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あの曲がこうなる!?ビッグバンドにおける「アレンジ」の面白さ。自由の象徴、ここまで変えてもOK!!原曲は原曲、アレンジはアレンジ。多様なアレンジが切り拓く新しい世界について一部紹介します

 はい、ビッグバンドファンです。今日はアレンジによってここまで変わるビッグバンドの面白さという話をします。

アレンジについて

 アレンジとは原曲を活かしつつ演奏する状況に合わせて楽曲を変更するものです。ビッグバンドもその歴史の中では数々の名曲、クラシックなどビッグバンド以前よりある音楽をアレンジして演奏してきていますので、アレンジに関してはとても沢山のバリエーションがあります。この辺はクラシックの文化と違っていて、原曲をそのまま演奏するということがむしろ少ないです。例えばカウントベイシー楽団という有名なビッグバンドがありますが、このバンドのオリジナルで大ヒットした「One O’clock Jump」という曲、実に様々な場所で演奏されていて沢山のアルバムに収録もされている曲ですが、アルバムによって進行や音の組み合わせが変わったりして、むしろ同じ演奏をしているのを見つけるのが大変なくらいです。自分のバンドの大ヒット曲ですらそんな感じにアレンジするのが当たり前、そういう文化がビッグバンドにはあるので、ビッグバンドにおいてアレンジはむしろ作曲とセットになっているくらい当たり前のように行われていると考えて頂いていいと思います。

「A列車で行こう」の紹介(ゲームとは違うよ)

そこでアレンジによってここまで変わるのか?という例をいくつか紹介していきたいと思います。まずは名曲「A列車で行こう」。デュークエリントン楽団の名曲でエリントン楽団も実に沢山演奏している曲ですが、他の楽団も様々なアレンジで演奏しています。余談ですが、日本でも発売された「A列車で行こう」という都市作りゲームの名作がありますが、これはあまりこの曲とは関係ないようで、ゲームの方の「A列車」の由来はこのエリントンのA列車も意識しているものの、アートディンクの「A」でもあり、ゲームで工事列車を示す記号でもあった、ということで実際初期のゲーム内容は工事列車「A列車」を操作し、「アメリカ大陸に線路を敷き、大統領列車をゴール地点に導く」というパズル風のゲームだったということで、ゲーム内容がタイトルに反映されたようです。

Rob McConnell and The Boss Brassの「A列車で行こう」

というわけで、A列車で行こう、特に変わったアレンジということで2つ取り上げてみます。1つ目はRob McConnellというバルブトロンボーンという変わった楽器を扱う方がいらっしゃるのですが、この方がリーダーのビッグバンド「Rob McConnell and The Boss Brass」、ここが1977年に発表したアルバム「Again!」に収録された「A列車で行こう」、これが実に変わったアレンジをしています。原曲は印象的なピアノイントロからサックスのミディアムスウィングなテーマに流れていく曲ですが、Rob McConnellは何とビートをややアップテンポなラテン調に変え、更に曲途中でハーフテンポにしたり、ソロもリーダーのバルブトロンボーンがノリノリで演奏する等、やりたい放題です。ただ、アレンジ自体がカッコイイという点、原曲の持つ陽気さをフィーチャーした点に関しては成功しているとも言え、実際演奏を聴いていると演奏者も楽しんでやってるんだろうなというのが伝わってきます。

Maynard Fergusonの「A列車で行こう」

そして2つ目はハイノートヒッター、トランペットでもの凄い高音を扱う方としても有名なMaynard Fergusonさん、この方のバンドのA列車で行こうです。この方のアレンジは、冒頭でいきなりファーガソンさんのハイノートが響き渡り頭をガツンと殴りつけられたような衝撃から始まります。その後はアップテンポにアレンジされたテーマをバンド全体が冒頭の勢いそのままに怒涛のような演奏を繰り広げていく。間にはファーガソンさんのソロもサックスセクションのソリも入り、目まぐるしくフレーズが進行していったと思えば、最後は再びファーガソンさんのハイノートで熱狂のうちに終わるという、もはや原曲の面影はまるでないのですが、でもカッコイイというね。先程のマッコネルさんもそうですが、ビッグバンドひいてはジャズが重んじる「自由」という価値観、これが本当に前面に出てくる、好例かなと思います。ビッグバンドひいてはジャズにおいて、これはありなんです。

「All or Nothing at All」の紹介

さて続いて紹介する曲は「All or Nothing at All」です。原曲を紹介しますと、1939年に作曲はアーサー・アルトマン、作詞はジャック・ローレンスでリリースされた曲で、フランクシナトラが歌い、1943年にシナトラ初のミリオンセラーとなった曲です。なお、このミリオンヒットですが、1943年に21週連続ビルボードチャート1位を維持し続けた結果ということで、どれだけヒットしたか分かるかと思います。その後様々な歌手がカバーし、ビッグバンドを始めジャズのスタンダードとしても親しまれる曲となりました。原曲はテンポはミディアムでマイナーとメジャーを行き来するような少し不思議な雰囲気がするテーマから展開していき朗々と歌い上げる、そんな曲です。

