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仮面の恋⑤

😈「お前は、どうしてすぐに音信不通になるんだ?」
⚗️「あぁ、悪い。立て込んでいた。」

大学のカフェテラスで隣に座ってきたのは、外見だけはヒーロー味に溢れた、数少ないヴィランの同志。

⚗️「何か用事でもあったか?」
😈「いや…きな臭くなってきたな、と思って。お前、仮面舞踏会の夜、どうしてた?」
⚗️「どうもこうも…仮面が壊れてしまってゲームオーバーさ。そのまま家に帰った。」
😈「そうだったのか。実はあの夜、ヒーローとヴィランでトラブルがあったんだよ。被害者がうちの教授の娘らしくて、やっぱりヴィランは明確に区別すべきじゃないかと今朝、学長宛に抗議文が提出されたらしい。」
⚗️「トラブルとは?」
😈「詳しくはわからないんだが、レイプ事件みたいだ。あんな空気じゃぁ、同意があったとかないとか、なかなか判断は難しいと思うけどな…。」

背筋がヒヤリとした。

😈「…翌朝に被害者の親族から告発されたらしい。最近、ヴィランでも優秀な功績を残す奴が多いし、主催者の善意で身分を問わないパーティーにしたんだろうが。そんなお情けも知らず、堂々とヒロイン様に手を出すとは、文字通りヤっちまった、って感じだな…。」

一歩間違えれば、我が身だ。
相手が👗だから、避けられただけの話。
鳩尾のあたりが、ザワザワして落ち着かない。

😈「どうするよ?IDに種別が記載されるようになったら。今更、ヴィランでしたテヘペロ、じゃ済まねーよ。それにヒーロー派閥にどっぷり浸かっていた野郎が、ヴィラン派閥に送り返されても、リンチの対象になるだけだぜ?」

確かにナーバスな話だ。
つい先日までは、毛を逆立てて警戒するような内容だが、どうしてだろう?自分の身の振り方についてはそこまで気にならなかった。
それよりもこのニュースを聴いた👗は、俺をどう思うだろうか?やはりヴィランは欲深い生き物だと、愛想を尽かしてないか?
そっちの方が気になって、話半分になってしまう。

😈「なぁ、やっぱり牙を削りに行かないか?なんならお前の分も肩代わりしてやるよ。外見と心理テストだけ完璧にクリアすりゃ、ひとまずは大丈夫だろ。おい、聴いてるか?」

そう、コイツはボンボンで気前がいい。連んでいる最大の理由だ。

⚗️「あー、うん。いや、しかし、どうせ学歴でバレるし、小手先で見繕っても、わかる奴にはわかるだろ?」
😈「そんなに丁寧に履歴までは確認しないと思うぞ。NRC卒は伏せて、家庭学習で済ませていた、とか適当に誤魔化せばいいだろ。午後の授業が終わったら、一緒に行かないか?一人じゃなんか気分がのらなくてさ…」
⚗️「いや、俺は遠慮しておくよ。」
😈「カッモーン!」
⚗️「…実は先日、褒められたんだ。俺は牙があるほうがイイらしい。」
😈「え?誰に?」
⚗️「ガールフレンドに。」
😈「は…?はぁぁぁぁ?!お前、恋人作らないっていってたじゃないか!ふーざけんな、何人の女を代わりに断ってやったと思ってんだよ!」

👿は、俺をダシにして女を引き寄せては、遊んでいる。
あまり他言すべき事柄ではないが、このキャンパスで唯一の気の置けない友人だし、伝えておいた方が何かと便利だろう…というのは、半分言い訳で、誰かにノロけたかった、盛大に。

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👿「いやいやいやいや、嘘だろ急に…。ってことは、それ、俺、もう完全に嘘つきじゃないかっ‼️」
⚗️「都合が悪ければ引き続き、居ない事にしてくれて構わない。」
😈「ぜひそうさせてもらう。ま、でもおめでとう。正直、お前も男だってわかってホッとしたよ。で、どんなコなんだ?」
⚗️「これ以上は言えないんだ…察してくれ。」
😈「おー…まじか。もしかして不倫……?」

それくらいに思ってもらおうと、黙って微笑み返す。

⚗️「なぁ、お前も牙を削るのは待ったほうがいいんじゃないか?じきにヒーローとかヴィランとか、二局対立はなくなる。未来はきっとハイブリッドだ。生まれも育ちも関係なくなり、互いの才能を認めあって共存することになる。不本意に自分を偽っても、後悔する日が来ると思うぞ?」

先週とは180度違う俺の意見に、😈はギョッとした顔をする。
しかし、すぐ真顔に戻って、こう言った。

😈「おまえ、それ何十年後の話してんだ?」

ナイフのような鋭い返しに、また胸のあたりが暗く、重たくなる。
早く彼女に逢いたい。

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