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エバートン vs フラム

月曜日から素晴らしい試合を見ました!新加入のマッジャの2ゴールでエバートンに2-0で快勝!次戦以降も楽しく観戦するために、完全にフラム目線で振り返っておくことにします。

パーカー監督の4-4-2

エバートン戦のスタメンは、アレオラ、テテ、アンデルセン、アダラビオヨ、オラ・アイナ、ロフタスチーク、ハリソン・リード、レミナ、ルックマン、デコードバ・リード、マッジャ。注目すべきは、デコードバ・リードとマッジャで2トップを組み、守備時にハッキリと4-4-2の布陣を敷いてきたこと。ウェストハム戦はデコードバ・リードを右SHで起用し、4-4-2でスタートしたものの前半途中から5-3-2に変更していた。しかし、エバートン戦では4-4-2を維持して守備を行った。

ゾーン2で4-4-2で構え、ミドルプレスを行うのが基本のプラン。2トップはアンカーポジションに入った選手へのパスコースを消しつつセンターバックへプレスをかける。マッジャ、デコードバ・リードはこのプレスのかけ方を徹底していた。そしてフラムの中盤4枚はボールの移動に合わせて細かくスライドを繰り返して相手CBからの縦パスを消す。その結果、エバートンのビルドアップはサイド経由になる。そこにSHが縦を切りながら寄せていくことでボールの前進を食い止める。CBにボールが戻されたら同じことの繰り返し。相手ビルドアップ隊と我慢比べだ。そうなるとロングボールが相手が取る選択肢になってくるが、待ち構えるCBはハイボールには滅法強いアンデルセンとアダラビオヨ。ここでボールを回収する。

中盤のスライドが間に合わない時はSHは中を切りながら寄せる。そうすることによってSB→SHのパスルートに限定する。味方SBは相手SHにタイトにマークについてパスを出させない。パスが出たらSBが厳しくマークについて振り向かせず、SHが素早くプレスバックしてCHとも連携しながらサイドを封鎖してボールを奪う。この守備は主にロフタスチークがいる右サイドで行われることが多かった。ロフタスチークのポジショニングや移動のスピードの問題なのか、設計なのかはわからない。しかし、ロフタスチークのキャラクターにはよく合っており、機能していたと思う。

さらに、上記の守備でゾーン2から先への前進をストップし、相手のバックパスを誘ったら、ゾーン1まで陣形を押し上げてハイプレスに移行する。トリガーは相手のバックパスだ。マッジャとデコードバ・リードが相手CBにプレスをかける。連動して中盤も押し上げてマンマーク気味にボールサイドにいる相手選手を捕まえ、パスコースを消しにかかる。マッジャ、デコードバ・リード、ルックマンにはスピードがあるので、この3人は特にプレスが速い。相手から時間とスペースを奪い、無理なパスを蹴らせて中盤やディフェンスラインでボールを回収する。このハイプレスも面白いように機能していた。

エバートンが3バック化してディフェンスラインで数的優位を確保してビルドアップに臨んできたらどうなっていたか、興味はある。何度かそんなシーンはあったが、その時は中へのパスコースを消し、外への展開を中盤のスライドで対応することで前進を止めていた。結局、エバートンが3バック化をチーム戦術としてやってこなかったのでフラムの守備がハマっていたように思う。3バックのチームやビルドアップで3バック化してくるチームと当たった時にどう対応するのか。終盤に見せたゾーン1まで引いた守備には不安が残るため、なんとかゾーン2で踏み止まって、中盤から人を出してでもハイプレスに行きたいところではある。ただし、90分間ハイプレスを続けるのは難しい。やはり、ゾーン1で構える守備の整備は今後の課題になるだろう。喫緊の課題として、SBとCBの間を誰が埋めるかを決めて守備に当たることだ。左右のCHが下がってCBとSBの間を埋める方が、ロフタスチークやルックマンを少しでも前のポジションに残せていいのではないか。

