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ボクたちは何を忘れてきたのだろう

天秤座CD「わすれもの 1976~」

ライナーノーツに代えて


1.「京都」 (1977年) 

作詞:天秤座/作曲:西牟田泰央

 1976年から1980年まで活動した、
天秤座のオリジナル曲の中でも代表曲の一つ。
今回のレコーディングは、イントロも間奏も1977年発表当時のギターフレーズをそのまま増田が再現し、
ベースやドラムスも足して増田の自宅で宅録。
さらにエンジニアの森幸長氏が、ストリングスや琴など和風のメロディーを足してアレンジしてくれました。
 このCDは「うた」を伝えることを最優先しているため、
観光客もほとんどいなかった、
1977年当時の静かな京都の風景と同時に、
この歌詞の奥行きを感じ取って貰えたら嬉しいです。

 そう、
70年代の「うた」に欠かせなかったのが「情景描写」。
聴く人は、その「うた」を聴きながら、
3分間の短編映画を見るように、
情景や風景が見え、想像したり感情移入できたものでした。


2.「6月の雨」(1978年)

作詞・作曲:増田達彦

 1977年ドラムスとベース、ピアノの、
バックメンバーが加わったことで、
天秤座の代表曲の一つとなったROCK色の強い曲。
ヴォーカルの西牟田の気だるい歌い方が、
当時の気だるい時代を彷彿とさせます。

 この「6月の雨」も、
心情を直接的な言葉にするのではなく、
雨の都会の風景描写の中に、
当時の時代のやるせない気分や、
心情を織り込んだ「うた」です。

 そういえば、
最近は心情や気持ちをそのまま言葉にした楽曲が多く、
情景描写が少なくて、
風景が見えない曲が多いように感じます。
スマホばかり見てると、
周りの風景を見ている余裕がないのかもしれませんね。


3.「ありがとう」(2003年)

 作詞・作曲:増田達彦

「天秤座」としての活動は中止中、
増田がソロとしてコツコツ作っていた曲の一つ。
原曲はたくさんの楽器を重ねた、厚みのあるPOPな楽曲だったのですが、
「天秤座」の持ち歌とする際、アコースティック・ライヴ用の弾き語り風に作り直した「うた」。
ストリングスなどを足してくれた森さんのアレンジで、
この歌の持つ優しい気持ちが増しました。

 考えてみたら、ボクたちは、いろんな人のおかげで生かされています。
人だけじゃなく、森羅万象、あらゆる自然のおかげで生きています。
そんなすべてに、いつも「ありがとう」という気持ちを持っていたい、
自分だけでなく、周りの人々はもちろん、あらゆる命や森羅万象への想像力と感謝を持って、生きてゆきたい・・・
そんな気持ちの「うた」です。


4.「雑草(みちくさ)」(2021年)

 作詞・作曲:増田達彦

増田が「天秤座」再結成のために書き下ろした曲の一つ。
優しいがゆえに人生につまずいた男と、それを支える恋人、
都会の線路際を歩くそんな二人の情景とヤリトリを、
道端に咲く野の花に例えて描いた「うた」です。

「勝ち組」とか「ポジティブ」がもてはやされ、
みんなが同じような価値観を要求される「同調圧力」の強い現代日本は、
人とちょっと違っていたり、思いやりの歯車が人と嚙み合わない人には、
とても生きづらい世の中のように思えます。
 でも都会の道端の雑草が付ける、
小さくとも美しい花々のように、
みんなが自分らしく自信を持って生きてほしいと願って増田が作った曲。
雑草という草はないのですから。
みんな名前があるのですから。


5.「Sunday Afternoon」(2020年)

 作詞・作曲:赤津哲郎

 2019年の天秤座再結成と共に加入した
赤津のオリジナル曲。
春の穏やかな休日の午後、
共に人生を過ごしてきたパートナーと、
のんびり散歩しながら、
さりげない風景や言葉のやり取りの中に、
人生の幸せの本質を描き出した、
ほっこりと暖かい「うた」です。

 生きるということは、喜びと共に、
様々なつらい出来事にも遭遇します。
でも、パートナーと助け合いながら艱難辛苦を乗り越え、
こんな風に、おだやかに、
ずっと一緒に生きてゆけたらいいな、
そんな風に思わせてくれませんか。


