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「カッコいい」存在を構成するもの

平野啓一郎さんが新書で「『カッコいい』とは何か?」という本を出したようで、面白そうなので読んでみました。そして、自分なりに「『カッコいい』とは何か?」について、あるいは、俺自身はどのような存在を「カッコいい」と感じるのかについて考えてみたくなったので考察してみます。

まず、前述の本の中で平野さんが言っている、「カッコいい」と感じる時のメカニズムについてはとても同意しました。平野さんによれば、人はだれかを「カッコいい」と感じる時には「シビれる」感覚とセットであるといっています。そうそう!まさにそれはその通りなんですよ。先日ロック・イン・ジャパン・フェスに行ってきていろいろ大好きなアーチストがたくさん出たのですが、「大好き」とか「素晴らしい」とかのベクトルはとりあえずおいておいて、圧倒的に「カッコいい」存在だったのは東京スカパラダイスオーケストラでした。なぜスカパラを「カッコいい!!」と俺が感じたのかについてはこれから言及しますが、スカパラを見て俺が「か、カッケー!!💛」と感じたとき、その時に明らかに俺はシビれているのです。ここは重要で、この「シビれる」をもう少し掘り下げて表現するなら、まず5感の感覚器からインプットされたものが脳を介さずに自分の中にドスンとくる感覚です。インプットが「来る」場所は大きく分けると「脳」「ハート」「下半身」の3つだと思っているのですが、「カッコいい」存在はまず「ハート」と「下半身」にインプット情報がやってきて、そこから手足と体感に「シビれる」という体験感覚で伝わり、最後に脳にやってくる、という感じ。なので、「カッコいい」ということについて探求することはアンチ唯脳論について探求することなのかもしれないんですよ。脳がカラダを支配してるんじゃなくって、カラダが脳を支配しているバランスにあるときに、そのカラダが他者によって射抜かれてしまうようなとき、少なくとも俺はその他者の存在を「カッコいい」と感じているようです。

さて、ここからは俺がどのような存在を「カッコいい」存在としているのかについて彫っていきます。この方法としては、個別データからボトムアップで統合していく、ということをやってみます。

圧倒的に「カッコいい!」と俺が感じるのはミュージシャンです。その次に役者。あと、マンガのキャラ。反対に、「すごいなあ!」とは思うけど「カッコいい」とはあまり思はないのは同業者(医療者)やスポーツマンですね。それでは、カテゴリ別に徒然にサンプルを出していき、それぞれのサンプルに対してオレが「カッコいい=K」「好き=L」「素晴らしい=G」のそれぞれのカテゴリで5段階でどれくらいか記述していきます。

海外ミュージシャン
・ ビートルズ K1 L4 G5
・ ストーンズ K3 L4 G3
・ ザ・ジャム K5 L5 G2
・ The WHO K4 L2 G2
・ Sex Pistols K2 L3 G5
・ The Clash K4 L4 G3
・ RAMONES K5 L2 G2
・ 初期レッチリ K5 L4 G3
・ 最近のレッチリ K1 L2 G3
・ ソニック・ユース K4 L5 G3
・ ニルヴァーナ K1 L3 G4
・ レディオヘッド K1 L4 G5
・ ニュー・オーダー K1 L5 G3
・ The White Stripes K5 L4 G4
・ Mumford and Sons K5  L3 G3

・ Wilco K5  L5 G5

日本のミュージシャン
・ 星野源(Mu) K2 L3 G4
・ ギターウルフ K5 L2 G1
・ スカパラ K5 L3 G2
・ スピッツ K2 L4 G5
・ イエローモンキー K4 L4 G3
・ くるり K2 L5 G5
・ 電気グルーヴ K3 L5 G3
・ サカナクション K1 L4 G4
・ ソウルフラワーユニオン K4 L5 G5
・ 奥田民生 K3 L3 G4
・ ユニコーン K2 L1 G3
・ スペクトラム K5 L4 G2
・ ザゼンボーイズ K4 L3 G2
・ 向井秀徳 K3 L3 G2
・ 上原ひろみ K5 L2 G4

