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セリエA 第11節 ユベントス vs エンポリ 〜可変式5-3-2

エンポリとのホーム戦は4-0でユベントスの勝利となりました。注目したいのは、採用した5-3-2システムです。今季は主にCLで採用してきましたがうまく機能していませんでした。しかし、エンポリ戦ではそれなりに機能していたように思います。もしかしたらしばらく5-3-2をメインに据えるかもしれません。今回はユベントスの5-3-2システムについて思ったことを書いておきます。

ユベントスの5-3-2

ユベントスの先発は、シュチェスニー、クアドラード、ルガーニ、ボヌッチ、ダニーロ、コスティッチ、マッケニー、ロカテッリ、ラビオ、ブラホビッチ、キーン。WBにクアドラードとコスティッチが入り、3センターにはマッケニー、ロカテッリ、ラビオが並ぶ。

攻撃のメカニズム

攻撃時にマッケニーとラビオがサイドに張る必要がなくなり、中の厚みを確保できる点が攻撃における最大のメリットになる。攻撃時には3-1-4-2のような形になり、外はクアドラードとコスティッチに任せることになる。そして、エンポリの2トップに対して数的優位を取れる3バックが広がってポジションを取り、フリーになったCBがサイドからボールを運んでクアドラードとコスティッチをサポートする。その上でロカテッリがエンポリの2トップの間をとって牽制しているため、エンポリのハイプレスはほとんどハマらなかった。さらに、ラビオや後半から入ったパレデスがディフェンスラインに落ちてボールを受け取り、ドリブルで運ぶシーンも見られた。後ろの枚数調整からマークのズレを起こし、フリーになった選手がドリブルでボールを運んで相手の守備を引きつけてコスティッチとクアドラードをフリーにする。ラビオとマッケニーは内を走り抜けてハーフスペースを取りにいく。ラビオとコスティッチ、マッケニーとクアドラードのコンビネーションはとても良かったと思う。どちらかがボールを持った時に必ずサポートに入り、ボールホルダーに選択肢と時間を与えていた。ウイングバックとインサイドハーフのポジションを調整して近い位置で連携を取れるようにしているように感じた。前線にはブラホビッチとキーンが構えており、エンポリのCBを引っ張っている。後方で数的優位を作ってドリブルでボールを運べるので、マッケニーとラビオはあらかじめクアドラード、コスティッチと近い位置まで上がることができていた。通せる時には縦パスを通して中を使う意識も見せて、ブラホビッチがボールを収めてサイドへと散らしていく。そこからインサイドハーフとの連携でサイドを攻略してクロスを撃ち込む。エンポリにレンタルされてCBとして出場していたデヴィンターの背後をキーンが狙って決定機を連発した。

攻撃中も後方に3バックとロカテッリが控えているため、セカンドボールやカウンターの起点になりそうな選手に対して4人のうち近い位置にいる選手がマークについて潰してしまうか、時間をかけさせて味方の戻りを促す。ロカテッリの被カウンター対応はあいかわらず絶品だった。ゴールへの最短距離を塞いでドリブルを遠回りさせながらボールホルダーから距離をとって下がることでドリブル突破を許さず、時間を稼いで味方の戻りを待つ。お手本のようなカウンター対応だった。ミラン戦もそこまで悪い内容ではなかったし、チームの復調にはロカテッリの復帰が大きく関わっているように思う。エンポリ戦はカウンターへの対応も怠ることなく、攻撃中にも守備への準備ができていたと言っていいだろう。

守備のメカニズム

守備時は5-3-2で構えつつ、主にコスティッチを一列前に移動させることで中盤の横幅をカバー。コスティッチが上がるのに合わせてディフェンスラインも左にスライドして4バックを形成。4-4-2へと変化する。右サイドでボールを持たれた時には、クアドラードが上がることもあったが、メインはマッケニーの鬼スライドで中盤のサイドをカバーしていた。中盤のラインを越えられると上がっていたWBもディフェンスラインに戻って5バックでゴール前を固める。守備の人数を確保してゴールを割らせない守備へと切り替える。ウイングバックを上げ下げすることで5-3-2の泣き所である中盤3センターの脇をカバーしつつ、5バックでゴール前を堅く守ることもできる。さらに5バックだからこそ、CB陣は思い切って前に出て人を捕まえに行くことができる。この試合ではルガーニがガンガン前に出てエンポリのFWがボールを受けるところを早めに潰していた。コスティッチがかなりスムーズに動けるようになっていたこともあり、5-3-2の守備はうまく機能していたように思う。与えた決定機はクアドラードの危険なボールロストから至近距離から撃たれたシュートくらいだろう。4-4-2と5-3-2の良いところを合わせたような可変守備でエンポリを抑え込んだ。

