男の子とライオン

 昔々、男の子がいました。

 男の子は図書館で、大好きな本を抱えて首を振っています。なぜ首を振っているのかというと、おとうさんが、「ほかの本を読みなさい」と、ずっと言い聞かせているからです。

 おとうさんは言いました。「ほかの本を読みなさい」

 でも男の子は、ライオンだけ読みたかったのです。

 男の子はサバンナをかけるライオンだけを読みたくて、ほかの本は読みたくありませんでした。男の子はそれをずっとずっと読んでいたくて、でも、返す日が来ました。そうして男の子は一度返した本が本棚に戻ってくるまでしゃがみこんで待って、本が本棚に差し込まれてから、そっとそれをまた抜き出して、おとうさんに差し出しました。おとうさんは首を振りました。

「ほかに読みたい人がいるかもしれないから」

 男の子はそういわれて、しぶしぶライオンから手を離しました。そうして、どの本も手に取らずに、図書館をあとにしました。

 年月が流れました。

 いまもう男の子は男の子ではなくなって、おとなになって、サバンナにいます。彼はほんもののライオンを見ています。彼は本の中の世界に行きました。おとうさんはそれを誇りに思っていると、彼に、お正月に、言いました。

 男の子が図書館で本を抱えて首を振っていたことを、誰も覚えていません。

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