行動科学を使って良い人材を採用する11のコツ

いくつか並行して記事を書いていたら、本記事を先に書き終えてしまったので、先に上げます。

昨年の8月、英国人材開発協会が、「行動科学チーム」(※後述)の協力を得て、行動科学が採用プロセスにどう影響するかというレポートを出しました。

"A head for hiring: The behavioural science of recruitment and selection"
https://www.cipd.co.uk/binaries/a-head-for-hiring_2015-behavioural-science-of-recruitment-and-selection.pdf

このレポートから、人事担当の単なる経験と勘ではなく、行動科学のエビデンスに基づいて良い人材を採用するための11のコツをご紹介いたします。

1.履歴書はまとめて読み、なるべく個人情報を隠そう

以前、オーケストラの面接で、カーテンの後ろで演奏をするようにしたら女性の合格率が11%も上がった例をご紹介しました。
他の例としては、全く同じ条件の履歴書であっても白人っぽい名前の方が黒人っぽい名前よりも、次に進むための電話がかかって来やすいという研究があります。また、履歴書を何人分かを並べて判断することで、1人分だけで判断するより性別の影響が薄れ、より実績や将来性で判断できるようになったという研究もあります。

履歴書に書かれた情報は、仕事の能力と関係ない情報でも無意識のうちに判断に影響します。履歴書はいくつかまとめて読み、お互いを比較できるようにしましょう。名前、住所、性別など、能力とは関係ない個人情報はなるべく隠してしまいましょう。名前を見るだけでも、カワイイっぽいとか、カッコイイっぽいとか、無駄な思考が始まりますからね。

2.面接での質問は事前に決め、仕事の成果に直結する質問にしよう

多くの研究によって、面接による判断は、入社後のパフォーマンスの予測力が低いとされています。情報量が多すぎるあまり無関係な情報に振り回されるから、面接前に良いと思った人は良い点が印象に残りがちだから、などが理由とされています。
面接の計画を立てることは、面接が開始してからすぐに結果を決めてしまう、候補者が本心ではなく建前で話してしまう、目立った瞬間や終わり際の印象だけで決めてしまう、などといった面接の抱える落とし穴を避けやすくしてくれます。

面接で何を質問するか、計画をしっかり立てましょう。過去の職務での経験や、あるケースで自分が取るであろう判断といった、仕事に関係ある質問の内容にしましょう。

3.面接は判断を下すためではなく、情報を集めるためにしよう

直感による軽率な判断を避けるために、面接は候補者の情報を集めるための1つの手段と捉えましょう。面接が終わってから、他の情報と照らし合わせて判断を下しましょう。

4.試験は仕事に関係し、採用の目的に合ったものにしよう

研究においては、能力を問うペーパーテストを採用に使うことは、仕事でのパフォーマンスの予測力が最も高い手段であるとされています。複雑な思考を使う仕事は、特に予測力が高いそうです。ただし、性格を測る試験の有効性については、研究結果は分かれています。試験として実際の仕事をしてもらうという方法も、有効性を判断するには更なる研究が必要です。

試験に関する研究では未解明な点が多いのが現状です。試験はなるべく仕事に関係し、採用の目的に合ったものにしましょう。試験の結果と、入社後のパフォーマンスとの関係を長期的に見て、試験の内容を随時調整しましょう。

5.採用の判断を下す際には、新たな人を交えよう

採用を判断する場面では、特に多くのバイアスが発生します。以前採用した人と似た候補者を採用しがち。この人がいいと最初に思った判断に固執しがち。他の人の考えに影響されがち。目立ったわずかな情報だけで判断しがち。直近の印象だけで判断しがち。

候補者の試験を行ったり、面接を行った人は、どうしてもバイアスに振り回されます。そうした採用プロセスに参加してない人を採用の判断をする際に交えることで、プロセスの特定の瞬間だけに基づいて判断することを避け、候補者について集めた様々な情報を俯瞰しやすくなります。

