あのころチョコエッグがあった
昔々、腐女子がいました。
そのころ、腐女子のジャンルでは、チョコエッグが販売されていました。チョコエッグとは、卵の形をしたチョコの中にカプセルが入っており、カプセルの中に玩具、おおむね小さなフィギュアが入っているというもので、そのころとても流行っていた商品形態の食玩でした。
腐女子は全種自引きのため、そして何より「卵を割る」というわくわくを買うために、ありとあらゆるスーパーマーケットで一箱三百円のフィギュアを買い続けました。その結果、腐女子の手元には、無数の受が集まりました。
そして何万円分買っても攻だけが出ませんでした。
腐女子は無言でチョコエッグのチョコを刻み、湯煎にかけました。腐女子は、チョコレートを使ったあらゆる種類のお菓子を作り、結局、「このプラスチックみたいな味のするチョコレートはマーガリンと上白糖をふんだんに使った雑なビスケットと合わせるのが究極のマリアージュである」という結論に至りました。雑チョコビスケットは腐女子の友人たちのあいだで大人気を博しました。
年月が過ぎました。腐女子の人生にはあまたの苦難があり、あんなに必死で集めたフィギュアも、全て手放してしまいました。けれど腐女子は生涯忘れることはないでしょう。全種二桁以上のダブりを出し、受を部屋中のあらゆるところに置くことができるようになり、全て諦めかけていたあの日割った、彼女の人生最後の一個のチョコエッグのことを。
うまいかうまくないかでいったらうまくない種類の食べ物でも、材料の合わせ方によっては奇跡のマリアージュが起こるということを。
卵を割るということに意義があったのであってチョコエッグは良い商品だったけど料理しない人チョコあんなに手に入っても困っただろうから食玩商法かなり落ち着いてよかったなということを。
そして何より、腐女子は現ジャンルのえげつないほどのグッズ展開を菩薩のような微笑みで見つめてこう言う能力を手に入れました。あの頃、攻が、何万買っても出なかったおかげで。
「ブラインドはパス。もう十分買ったから」
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