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温もり

 昨夜、晩御飯の折に観た横山秀夫サスペンス第5作『囚人のジレンマ』は、名作シリーズの中でも飛び抜けた超名作だった。ラストの田畑課長(橋爪功)の独白シーンでは、不覚にも(独り暮らしだから、誰に気兼ねすることもないのだけれども)涙が溢れ出してきた。サスペンスだのミステリー作品で泣いてしまうなんて、ひょっとしたら人生で初めてのことかもしれない。が、それほどしびれる、鮮やかな“連携”だったということだ。

 昨日、橋爪功、段田安則を大絶賛したが、もちろん伊武雅刀、石橋凌にも、繊細な演技、表情で惹きこまれる。寺田農も上田耕一も良かったなぁ。立川三貴には悪役イメージしかなかったので、別の意味で「良かったなー」って泣きそうになった。

 昔っから思っていたことがある。伊武さんは、ヤマグチ土浦ジムの岩本悟会長にそっくりだ。岩本さんが意識しているのか、それとも伊武さんが意識しているのだろうか……なんて冗談はさておき、もしや親戚関係か? って思えてしまうほど、風貌のみならず雰囲気や佇まいまで似通っているのである。
 もしも、街で偶然に伊武さんと出会ってしまうことがあるとしたら、まるで知り合いのように気軽に話しかけてしまいそうな自分が怖い。そのときは班長よろしく、厳しく叱責していただきたい。

 以前、協栄ジムに取材に行った帰り、最寄り駅に向かっていると、前方から遠藤憲一が歩いてきたのに出くわしたことがある。昼時の裏通りで、周りには人が全然いない状況。まさに、「ひと声かけるなら今だ!」という状況だった。が、気づかないフリをしてすれ違ってしまった。
 エンケン本人はサングラスもかけず素顔のまんまで全然気取ったところがなかった。飄々とした表情で、街に溶け込んでいる風を装っていたが、かなり遠くからも「あ、エンケンだ!」ってわかるようなオーラが漂っていた。普段画面を通して見ているとおり、スラリと背が高く、とてつもなくカッコよかった。
 仕事柄、「ミーハー心を抑え込む」ように自分はできているのだが、本音を言えば「源さん!」って叫びながら飛びつきたかった(笑)。そこで「う、ウィっス!」ってエンケンが返してくれたりなんかしちゃったら最高だ……なんて、後から妄想を抱いてしまった。
 いやいや、見ず知らずの野郎にいきなり飛びつかれたら、温厚だろうエンケンもさすがにぶん殴ってくる……いや、源さんなら撃ってくるか(笑)。というわけで、不朽の名作『湯けむりスナイパー』、未見の人にはぜひとも観てほしい。

 あの鮮やかな“連携”を、横山秀夫はどう表現しているのだろうか──。それが気になって気になってどうしようもなくなった。居ても立っても居られずに、スマホで「三省堂 小田原店」の在庫検索をしてみたら、シリーズ6作が所収されている『第三の時効』、あるじゃぁあ~りませんか!

 まだ『看守眼』を読み途中だけれども、すっかりモードに入ってしまった。早朝バイト中も、スキップしちゃいそうなくらい浮かれていた。業務終了の瞬間、その高揚感といったらいつもの比じゃなかった。

 その足で駅に向かい、三省堂の目の前にある駅前喫煙所で一服し、心を落ち着けて入店。誰に見られているわけでもないのに、何気なく見つけた風を演じてはみたものの、手に取った瞬間、思わず「あった!」って小さく叫んでしまい、周囲のお客さんの視線を一手に引き寄せてしまった。
 前夜に在庫確認までしっかり済ませていたものの、やはり実物を手にするまでは気が気じゃない。以前、確認済みで行ってみたら、お目当ての1冊が、誰かに買われていたということがあったゆえ。でも、こんなに求められるって、横山秀夫さんは幸せだと思います。

 ちなみに、amebaの「12星座占い 今日の運勢」は10位68点だったが、「金運」の項にはこう記されていた。

「なんとなく貯めたり、飲食でつかってしまったりするよりも、欲しかったものや今、必要としていることにお金を使うほうが、さらなる金運を呼び込み、結果的に得をするでしょう」

 占いは決して信じない。けれども、amebaのこれは、その日1日を送るにあたり、心を戒める意味で毎日見ているのである。
そうそう、“占い”といえば、信じる信じないにかかわらず、木内昇の『占(うら)』は超オススメです。

 坂の上の遥か上空に佇む太陽が、やけに眩しかった。真夏ばりの強い光が、肌を射して体内に入り込む。大切にしたい温もりだ。


 

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