サカバコウサロ・七夢

「……チワ」ガシャガシャ

「……いらっしゃい。今日もお勤めご苦労様です。」

「……ア……ドモッス」ガシャ

「エト……」ギシ

「こちらへどうぞ。ご注文はいつものをご用意しておきました」

「アザッス」ガシャジャ

「『死闘牛丼特盛』、『ゆでたまご』、静酒『御膳』です。今日はお疲れみたいですから、『季節のお吸物』をどうぞ。サービスです」

「ア……エト……アザッス」カシャ

「いえ、お客様にはこの店が始まったばかりの時から来ていただいていますから。これくらいご恩返しさせてください」

「……ウメ、ッス」シャ

「ありがとうございます。……ところで、例の件ですが」

「……!」ピタッ

「ええと、なんでしたか、ええ――いけませんね、記憶力が」

「エクスカリバトソウセイノダイチ」

「ああ!そうですそうです。ありがとうございます。『エクスカリバーと創世の大地』。貸していただいて本当にありがとうございます。拝読致しましたが、いやあなかなか今回もわくわくさせられました。素晴らしく面白いですね。」

「ウレシイ……ッス」

「あの、勇者トリモールが救ったはずの姫に崖から突き落とされて瀕死になってしまうシーン……手に汗握りました」

「ア……ホントッスカ!アノトキハホント……オドロキマシタ」

「生と死の境目をさまよい、死に抗いながら、それでも死んでいく身体を止められない。限界を迎える身体のなか、自分の信念を突き通し、自分を裏切った姫を護るために思念だけを鎧に灯して戻ってきたシーン……不覚にも泣いてしまいました」

「フフ……」ガシャガシャ

「……ところで、少し気になったのですが……」

「ン?」

「思念の鎧はあのあと、どうなったのでしょうか。」

「アー……」

「いえ、その、どうしても気になってしまって。終わり方がとても悲しかったのでなんとも言えない喪失感がありまして……あれが最終巻ということはわかっているのですが……」

「……」

「結局、姫は最期に裏切った自分に耐えきれず、自死を選びますよね。」

「……ウン」

「最後の挿絵では二人はひとつに結ばれていなかった。……事切れた姫を見下ろす鎧の、ラストシーンが印象的でした」

「……」ガシャ

「……すみません、お食事時に話す話ではありませんでしたかね」

「……ア、イエ……ソコハファンノアイダデモ、カイシャクガワレルトコロデスカラ」

「タノシンデクレタナラ、ウレシイデス。オハナシ、ツヅケテクダサイ」

「でも……余りにも悲しいじゃありませんか。わたし、ハッピーエンドが好きなので、どうしても……」

「……マア、ゲンジツナンテ、ソンナモンデスヨ」

「悲しいですね。もし、わたしがお話に登場出来たら、無理矢理にでもハッピーエンドに変えちゃいますよ」

「……フフ……ホントウニ、ソウダッタラヨカッタ、デス」

「……アア、デハ、ワタシハ、ソロソロ」ガシャ

「ええ、では、またのお越しをお待ちしております。」

「……」

「……」

「……お帰りになられましたよ」

「……!」ビクッ!

「……まったく、普通に会って差し上げればよろしいではないですか。」

「『無理よ』『だってわたし』『ただの羽ペンですもの』」

「『こんな姿』『彼に』『見せられない』」

「……強情な方です。」

「『なんとでもお言いなさい』」

「……それだけでは、ないのでは?」

「『裏切った私が』『どの面下げて』『彼に会えるのよ』」

「その割には隠れてお会いになってらっしゃいますが」

「『うるさい!』」

「やれやれ……おや?」

「『どうしたの』」

「あ、いえ、お忘れ物が……これは……嗚呼、ふふふ……」

「『なにがおかしいのよ』『かわいそうじゃない、届けてあげて』」

「ああいえ、まあ、そうですね」

「『なによ!』『ムカつく顔!』」

「――どうぞ。これはどうやら、あなた宛ですよ」

「『え?』『それってどういう意味?』『いったいなにが書いて――』」

『いつまでも、君を待つ』

「添えられていたのは、キキョウですね。花言葉は」

「『誠実』『不変の想い』『……知ってるわ、それくらい』」

「『本当』『バカで』」

「『そのくせ』『いつも』『格好いいんだから』」

「『あたしなんかには』『勿体無いくらい』」

「……お話の終わりは変わりますか」

「『さあ』『どうかしらね』――」

「……チワ」ガシャガシャ

「……いらっしゃい。今日もお勤めご苦労様です。」

「……ア……ドモッス」ガシャ

「エト……」ギシ

「こちらへどうぞ。ご注文はいつものをご用意しておきました」

「アザッス」ガシャジャ

「『死闘牛丼特盛』、『ゆでたまご』、静酒『御膳』です。今日は、なんだかお楽しそうですから、『ヨロイマムシドリンク』をどうぞ。サービスです」

「ア……エト……アザッス?」カシャ

「いえ、お客様には、良いものをいただきましたから。」

「ソウスカ?……ア、ウメ、ッス」シャ

「ありがとうございます。……ところで、例の件ですが」

「……!」ピタッ

「ええと、なんでしたか、ええ――いけませんね、いつもここまで出てくるのに」

「エクスカリバトソウセイノダイチ」

「ああ!そうですそうです。ありがとうございます。『エクスカリバーと創世の大地』。なんでも最終巻がまさかのリテイクだそうで、貸していただいて本当にありがとうございます。拝読致しましたが、いやあ、あれはいいものですね」

「ウレシイ……ッス」

「『死』という結末こそ変わりませんでしたが、最後の挿絵では二人はひとつに結ばれていた。……事切れた姫を護るように着せられた鎧の、ラストシーンが本当に印象的でした」

「……ソッスネ……ヘヘ」

「――ところで、兜に羽根飾りをつけられたのですね?」

「……ソッス」

「とてもよくお似合いですよ」

「……ヘヘ」

「……おや、風もないのに羽根が動いて……」

「『これ以上』『いじったら』『コ〇ス』」

「ふふふ、やれやれ。ああ、なんとも。――ハッピーエンドって、いいものですねえ――」

おこころづけ