USAF Airmen of noteの「All or Nothing at All」

これを見事に変えているのがAirmen of noteというアメリカ空軍のビッグバンドです。このビッグバンドはグレンミラーにもつながる由緒あるビッグバンドですが、現在も積極的に新作の発表を行っているまさにビッグバンドの今も昔もよく知るバンドです。そのバンドが1985年にMike Crottyというアレンジャーを招いて演奏したAll or Nothing at all、これが見事なアレンジを披露しています。まずテンポがアップテンポ、イントロからバンド全体が攻め入るような怒涛のアンサンブルで畳み込みそのままの勢いでテーマフレーズに入る。途中ラテン調のビートを絡めつつ、少し複雑なラインを更にうねるように各楽器のラインを絡めさせ、またその複雑なラインを一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルが完璧に演奏、爆音とともにソロに入っていくという、とんでもないアレンジと演奏になっています。そして、やっぱりカッコイイ。原曲とは全く違う、といってもテーマフレーズとかはそのままのラインになっていたりして、全く別の曲ではなくやっぱりアレンジなのですが、あれはあれこれはこれという感じで、まさに自由と多様性、その先にはこれだけ魅力的な世界が広がっているのか、という感じがします。このかっこよさと勢い、そしてビッグバンドならではの音楽性の幅の広さ、是非原曲と合わせて聞いてもらいたいです。

「MANHA DE CARNAVAL」の紹介

どんどん行きます。3曲目は「Manha de Carnaval」です。1959年に公開されたビンシウス・ヂ・モライス原作の映画「黒いオルフェ」の主題歌としてルイス・ボンファが作曲したボサノヴァの曲で、これもスタンダードナンバーとして数々の有名アーティストが演奏、渡辺貞夫さんも演奏していますね。原曲はボサノヴァのゆったりとしながらもリズミカルな進行、そこに実に雰囲気をもったマイナーのテーマラインがのってきて、曲を聴くだけで世界に浸れる、独特の雰囲気を持った楽曲であります。かなり印象的な楽曲でありますので、ビッグバンドで演奏する際にもこの雰囲気を崩さないアレンジというのは当然あるのですが、ここで紹介するのは先程までと同様これを見事に崩した例を紹介します。

Black Orpheus arranged by Eric Richards

Eric Richardsという方がアレンジしたバージョンで、ご本人のサイトに紹介文が出ていたので紹介します。「オープニングやクローザーに最適なハイエナジーなサンバアレンジになっています。ジーン・エイトケンと北コロラド州立大学から依頼を受けて書いたこの曲は、アーミー・ジャズ・アンバサダーやUSAF Airme of noteなどによって、世界中のジャズ・フェスティバルで演奏されています」。というわけで、冒頭の「ハイエナジーなサンバアレンジ」というところに全てが凝縮されています。原曲と真逆です。ボサノヴァをサンバに、ゆったりと雰囲気あるラインからアップテンポでハイエナジーなラインに、真逆にアレンジしてます。とはいえ、これもカッコイイ。紹介文にもあるようにAirmen of noteの他様々なバンドが様々な場所で演奏しており、かくいう私もこのアレンジで演奏したことあります。その時、ちょっと印象的なエピソードがありまして、演奏終了後割と高齢のお客様が、たまたま客席にいた私に「あの黒いオルフェは私が想像していたのと違っていた。君は黒いオルフェを知っているかい?」と話されまして、当時は私恥ずかしながら原曲を聞いておらず「すいません、原曲はしっかり聞いたことが無い」と答えたところ、原曲の魅力をとても沢山お話いただきまして「今度演奏することがあったら原曲の方をやって欲しい」と言われました。アレンジというのは勿論様々あって良いしその自由を否定する必要はないものの、一方でリスナーの方が「この曲はこうであって欲しい」という思い、これも大切にする必要もあると思います。ただ、それを正直一つのステージ、一つのバンドだけで表現するというのは難しいです。なので、様々なミュージシャン、バンド、アーティストが各々多様に表現する、その中でリスナーが「これ」と思うものをお気に入りにして聞いていただく、これが一つの理想形なのかなという風に、自分の経験を通じて思うところであります。

 というわけで、いかがでしたでしょうか?アレンジによって変わるビッグバンドの魅力、是非ね実際に比べて聞いて頂き、面白さを発見していただけたらと思います。最後までお聞き頂きありがとうございます。気に入っていただけましたらチャンネル登録よろしくお願いします。以上、ビッグバンドファンでした、ばいばい~

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