ハーフスペースの裏を狙え

ポジティブトランジションは、ハイプレスやミドルプレスの結果、高い位置でボールを奪ったときにはショートカウンターを発動していた。一方、ロングボールの回収や低い位置でのボール奪回時にはポゼッションの確立を優先。以下に述べる攻撃に移行していた。そして、その攻撃のメカニズムが論理的に組み上げられていてとても面白かった。

守備時は4-4-2だが、攻撃時は変則型3-3-4に変化していた。3バックのポジションにはいるのは、右からアンデルセン、アダラビオヨ、オラ・アイナ。その前にハリソン・リードとレミナが陣取りビルドアップのサポートに入る。テテはこの2人とほぼ同じ高さで右サイドの幅を取っていた。前線は左からルックマン、デコードバ・リード、マッジャ、ロフタスチーク。ルックマンは左サイドに張って幅を取りつつ、積極的に1on1を仕掛けていた。テテの高さは少し気になるが、相変わらず5レーン理論に基づいたポジショニングから数的優位と位置的優位を活かした攻撃を繰り広げていた。

試合開始直後はエバートンも3トップ気味に出て、フラムの3バックを押さえにきたが、テテのサポートやハリソン・リードがディフェンスラインまで下りることで後方の数的優位を譲らなかった。その時はデコードバ・リードやロフタスチークが中盤まで下がってボールを中盤で受けていた。3トップ気味にハイプレスをかけても回避されてボールの前進を許してしまったため、エバートンはハイプレスを諦め、ミドルプレスに移行した。前半10分くらいまでのフラムのビルドアップ対エバートンのハイプレスの戦いも中々面白かった。

その後は3バック+2の数的優位を活かしてボールを前進させる。フラムの3バックは全員ボールをドリブルで運べ、なおかつ中盤まで速いショートパスを通す眼と技術を持っている。連戦の影響からかエバートンの動きが鈍いことも相まって、後方から中盤や前線へ次々と縦パスが通っていった。特筆すべきはアンデルセン。ワンタッチで素早い縦パスを通したかと思ったら、低く速い弾道のサイドチェンジをルックマンに届ける。さらにフワリと浮いたロングパスを裏抜けするロフタスチークの前に落とすなど、多彩なキックで次々とチャンスを演出していた。(リバプールは冬の移籍でアンデルセンを獲ればよかったんじゃないか?)
ハリソン・リードはまさに縦横無尽。中盤でボールを受けたら素早いターンで前を向いて縦パス、左右への散らしとリズム良くボールを捌いていく。しかもパスアンドゴーですぐにポジションを取り直して、ボールサイドに顔を出してサポートに入りながら、気づいたらペナルティエリアすぐ外まで上がっている。レミナも的確なパス回しでポゼッションの確立に貢献していた。後ろが安定してボールを前線に供給していたので、前の4枚は何度も相手ディフェンスラインに仕掛けることができていた。

その中でも目立ったのが、左右ハーフスペースの深い位置を狙って相手ディフェンスラインの裏を取る動きである。サイドに張った選手にボールが入ると、隣のハーフスペースを他の選手が駆け上がる。右サイドではロフタスチークが何度もハーフスペースの裏を狙って駆け上がっていた。

さらに、ペナルティエリア内の左右ハーフスペースを取った時にはショートクロスでシュートに持ち込むことも徹底されていた。右からはハーフスペースをとったロフタスチークがショートクロスを何本も入れていた。左サイドではルックマンの仕掛けからデコードバ・リードが左ハーフスペースでサポートに入ってポストプレーやコンビネーションでシュートチャンスを演出。オラ・アイナが上がってきてハーフスペースを取ってショートクロスを入れる場面もあった。1点目のシーンを思い出すと、左ハーフスペースをドリブルで駆け上がったオラ・アイナがボディフェイクで左アウトサイドに開いて相手SBをサイドに吊り出したルックマンとのワンツーで左ハーフスペースの裏をついた。そして左ハーフスペースの深いところから上げた速いショートクロスに抜群のタイミングで相手CBの死角に走り込んだマッジャが合わせたものである。しかも、30秒以上もボール保持を続け、12本のパスをつないでゴールに結びつけている。その他のシーンでも、ハーフスペースの深い位置を取ること、そこからのショートクロスで点を取りに行くこと。この2点を徹底して狙っていた。パーカー監督はこの2点をトレーニングで叩き込んできたのだと思う。1点目は会心のシーンだったはずだが、チームには落ち着けとメッセージを送っていた。その冷静さ、すでに風格さえ感じます。

