のどぐろの干物と、酒飲みの女
「ねぇ、ねぇ。のどぐろって、英語でなんて言うの?」
なじみの居酒屋のメニューに「のどぐろの一夜干し」を見つけた私は、隣席にいる常連さんに聞いた。小柄で色白という見た目とは裏腹で、海に潜るのが大好きなその人は、年がら年中、港の近くやどこかの島に行っている。
「ん?のどぐろ?のどぐろは正式にはアカムツっていう魚なんだけど、英語ではなんて言うのかなぁ…。そういえば、知らないな」
グラスに入った夏酒を飲みながら、常連さんはそう言った。そうなれば、やっぱり頼るのはグーグル先生だ。
「グーグル先生に聞いてみよ~!」
私はそう言って、すかさずスマホを操作した。魚の名前とあって、隣席の常連さんも興味津々である。
「で?なんて出てきたの?」
「あれ?なんか、名前が2つあるよ。ん~っとね…」
日本語でも「のどぐろ」「アカムツ」というが、英語もどちらでも通じるらしい。
「のどぐろなら、ブラックスロート シーパーチ(Blackthroat seaperch)、
アカムツなら、ロージー シーバス(Rosy seabass)だって」
「ふ~ん…。そう言われると、ブラックスロートは黒いのどで、シーパーチはスズキだし、ロージー シーバスはバラ色のスズキって意味だな」
「へ~え。そうなんだ!なんか、結構そのまんまだけど、レッド シーバスじゃなくて、ロージー シーバスっていうのが、ステキだわ~!」
「赤じゃなくて、バラ色な。確かに、バラ色と言われればそうかな」
「シーバスっていえばさ、シーバスリーガルっていうのもあるよね?」
「それは、酒の名前だろ?あれは、人の名前。シーバス(Chivas)の綴りは、ぜんぜん海と関係ないんだよ」
「え?そうなの?海のシー(sae)だと思ってた!」
「びんこは、なんでも酒と関連付けるなぁ」
ちょうどその時、「のどぐろの一夜干し」を運んできた店主が言った。こんがりと焼けたのどぐろは「ロージー シーバス」の名の通り、皮がバラ色に輝いている。
「お~!いい色だねぇ」
生ののどぐろももちろん美味だが、干物は味が凝縮されている。箸でほぐして、脂ののった身をパクリと口の中へ。
「ん~!やっぱりおいしい!」
バラ色の魚は、お酒がすすむ。すすんだお酒で、のんべえの頬はバラ色に染まるのであった。
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