書、といのはすごく適切な名称ですよね。不動産の賃貸契約などというのは揉め事も多そうですし、言った言わない、ということで訴訟になることもままあるようです。そんな時に、重要事項説明書にも記載の通り、貸借人は件の事項に同意の署名捺印をしており、内容を十分に理解した上で利用していたものと思われます、などと言われてしまうと、重要事項として説明されている、という感じがしてなかなか反論が難しそうです。だって署名捺印して同意してるんですし。

家電製品などでも、免責事項に説明書に記載の利用方法以外での利用時の事故については責任を負いかねます、とか書いてあります。説明を明示した上でそれを理解し、同意した上で利用する、という一連の過程は後々揉めないようにするためにもとても大事だということが分かりますね。人間関係でもそうですよね。合意に至っていないのにそんなことをするなんて!という話はちょっとネットを見ればゴロゴロしております。双方の説明が不十分で意図していた条件ではなかった、というのが原因な気もしますが、十分に納得できるだけのコミュニケーションというのは難しいものなので、そういった学習過程を経て人は強くなるのかなと思います。

ところで、皆さんは利用規約や使用承諾書みたいなものを詳しく読んでから同意する、というチェックをするタイプでしょうか、それとも性善説に基づいて、とりあえず同意して利用するボタンをクリックするタイプでしょうか。

今回は、同意や合意が重要であり、十分な説明責任を果たすことが良き市民の務めであるようなことが言われている世の中ですが、説明されたことって理解できていますか?という話をしていきます。説明書を読んでもよく分からないキノコの嘆きでもあります。

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