ボール奪取からは素早くボールを前線に送り込み、マッケニー、ラビオ、コスティッチらが前線に走り込む。人数をかけたコレクティブ・カウンターで相手の守備陣形が整う前にフィニッシュまで持っていこうという意識が強かった。前線にボールを出せなかった場合やカウンターが止められた時には、ボールを保持してサイドを起点に攻め込む。昨季、課題だったポジティブトランジションにおいても前に走り込む人数を増やすことに成功し、危険なカウンターを打てるようになってきている。これにはコスティッチの加入がとてつもなく大きい。ポジティブトランジションの際、コスティッチは必ずと言っていいほど最前線のボールの位置まで駆け上がっている。2トップだけでなく、左サイドをコスティッチが駆け上がることで選択肢が増える。やはり守備側はゴールがある中央を守ろうとするが、コスティッチが左サイドを駆け上がることでフリーになれる。強烈な左足と高精度のクロスを持つコスティッチがフリーで、しかもカウンターという敵陣にスペースが広がっているシチュエーションなら、高い確率で決定機を演出してくれるだろう。カウンター発動の場面は、今季のユベントスで最もワクワクするシーンだ。

ラビオとマッケニー

エンポリ戦のMOMは間違いなくラビオだ。先制点は、低い位置で起点となり、ドリブルで50m近くを運んでマークを引きつけてコスティッチに時間を与えたラビオのチャンメイクによるところが大きい。CKをファーサイドからヘディングで押し込んだ3点目は頭一つ抜け出していた。ラビオの高さは、相手にとって脅威になることを証明した。さらに右サイドをダニーロとロカテッリが崩して送り込まれたクロスを押し込んだ4点目。後半アディショナルタイムでもゴール前まで走り込んでいた。積極的にペナルティエリアへ飛び込むプレーは昨季から1年以上待ち続けたものだ。ラビオの高さと長いストライドを生かしたトップスピードの速さはCHの位置からペナルティエリアへ飛び込んできたら、相手は中々止められないだろう。この試合のようにサイドを起点に攻撃を展開するなら、逆サイドのクロスに飛び込むプレーは積極的に披露していってほしい。これからラビオの得点が伸びていきそうな雰囲気が漂い始めたような感じがする。これが気のせいで終わらないことを祈るばかりだ。

また、マッケニーも守備では右サイドの広範囲をカバーしつつ、攻撃では突撃小僧としてペナルティエリアへ飛び込んでいた。マッケニーのいいところはライン間にポジションを取り続ける図太さとチャンスと見るやボールより前に走り込む積極性だ。今季は怪我明けだったことやブラジルのロナウドを彷彿とさせる体型になってしまったこともあって、明確に不調だった。しかし、ここ最近は体が絞れてきたように見える。体のキレも増し、復調の兆しが窺える。ラビオとマッケニーのコンビは敵陣のペナルティエリアで攻撃に迫力をもたらしていた。

シーズンも10節を消化したこの時点で、現状のメンバーで組めるベストなフォーメーションを見つけ出したような印象を受けた。ブレーメル、ディマリアが負傷中で、ポグバ、キエーザも復帰できない現状であれば、ベンフィカにも、インテルにもこの5-3-2で挑むのではないか。少なくともCL第2節までの不格好な代物でないことだけは確かだ。

なお、この試合のエンポリがコンディション不良からなのか調子があまり良くなかったことは留意しておくべきだとは思う。特に守備の際のポジショニングがバラバラだった。中盤の守備ラインはほとんどその体を成していなかった。デヴィンターにはキーンに背後を取られまくったこの試合を糧にさらに成長して戻ってきてほしい。彼はダニーロの後継者になりうる逸材だと思っている。

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