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タイ警察は真犯人を発明する

    先日、2014年に起きたタオ島英人カップル殺害事件の犯人とされたミャンマー人労働者2人に最高裁判所が死刑判決を下し英字紙などでも話題になった。犯人冤罪の可能性が高いからだが、タイでは冤罪は珍しくない。そのひとつに2016年に南部トラン県で起きた8歳女児強姦事件がある。何故冤罪が多いのか。それは富裕層や権力者子弟など上級国民を免罪するためだろう。明らかな冤罪事件は他にも2015年のバンコクエラワン廟爆破事件で実行犯とされたウイグル族のアデム・カラダグ氏の事例もあるが、被害者が児童であることに残酷さが際立っていると私は感じた。一介の日本民間人介入の余地は全く無いゆえ、この文章を勝手ながら被害者少女追悼に代えることとする。以下本文。

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    2016年5月12日午前10時、某新聞記者がトラン県在住のギッティサク氏(33)とサリサーさん(30)の夫婦から訴訟の支援を求められた。2人の話によると、娘のエーちゃん(仮名8歳)がサランラット(20)に強姦され、病院に連れて行ったが間もなく死亡したという。

 ギッティサク氏の涙ながらの話。去る11日の午前4時頃、寝ていた娘が「性器の周りが痛い」と言い出し、実際お腹が膨れていて体液が出ていたので妻と医者に連れて行った。漢方医は何でもないと言ったが治らないので、今度は病院に連れて行った。検査では娘の体内から麻薬成分が検出された。それから医師は自分を部屋の外に出し、妻と話をしていたが、娘は死亡してしまった。
 自分の遠い親戚にあたるサランラットが娘を死に至らしめたに違いないと信じている、とのこと。

 サリサーさんの話。自分と夫が深夜(昼間は暑くて作業にならないので普通の事)ゴム園の作業に出かけている間に犯人が娘の寝室に忍び込んで強姦した。朝6時に帰ってみると娘が腹部の強い痛みを訴え、「訳が分からないの」と言うので病院に連れて行った。自分は「炭酸飲料を近所の人に飲まされたからですよね?」と言ったが、その中身に何が入っていたかの確証は無かった。そして検査で強姦の痕跡が見つかった。
 娘は「フースと呼ばれる近所の20歳位の男にジュースを飲まされた」と言った。更に、「お腹を殴られた。長時間暴力を振るわれた」とも語った。その時は抵抗出来なかったそうだ。娘は誰が家に入ったのか覚えていた。娘が起き上がって見ると、その男は走って逃げだした。

 医師によれば、エーちゃんが飲まされた炭酸飲料にはメタンフェタミンが含まれていて、それが激しい腹痛の原因となったという。死因は強姦による性器裂傷とそれに伴う内出血。
 警察はサランラット容疑者を追跡し、5月12日、フースこと同容疑者は逮捕された。

 2016年5月14日、サランラット容疑者がエーちゃんに覚せい剤が混ざった飲み物を飲ませた上に彼女の自宅の寝室で強姦して重傷を負わし、死に至らしめた事件の進捗状況が報道された。
 トラン県警司令官によれば、警察は病院に送付された現場で見つかった容疑者のDNA鑑定結果を待っており、その結果はすぐに出る。また、凶悪犯罪かつ市民の興味を集めているゆえに急いで捜査を進めているとのこと。県警司令官によれば、国家警察も県警と連携して捜査を進めているという。

 また、DNA鑑定結果を待っている間も、事件解決に結びつくような更なる証人が必要とされているが、証人が不利益をこうむり事件の全貌を失ってしまうので話すことは出来ないとした。

 そしてサランラット容疑者の親族は「周到に報道陣に公平な報道」を求め、起訴された無実の家族への哀れみを訴えた。

 その家族が無実を訴えているサランラット容疑者がどんな社会的地位にあるのか一目で分かる画像があるので紹介したい。

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 画像の中でトラン県警幹部に囲まれ、マイクを握って話しているのがサランラット容疑者。タイでは刑事事件容疑者というと被害者親族の報復を想定してヘルメットと防弾チョッキを着用して現場検証に連れ出されるのが常。しかし権力者子弟となれば「日本の時代劇に出てくる若様扱い」というのも階級社会では珍しくない。                                              

 同容疑者は自供を拒否。現場検証抜きで裁判所に送致された。容疑者の身柄は確保されたのではなく保護された。


 DNA鑑定結果は、「サランラット容疑者の体を検査したら他の住民のDNAが検出されたので、犯人は少なくとも1人以上」つまり複数の犯行だという不思議なもの。エーちゃんの遺体が検死解剖にかけられたという報道は無い。彼女は覚せい剤入りの飲み物を飲まされて意識が朦朧となる前に、サランラット容疑者の姿を見ていて、それを両親に伝えた。これが同容疑者が逮捕された原因。しかし被害者が死亡したので、死人に口なしとばかりにトラン県警はサランラット容疑者を証拠不十分で無罪にする方針を選んだ。

 2016年5月15日、トラン県知事はトラン県警司令官とトラン県赤十字会長を伴い、亡くなったエーちゃんへの読経式(葬式ではない)に参列した。
 式の雰囲気は沈痛なもので、親戚縁者30人以上が参列した。その後県知事はエーちゃんの母親に見舞金を渡した。
 県警司令官は、「警察を信頼して欲しい。現在証拠を探しており、犯人を必ず起訴する。警官各位は土曜も日曜も返上で休みなく仕事を続けているところだ」と語ったが以下はエーちゃんの母親の話。

「お寺を警察に警備して欲しいです。特に夜。というのは、息子と娘がお寺で寝起きしてるからなんですが、ドアも窓も周りにありません。犯人が1人以上いるかもしれず、まだ捕まっていないと知って安全に不安があります。また危害を加えに戻ってくるのではと怯えています」と容疑者側の報復を警戒している。「お寺で寝起き」というのは仏教の戒律で寺の境内での殺生は禁じられているので殺し屋は手を出しにくいだろうという発想。
 また、犯人逮捕の為のDNA鑑定結果がはっきりするまで娘の葬式は上げない旨を宣言。


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※寺の東屋らしきところで寝起きするエーちゃんの母親サリサーさんと親族。殺されかねない時、寺は避難所と化す。

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