6.「旅立つ前に」(1976年)

 作詞:増田達彦/作曲:西牟田泰央

「天秤座」結成時、増田の歌詞に西牟田が曲を付けた、数少ない共作の一つ。
ほぼ必ず毎回セットリストに入っていた曲で、
アレンジのパターンも多く、
そういう意味でも「天秤座」の一番の代表曲と言えるかもしれません。

 好きなのに告白できていない人を残して上京する若者の心情をモチーフにしたもので、
今のようにスマホどころか、
携帯電話やポケベルすらない時代、
電話で直接気持ちを伝えるのには勇気がいるし
(親が出るかもしれん)、
声は聴きたいけど、
何を言えばいいのかわからない・・・。
そんなちょっと切ない旅立つ前の夜の気持ち。
そんな気持ちを、現代のボクたちは、
あの時代に忘れてきてしまったのでしょうか。
(上京する前日の増田のリアルドキュメントという説も・・・)



7.「洗い物をしてる君」(1977年)

 作詞・作曲:増田達彦

 家事は女性のものとか、
そんな役割分担は無かったけど、
好きな人と一緒に暮らしていたら、
彼がまだ眠っている間に、
洗い物は済ませてあげたい・・・

 そんな恋人のやさしさに気付いて、
彼女の美しい後ろ姿に後光が射しているように見える、
そんな情景を歌った「うた」ですね。
さりげない日常の情景をうたった「うた」も、
70年代にはたくさんありました。


8.「はこべ」(2003年)

 作詞・作曲:増田達彦

「はこべ」とは春の七草の一つ、「はこべら」のこと。
白い小さな花弁が二枚づつ5組になって丸く咲く
小さな花です。
都会でも田舎でもどこでも道端によく生えている草で、
早春から咲くその姿は、よく見ると、小さいながらも、
とても清楚で清らかで健気で美しい花だと気づきます。

 純粋で清楚な女性を、ハコベの花に例えたラブソング。
ひそかに想う女性を、バラでもユリでも桜でもなく、
足元に咲く小さな野の花に例える泥臭さが、
天秤座らしいといえるかも。
でも、本当に美しい花なので、
みなさんもぜひ春に、
足許に咲く「はこべ」の花を探してみて下さい。


9.「夏タイム楽タイム」(2009年)

 作詞・作曲:増田達彦

 同調圧力の強い日本では、夏になると、
みんながハワイだの軽井沢だのへ出かけるのを聞き、
自分も海や山などのリゾート地に出かけなきゃ、
みたいな気持ちになってしまいます。

 でも、縁側に寝そべって、目をつむり、
風鈴の音を聞いていると、
遥かにビーチの波音が聞こえて、
そこが南の島のバルコニーに思えてくる・・・

 ラグタイム風のアコースティックギターに乗せて、
お金をかけずに想像力で夏を楽しもうという
お気楽ソングです。
でも最近の猛暑は、そんな想像力さえ奪ってしまいそう。
そういえば縁側のある家も、
最近は少なくなってしまいました。


10.「陽炎」(1977年)

 作詞・作曲:増田達彦

 ハードボイルドタッチの男女の仲にあこがれて作った、
横浜が舞台の気だるいロック風の「うた」です。
これも、真夏の街の風景や暮らしの中の細かい情景描写で、
気だるい大人の恋の心情を表現しようとしたものですが、
こんなかっこいい恋なんて、現実にはまだ20歳前の若造には無理ですわ。
 でも、1977年当時、横浜、桜木町の駅裏は、
たくさんの貨車が並ぶ広大なヤード(操車場)が広がり、
赤レンガ倉庫のある埠頭には、貨物線のレールが鈍色に光り、
関内のガード上を走る京浜東北線の青い電車の轟音が響く風景は、
確かに、「俺たちの勲章」や「西部警察」など、
刑事ドラマのロケが似合う、
ハードボイルドな街でした。


11.「高瀬川」(1976年)

