固定過激派になりたくなかった腐女子

 昔々、腐女子がいました。

 腐女子は雑食でした。どんな萌えでもおいしい! と言って食べる姿勢で萌えていくという意味です。

 とはいえ腐女子もあらゆる全てに萌えるわけではありませんでした。もちろん腐女子には好きなキャラクターがおり、そのキャラクターのポテンシャルを引き出すためならどんな組み合わせでも厭わない、好き嫌いしません、何でも食べます、と思っていました。

 それは、腐女子が今まで、極めて供給の少ない世界にいたからということも関係がありました。腐女子は同ジャンル者のために別カップリングの話さえ進んでしました。もちろん同ジャンル者が腐女子の自担の話をしてくれるならふぁぼってスクショしたうえでどう広げたら次に続くか必死で考えました。

 それくらい追い詰められた環境に腐女子はいました。

 腐女子は思いました。

「もっとメジャーなジャンルだったらなあ!」

 そんな日々を送っていた腐女子のもとに、自ジャンルアニメ化の情報が舞い込みました。こんな乾いた大地にまさかの新展開です。腐女子はとても喜び、放送を待ちました。

 公式が解釈違いでした。

 腐女子は、沸き立つ仲間たちと、新規のファンのなかで、孤独をかみしめていました。腐女子にとって一番大事だった自担の部分がすっかりなかったことにされ、不当に貶められているようにしか思えませんでした。

 腐女子の心を癒してくれるのはたったひとつ、アニメでカットされたキャラクターと自担のカップリングだけでした。それはもちろんマイナーでした。

 腐女子は静かに自ジャンルから目を背け、別ジャンルを探し始めました。しかし、あの頃のように無邪気に、なんでもおいしいと口に入れる勇気は、腐女子には今はまだ、ありませんでした。

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