6.採用の判断は直感ではなく、事前に決めた評価基準による採点に従おう

多くの研究により、自分の直感よりも、事前に決めた評価基準に沿った採点に基づく判断の方が、明らかに良い結果につながることを示しています。オンラインテストを使った採用でも、担当者がその結果を覆せない場合のみ、より良い人材を雇えたという研究もあります。行動科学の祖、ノーベル経済学賞を持つダニエル・カーネマン教授によれば、評価基準は最大6つまでがいいそうです。

7.評価や決断は数日間に分けつつも、どの日も条件は同じにしよう

多くの候補者の採用プロセスを集中的に行うと、決断疲れや認知への負荷によって、間違った判断をするリスクが高まります。そのため、採用プロセスは数日間に渡って分けたほうがいいのですが、電話で面接するか直接会うか、履歴書は印刷するかしないか、など条件はなるべく同じになるようにして、公平な判断ができるようにしましょう。

8.バイアスについて話す時は問題そのものではなく、取るべき行動について話そう

ある候補者が面接中に自分の給与水準について交渉を始めたケースで、この候補者が女性だった場合は、男性だった場合と比べてより低い評価がつけられたという研究があります。給料について交渉する行動が、男っぽい(力強い、頼もしい)行動とされているからです。
「ステレオタイプに基づいた判断は一般的に起こるので、避けましょう。」と人事担当者に伝えた後だと、より女性に低い評価をつけたそうです。逆に「多くの人はステレオタイプから来る偏見を乗り越えられるように努力しています。」と伝えると評価の男女差は縮まったそうです。

人間は多くの人が取る行動に、無意識に引っ張られます。ある問題がよく起こると考えると、その問題を起こす方に行動が引っ張られるのです。取るべき行動を多くの人が行っていることを強調すれば、その取るべき行動に引っ張られるようになります。

9.評価プロセス自体も評価しよう

評価基準を微調整した場合に、どういった変化が起こりうるかを考えましょう。ある評価基準を除いた場合に、より長く勤める人を雇えるかもしれません。可能であれば、ある評価基準を満たさない人を雇ってみて、その評価基準自体の妥当性を検証しましょう。

10.評価プロセスから、ステレオタイプの脅威を取り除こう

アジア系アメリカ人の女性を対象に数学の試験を行い、試験で性別を聞いた場合は平均点が下がり、人種を聞いた場合は平均点が上がったという研究があります。アメリカでは女性は一般的に数学が苦手とされ、アジア系は一般的に数学が得意とされます。どのアイデンティティを強調するかで、パフォーマンスが潜在的に影響されるのです。

性別や人種などステレオタイプが絡む質問は、採用プロセス中に行うのは避けましょう。日本であっても、例えば体育会系出身であることとか、ステレオタイプが絡む属性は多そうです。

11.採用した人、不採用にした人の両方からフィードバックをもらおう

候補者にフィードバックを与えることももちろん大事ですが、候補者からのフィードバックをプロセスの改善につなげることも同様に大事です。プロセスを通した会社に対する印象、評価に対する期待と現実のギャップ、公平性や各プロセスの有用性などを採用した人、不採用にした人の両方から聞いてみましょう。


このレポートの作成に携わった「行動科学チーム(Behavioural Insights Team)」ですが、元々は英国政府で立ち上げられたチームです。それがあまりに成功したためにスピンオフとして独立し、今や世界中の政府を顧客に行動科学を使ったコンサルティングをしています。面白そうだと思いませんか?
私自身も研究のためにこのチームと一緒に仕事をしながら、彼らのコンサルティングの手法を学んでいます。そのチームはどのように立ち上がり、何をしているのか、次回書きたいです。書きます。ようやく本題です。(延期しまくってすいません。)

実はこのレポートには上記のコツ以外に、人材を募集するための7つのコツも載っています。あまり驚くようなことは書いてないのですが、需要はあるでしょうか。

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