 作詞・作曲:西牟田泰央

 女性の立場の曲が書ける、
西牟田ならではの京都シリーズ第一弾。
高瀬川はご存じ、鴨川の横を流れ、
水運に使われた小河川。
祇園あたりでも、
小粋な街並みの中をサラサラと流れています。

鴨川よりも、その情景は、
京都的な川かも知れません。
その情景と共に、
森鴎外の小説から着想を得たという「うた」。
西牟田作品ならではの、
切ないサビが効いてます。


12.「君に出会えた奇跡」(2011年)

 作詞・作曲:増田達彦

 実はこの「うた」は、とある映像作品の、
エンディングテーマとして書いたもの。
イントロがシンプルでやたら長いのも、
映像作品のいいきっかけの所から入ってこれて、
しばらくBGMとして盛り上げてから、
エンドロールに歌がかかるように計算したためです。
だから、この「うた」の「君」は、
意外な生きものを指しているのですが、
当然、人間も生きものの中の一つですから、
応援ソングとして聴いていただけたら本望です。

 こうした映像作品の挿入歌やテーマ曲として「うた」は作っても、
天秤座の「うた」は決して映像化(PV)はしません。
なぜなら、「うた」そのものが情景描写と共に一つのドラマになっているから。
それを映像化すると、安っぽい「カラオケビデオ」になってしまいます。
「うた」は聴く人それぞれが想像した情景を思い浮かべられるもの。
もしPVを作るなら、ライヴ映像に勝るものはありません。


13.「Seagull」(1978年)

 作詞・作曲:増田達彦

 大学の音楽サークルの合宿で群馬県の片品村へ行った時、
民宿の部屋でできた「うた」。
夏休みの小学校の体育館で初めて演奏した際の録音が、
ナチュラルエコーが素晴らしく、大好きでした。
片品村と言えば海なし県である群馬県の、
さらに山の奥の村。
尾瀬も近く夏は避暑地として自然が美しい高原で、
そんな場所で海の歌ができたのも不思議です。
部屋の外に広がる、広々とした片品村の美しい夏空が、
天秤座に授けてくれた「うた」なのかもしれません。


14.「カレンダー」(1976年)

 作詞・作曲:西牟田泰央

 1970年代、天秤座がライヴハウス等で活動していた時は、
意外にも1~2回しか演奏していない、レアな曲ですが、
増田、赤津の強い希望でCDに入れました。
カレンダーという生活の中の身近な日用品をモチーフに、
女性の細やかな心情を歌い込んだ、
西牟田作品ならではの、
70年代らしい優しく切ない「うた」です。

 カレンダーを見て、ふと、このひと月を振り返り、
つらかったこと、哀しかったことを思い出しても、
えいやっとめくったら、新しい月の数字が並んでいます。
きっと、今月こそは、いいことがありますように・・・。


15.「おやすみ」(1978年)

 作詞・作曲:西牟田泰央

 バラッド系の曲も得意とした西牟田の一曲。
ライヴでもセットリストでは最後の曲でした。
アコースティックでのライヴはあまりなかったかも。

 「カレンダー」のような純情可憐な「うた」から、
この「おやすみ」のようなアダルト?な「うた」まで、
西牟田作品は幅広いレパートリーがあります。

 作者は違いますが、
2021年の「雑草(みちくさ)」と比べると、
男性と女性の力関係というか、
恋愛観が随分変わったのが分かります。


16.「地下鉄Ⅱ」(1975年)

 作詞・作曲:増田達彦

 最後に、ボーナストラックというか、
1970年代後半の天秤座のライヴの雰囲気がわかる、
1977年当時のライヴ音源(横浜市日吉)そのままを入れました。
そもそもが増田が高校3年の時に作った曲で、
天秤座のレパートリーとして、
アコースティック・デュオの時には
よくライヴのオープニング曲として演奏していました。

 当時は駅の改札は当然自動ではなく駅員さんがいて、
その近くには必ず「伝言板」があり、友達や彼女との連絡に使ったものです。
SNSは便利でいいけど、駅の伝言板に彼女のメッセージを見つけた時のトキメキは、
SNSでは絶対味わえない感動でした。
ちなみに、最後のサビで一か所コード進行を間違えているのは、増田です・・・トホホ。

          文責:増田達彦