マンガのキャラ
・ フランキー(OP) K5 L4 G2
・ ルフィ(OP) K3 L4 G5
・ ゾロ(OP) K3 L3 G3
・ シャンクス(OP) K3 L2 G4
・ カイドウ(OP) K2 L1 G2
・ イワンコフ(OP) K5 L3 G3
・ ボンクレー(OP) K5 L4 G4
・ 鷹の目(OP) K4 L3 G5
・ 信(KD)K4 L3 G4
・ 蒙武(KD)K2 L1 G2
・ 王翦(KD)K1 L1 G5
・ 王賁(KD)K2 L2 G5
・ 桓騎(KD) K5 L5 G2
・ バジオウ(KD) K5 L4 G3
・ 龐煖(ほうけん)(KD)K1 L1 G2
・ 李朴(KD)K1 L2 G5


役者
・ 舘ひろし K2 L1 G2
・ 星野源 (役) K4 L2 G3
・ たこ八郎 K5 L3 G1
・ ピエール瀧 K4 L4 G3
・ 玉山鉄二 K4 L3 G2
・ オダギリジョー K2 L3 G4
・ 竹中直人 K3 L5 G4
・ 高倉健 K1 L1 G3
・ 山崎努 K4 L3 G2
・ ブルースリー K5 L3 G3
・ ターミネーター1のシュワちゃん K4 L3 G3

その他
・ 山本太郎 K4 L4 G5
・ 不破哲三 K5 L5 G3
・ 志位和夫 K2 L3 G3
・ 上野千鶴子 K4 L2 G5
・ 小泉進次郎 K1 L1 G2
・ 昭和天皇 K4 L4 G5
・ 羽生結弦 K2 L2 G4
・ 大谷翔平 K4 L2 G5

こんな感じです。ふー。
これ、別途潜在クラスタ分析とかやってみたくなってきた。

こうやって生データを作ってみると、わかることがあります。オレにとって「カッコいい存在」とは、おそらく以下のような存在なのだと思いました。

その1 方向性がオーソドックスで、その方向性に迷いがないこと:スカパラ、ギターウルフ、不破哲三のもつ「カッコよさ」については、まさにここなのだと思います。「カッコいい!!」ことについて、脳を通さずに直接腰で感じるためには、わかりにくいものであることはそれだけで結構な障害なのだと思います。スカならスカ、ジャズならジャズ、パンクならパンク、というように、ある程度オーソドックスなスタイルの範疇に収まっている方が「なんだこれは??」という問いを持たずにその存在の「カッコよさ」を味わうことができます。

その2 あるスタイルに対して忠実な表現型であること:たとえば「不破哲三」という名前は、その名前だけで共産党の委員長としてのスタイルを強調しています。加えて、あの鷲鼻とぎっちり塗り込められたポマード、そして、すべてをはねつけるような物言いは、「反体制」という「スタイル」の期待を裏切らず、見事に表現しています。あのスタイルに対する純度の高さが「カッコいい!!」の一部を担っているのだと思います。逆に言うと、ビートルズやレディオヘッドはどうしても「次に何が来るのかわからない」という「用意」を脳に強要するオリジナリティやイノヴェーティヴな特性を持っています。そのような特性があると、どうしても脳が頑張ろうとしてしまうので、腰でフルに受け止めることが難しくなるのです。

その3 その1とその2を満たしたうえで、無双感とスカラー量の逸脱(ギャップ萌え)を感じられること:「カッコいい!!」という感覚をステージを見ながら感じる時には「予想通り」と「予想を破る」ことが同時に起こっている必要があります。「予想通り」であることについては、そこで表現されていることの方向性です。新機軸のようなものは、あまり「カッコよさ」を感じる要素ではなさそうです。一方で、「まあこんなもんだろう」というスカラー量をはるかに超えるエネルギーやパフォーマンスが現れたとき、「カッコいい!!」という感覚が現れます。ギターウルフが「カッコいい!!」のは、「環七フィーバー」という実にダサいテーマで凡庸なフォーマットでできている楽曲を、理解不能なふり幅で表現されるところにあるのです。

