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リトルヤンゴンに麻薬王を探して

 誰も返事をしない。そして視線を私から逸らした。質問が単刀直入過ぎたのだ。はっとして後ろを振り向くと腕の太い精悍な男達。人数は3人。公安(コンアン)が何故日本に?狭い店内。間合いが近すぎる。いつの間にか閉じられたドア。男達のうち1人が背中に手を回した。苦し紛れに顎に肘打ちを食らわすと、右手から鈍く光る特殊警棒がごつん、と床に落ちた――ということもなく無事に帰ってこれたので、皆さん安心して買い物にいそしんでいただきたい。

   ただ、東京にワ州連合軍(United Wa State Army)配下の麻薬密売組織がないかと私が探しているのは事実。ワ州に行けば居るのだろうが、それと日本がどう関係があるのかを明確に示さなければ大多数の日本人には対岸の火事で、冒頭のような出来の悪い小説レベルの話と同レベル扱いになってしまう。何故なら皆、「日本だけは大丈夫」と思い込んでいるから。それでも昔は歌舞伎町に自転車でヤーバーを売り歩く売人がいた。最近は見ないが地下に潜ったのだろう。こんなことを書くと、「新宿は恐ろしいところだ!」と思う人もいるだろうが、前述の売人のお兄さんは見た目普通のイサーン人だったので当時の私は特に何も思わなかった。ただし留学生など堅気のタイ人は見かけない場所ではある。

 そして私は気づいた。99.9%の在日タイ人は麻薬マフィアについて私と同じくネットに書いてあることしか知らないということを。たまにヤーバーをかじっている奴はいるかもしれないが、所詮はエンドユーザー。

 悩んだ挙句、私はひらめいた。「そうだ、ワ州連合軍(UWSA)の本拠地もラフ族村のヤーバー工場もミャンマーのシャン州にある。一般のミャンマー人がシャン州にわざわざ行くとは思わないし行けない。ミャンマーのメディアもおそらく報道していない。だが、だからといって訊いてみなければ何も分からないのでは」と思い立ち訪れたのが高田馬場にあるミャンマー雑貨店数店舗。

   JR山手線高田馬場駅を降りて見えるのが下の画像のビル。簡潔に説明すると、このあたりにミャンマーの軍事政権を逃れた難民の人達が経営する雑貨店が多い。隣駅が新大久保駅なので、大久保通りや百人町にある店舗と繋がりのある店も。

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