5レーン+1

次に2点目のシーンについて。
相手のハイプレスを回避するために右サイドのテテから出されたロングボールをセンターサークル付近でマッジャが収めたところから始まる。デコードバ・リードとルックマンがすでに駆け上がっており、左サイドのルックマンにボールが展開。スピード落としながら相手右SBに仕掛けるルックマン。その間にマッジャ、ロフタスチークもペナルティエリアまで上がり、レミナが右サイドに上がってきていた。5レーンを埋めており、相手のディフェンスを釘付けにしている状態だ。そこにペナルティエリア角まで上がってきたハリソン・リードにボールが渡り、ミドルシュート。ポストの跳ね返りをマッジャが押し込んだ。

5レーンを埋めて4バックに対して数的優位と位置的優位を取って攻撃を仕掛けるのが近年のトレンドだった。しかし、その対策として数的優位と位置的優位を消す5バックが使われるようになってきた。レスターが5バックを採用してマンCを5-2で粉砕し、5レーン理論の優位性も消されつつあるかに思えた。

しかし、この得点は5レーン理論を新たな境地に導くのではないか。つまり、5レーンを埋めた上で、さらにもう1人攻撃に参加する。5バックで対抗する相手でも、+1は押さえきれない。今回は、ハリソン・リードだ。中盤から下がってマークにつくしかないが、ルックマンが仕掛けてボールは動いている。ボールから目は切れない。そのタイミングで動き出せば、中盤の選手がマークにつくのは容易ではない。ディフェンスラインの選手にはマークすべき相手がいる。必然的に、+1の選手はフリーになる。得点のチャンスは広がる。

マンCのギュンドアンが得点を量産しているのも、この5レーン+1が関わっていると思っている。元々マンCは4-3-3をベースに戦っており、3トップと2CHが5レーンを埋めて攻撃を展開していた。そして、カンセロだ。カンセロがCHのように振る舞い高い位置を取ることで前線で5レーンを埋める一員になる。そこで浮くのがギュンドアンだ。味方の仕掛けやパス回しに合わせて瞬間的にフリーになり、裏抜け、ディフェンスライン前で受けてミドルなどでゴールを量産している。巷で話題のカンセロロールは、ギュンドアンを+1にするためにグアルディオラが発明したのではないかとさえ思う。

総括

フラムの2点目は、5レーンを埋めてさらにもう1人前線に送り込むことを戦術的に意図したものかどうかはわからない。しかし、左右ハーフスペースの深い位置を狙った裏抜けが明らかに増え、そこからのショートクロスを連発して点も取った。そして新戦力のマッジャが2得点。ペナルティエリアに陣取ってチャンスに顔を出していたし、強靭なフィジカルも魅力的だ。守備も4-4-2を採用してミドル〜ハイプレスを機能させた。ボールの前進を阻み、エバートンを自陣に押し込んで試合を進めることができた。この短期間で攻守ともに確実にレベルアップしている。最後の試合の閉め方と、前後半ともに30分過ぎに一度集中力が切れたかのようにピンチを迎えたことは今後改善すべき点だが、試合は本当に面白かった。この試合運びを継続できれば、残留は達成可能だと思う。これからチームとしてどんな成長を見せてくれるのか、何としても来季も観たいチームだ。
パーカー監督の手腕に期待してます!!

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