その4 悪さがあること:キングダムに登場する桓騎は、この物語の中でダントツにカッコいい存在です。どこがかっこいいかというと、まずは「悪そうだ」というところです。そして、この「悪そうだ」というのが「悪い」ということではなくって、その奥にある「悪いようでいて実は教育的だ」みたいなところ。ただその部分は消して自らアピールしない。本人の表現型はただひたすら「悪い」だけ。こんなところはもうしびれるのですよ。李朴とかが全然「カッコよさ」でアピールしないのは、その辺の振り切れた悪さが全くないからですし、敵対する相手に対する敬意とかは「素晴らしい」とは思いますが「カッコいい!!」要素としてはむしろマイナスです。

その5 濃いこと:カッコいいためには、濃い必要があります。スピッツのたたずまいは結構カッコいいのですが、やはり「薄い」ので、「カッコいい!!」という感情を奮い立たせるのが難しいです。その点、スカパラはひたすら濃いです。さらには、真夏の野外フェスにもかかわらずスリーピースのスーツを着込んでバリサクを吹く姿はひたすら「濃い」のです。この「濃さ」は「カッコよさ」の重要な根拠ですね。ちなみに、不破哲三も実に濃いです。

反対に、その質は極めて優れているにもかかわらず、「カッコいい」要素がなくなってしまうとき、そこには「内省」とか「工夫」がみられる時だと思います。これは良しあしで、むしろ俺は内省や葛藤、工夫のない音楽や小説より、そのようなものがふんだんに盛り込まれているものをより「素晴らしいもの」と認識する傾向にはあります。しかしながら、こと「カッコいい」という視点だけでそのたたずまいをとらえたとき、複雑な考察や関係性の中での自分の身の振り方などが見えてしまうと、そのたたずまいは「あまりカッコよくない」ものとして映ってしまいます。    

同じ時代に同じようなスタイルの音楽を奏で、同じように「すごい!」と言われたピストルズ、クラッシュ、ラモーンズの比較は自分の中でも腑に落ちました。そして、相関係数計算していないのですが、自分がその存在をどれくらい好きかということについては、その存在がどれほど偉大かという度合いよりは、どれくらいカッコいいのか、ということと相関がありそうです、一方で、「カッコいい!」存在はだいたい「好き」な傾向にあるようですが、一方で「全くかっこよくない」存在でも「大好き!!」ということもありそうです。ビートルズとかニューオーダーとかはその典型ですね、うじうじと悩んでいるは、「カッコいい」姿とは別にとてもラブリーなのだと思います。

「キングダム」のキャラで面白いのは「カッコいい」存在たち(バジオウ、桓騎)と、偉大にもかかわらず全然かっこよくない存在(王翦、李朴)が結構極端に分かれることです。武将という「戦い」に特化した存在であるために、「カッコよさ」のふり幅がわかりやすいのでしょう。一方で、ワンピースのフランキーがなんといってもカッコいいのは「ロボ」感とか、「武器」感ですね。テクノロジーを携えているんだけど、そのテクノロジーが結構アウトで糸でダサいともうだいぶカッコいいです。音楽でいうならジョンスペンサーがテルミン使うのとかもう超カッコいい!!

分析対象となったサンプルに女性がほとんど出てこなかったのはきっと理由があります。それは二つで、一つはきっと俺がオトコだからです。もう一つは、平野氏も少し言及していましたが、「カッコいい」ことと「男らしい」ことが一部類似しているからだと思います。上原ひろみがひたすらカッコいいのは、そのたたずまいが性別を超えていることだと思います。

いやあ、考察しようと思うとまだまだできそうー。たのしいなあ!


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