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運が良んだか、悪いんだか

突然隣りのテーブルにいたサラリーマン四人連れの一人が、「それでは私、小便をして参ります」ときっぱり言って席を立ったのだ。

ー中略ー

先ほどの小便男がまたも「私のパンツのシミでございますが、それは薄い黄色でございます」とキッパリ言うのが聞こえた。

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『もものかんづめ』のなかに、「青山のカフェ」というお洒落なタイトルのエッセイがある。
これがその一節だ。

私の中の「さくらももこ」は、これだ。
お茶の間を幸せにした、あの漫画なんかじゃない。

別れ話の只中、涙を流す自分の隣で、まさかこんなwww
初めて読んだときは、とにかく笑った。

でも、その本当の意味を知るのはその数年後。

当時私は、がらにもなく苦しい恋をしていて、まさに別れるか?それとも添い遂げるべきか?などと、これまたがらにもなく深刻ぶって珈琲を飲んでいた。

「ガリッ」

苦い液体に混じって口腔内に流れ込んできたナニかが、奥歯にあたった。

丸いままの、一粒の珈琲豆だった。

私は盛大に吹いて、店員が心配になって近づいてくるまで笑い続けた。

「アレだ!まるちゃんの小便男だ!」

思い出して、さらに笑った。

人生に茶化される。
するともう、大概のことはアホらしくなって、パンツのシミレベルにどうだってよくなってしまう。

「さくらももこ」は目の前の男との別れをあと伸ばしにし、私は愛しいロクデナシと縁を切った。

結構長く生きているので、もっと面白いエッセイも沢山読んだのだと思う。
しかし、ここまで私の人生に関与したエッセイは「小便男」ただひとつ。

違った・・・
「青山のカフェ」だった。

おしまい

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