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イカの塩辛と、ガッツだぜ

「あれ?なになに、みんな疲れた顔しちゃって」

その日、私が立ち寄ったのは、日本酒がメインの立ち飲みバーである。日本酒専門ではなくて、あくまでもメインなところが、かえってこの店の特徴だ。

日本酒は定番と日替わりがあり、常に10銘柄くらい。その他に、焼酎、ビール、ワインなども、それぞれ数種類ずつおいてある。どれも目利きのスタッフが選んだもので、間違いなくおいしい。その上、立ち飲みだから価格もリーズナブルで、常連客が多い。

「なんだかね、みなさん、連休明けでお疲れみたいですよ」私が注文した日本酒をワイングラスに注ぎながら、女性スタッフが言った。

「そうなんだよ。連休ったって、ウチは小学生の子どもがいるから、どっか連れてって~!って、毎日、キャンプだのプールだの…。オレは全く休めなかった」と、40代の常連さん。

「ボクは、普段行けないところに行こうと思って、高速バスで旅行してみたんですけど、帰りに台風が来ちゃって…。予約していたバスが運休になって、大変でした」と、30代の常連さん。

「みんな、大変だったんだねぇ。お疲れさまです!明日も、元気出していきましょ~」と私は、日本酒の入ったワイングラスを持ち上げて言った。

そのワイングラスのかたわらにあるのは、私がその日のおつまみに選んだ「イカの塩辛」である。

「あ、そういえばね、ガッツポーズのガッツって、英語なの、知ってます?」と私。

「なんだよ、急に」と常連さんがいぶかしげに答えた。

「あ。そうですよね。実は、ガッツって、このイカの塩辛に使われてるって、この前、初めて知ったものですから」

「え?ガッツがイカの塩辛に??」

「そうなんですよ。イカは英語で、スクィッド(squid)っていうので、

イカの塩辛は、ソルテッド スクィッド(salted squid)ですけど、これだけだとイカの塩漬け、ってことなんです。

でも塩辛は塩だけじゃなくて、イカの「わた」で漬け込んであるから

スクィッド マリネ―ド イン ソルト アンド スクィッズ ソフト ガッツ(squid marinated in salt and squid's soft guts)っていうらしいの。

ソフトガッツっていうのが、やわらかい内臓とかはらわた、ってことなんだって」

「で?内臓って意味のガッツと、日本語のガッツは同じ言葉なんですか?」

「そうみたい。ガッツは英語で、腸、はらわた、内臓。そこから転じて、度胸っていう意味もあるんだって」

「え~?!ってことは、ガッツがある、って英語だったの?!」

「そういえば、がっつ、なんて、ひらがなで書かないもんね」

「知らなかった~!」疲れた顔をしていた常連さんたちが、いつのまにか笑顔になっていた。

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