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セルビア代表敗退に思う 〜5-2-3の守り方について

コスティッチ、ブラホビッチ、ミトロビッチ、ミリンコビッチサビッチ兄弟、タディッチ、ミレンコビッチ……ユベントスとフラムを追いかけていた者としては「知ってる」「見たことある」選手が揃っていたセルビア代表。さらに監督はピクシーことストイコビッチ。カタールワールドカップでは密かに注目していましたが、残念ながら一勝も出来ずグループリーグ敗退となりました。セルビアの試合をフルで見られたのはカメルーン戦だけでしたが、ハイライトも含めて思ったことを書いておきます。

5-2-3の運用

セルビア代表が採用していたベースフォーメーションは5-2-3。攻撃時にはウイングバックが上下動してサイドの幅をとるスタイルが通常で、3トップの両脇はウイングではなくシャドーストライカー的な振る舞いになることが多い。そのため、攻撃時は3-2-5のような位置関係になる。インサイドに攻撃力のある選手を起用して、ペナルティエリアに攻撃的な選手を3人送り込むことができる。

コンテ時代のチェルシーは、左右のウイングにマルコス・アロンソとモーゼスを起用。守備時は5バックになるが、攻撃時にはサイドに張って攻撃の起点となる役割を担わせた。さらに、アザールとペドロを中盤に下げて5-4-1で守る堅固な守備ブロックを構築していた。3トップを前に残す手もなくはないが、5-2のブロックで守り切るのは至難の業だ。それでも、トゥヘル時代のチェルシーはカンテがピッチの半分をカバーしていたので何とかしていたが、そんな選手は世界広しといえどカンテただ1人。つまり、ウイングバックとシャドーの選手が攻守に渡って走り回れる運動量を持っているかがカギとなる配置と言える。

5-2-3とセルビア代表

では、セルビア代表の配置はどうなっていたか。トップにミトロビッチ。シャドーの位置にミリンコビッチサビッチとタディッチ。ウイングバックにコスティッチとジブコビッチ。コスティッチとジブコビッチの運動量は必要十分だったように思う。問題は、ミトロビッチとタディッチだ。ミトロビッチの決定力は群を抜いている。イングランド2部の得点記録を打ち立て、今季のプレミアリーグでも9得点をマーク。恵まれたフィジカルと得点感覚を武器にゴールを量産している。しかし、フラムでも露呈しているように守備での貢献はほとんどなく、後半になるとほとんど動けなくなってしまう。前線からの守備は望むべくもない。タディッチも攻撃のクオリティの高さは錆び付いてはいなかったが、年齢からくるフィジカルの衰えからか運動量は高くはなかった。さらに、スイス戦には守備をサボりがちなブラホビッチまで同時起用したものだから、守備もへったくれもあったものではない。

つまり、セルビア代表は5-2-3を運用するために必要な運動量と守備力(もしくは守備意識)を確保できていなかったと思う。

その不具合がカメルーン戦の前半にすでに表面化していた。3トップの戻りが遅いため中盤の2枚が持ち場を離れてサイドのボールにアプローチしなければならず、結果として5-4-1の守備ブロックを組むと中盤の真ん中にタディッチとミリンコビッチサビッチがいるというカオスがそこにはあった。そのシーンを見た時、セルビアの守備は崩壊すると確信した。その分、ミトロビッチ、タディッチらの攻撃性能を相手に押し付けることもできるため、オープンな点の取り合いが予想できた。カメルーンと3-3、スイスと2-3と派手な撃ち合いを演じて見せたが、結局は守備の脆さから撃ち負けることになったと見る。守備を整えていれば3-1とリードしていたカメルーンには勝てたと思う。スイスとも最低でも引き分けられただろう。

5-2-3とコスティッチ

そして、カメルーン戦の実況が、ストイコビッチ監督が直々にキーマンに指名したと話していたコスティッチだ。コスティッチはセルビア代表の5-2-3に振り回されてしまったと感じている。本当にストイコビッチ監督がコスティッチをキーマンだと思っていたのなら、その攻撃性能をより発揮できる配置やメカニズムを構築すべきだった。3トップが守備に戻ってこないため、左サイドの守備を一手に引き受け、守備に忙殺される時間が多かった。スイス戦の3失点は全てコスティッチのサイドが起点となってしまった。常時1対2の数的不利で守備をしなければならない状況に追い込まれており、コスティッチ1人の責任ではない。カンナバーロであろうと、マルディーニであろうと、チアゴ・シルバであろうと、常時数的不利の状況では失点は免れないだろう。

そして、ボールを奪った時には自陣深い位置まで下がっているため、攻撃に関与するのが難しくなってしまった。それでも、恐ろしく高いトランジションへの意識と動き出しの速さでカバーしていたが、流石にキツかっただろう。自由に動き回るタディッチがコスティッチの前方のスペースを埋めてしまって持ち味の突破やクロスが上げられなかったシーンもあった。

5バックを使うなら、コスティッチは左ウイングバックで使うことになる。そうなると、守備時にはディフェンスラインまで下がらなければならなくなる。だからこそ前線から守備をしてボールの前進を妨げ、少しでもコスティッチを前方に留めておく時間を長くすることはできなかったか。そうやってコスティッチを前に留めて守備をしている中で数回、ボールを奪取できればミトロビッチ、タディッチ、ミリンコビッチサビッチとコスティッチが連携した恐ろしく魅力的なショートカウンターを撃てただろう。想像するに、そんな機会が5回あれば最低でも2回はネットを揺らしているはずだ。カメルーンとスイスに連勝してグループリーグを突破することもできたはずだ。

ミトロビッチの決定力とタディッチのクオリティに賭けたのだろう。もしかしたら、ストイコビッチ監督は年齢的に最後のワールドカップになるだろうミトロビッチとタディッチに花を持たせたかったのかもしれない。それなら、なおのこと2人を2トップに据えた4-4-2もしくは5-3-2でベースフォーメーションを組んで、少なくとも8枚で守備をする方が良かったのではないか。ブラジル、カメルーン、スイスはいずれも4バックだった。ミトロビッチとタディッチも、相手の2CBを抑える守備なら負担も少なく、守備に貢献できたのではないか。ブラジルに勝つことは難しかったとしても、グループリーグの突破は十分可能だったと思う。

いよいよ決勝トーナメントが始まるが、セルビア代表がいない寂しさを感じるトーナメント表になってしまった。

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