斜陽ジャンル

 昔々、腐女子がいました。

 腐女子は二十年前からとある漫画ジャンルで創作活動を行っていました。腐女子はその作家をデビュー作や前の作品(十週打ち切り)から追っており、アンケートハガキやファンレターをこまめに送り続けてきました。そして腐女子は大手とは言わないまでもそれなりにファンがついて楽しく同人生活をエンジョイしていました。

 また、同じ作家を同じように追って同じ経緯で同じジャンルにいる、別の腐女子もいました。

 同じ作家をデビュー作から追っていた腐女子と腐女子はお互いの存在を知っており、常に把握しており、いま何をやっているか全部知っていました。

 しかしふたりはサイトで相互リンクになったことがなく、メールを送りあったことがなく、掲示板に書き込んだことがなくなんなら掲示板で相手を発見するとログが流れるまで待ち、腐女子がみんなTwitterをはじめたのではじめたとしても相互フォローになったことはなく、pixivでブックマークをしたことも評価をつけたこともなく、イベントで隣接配置になった時も一言の挨拶も交わしませんでした。

 同じ攻の固定CPで受違いだったからです。

 二十年の月日が経ちました。連載は十年前に終わり、そしてジャンルの最盛期は十五年前にはもう過ぎていました。あんなにたくさんあったオンリーイベント、あんなにたくさんあった更新、あんなにたくさんいた読者さん、一時は何百部も売れた同人誌、全部どこへ消えてしまったのでしょう。それでもふたりの腐女子はジャンルに留まり続けました。もうお互い以外は誰もいないジャンルでした。

 そして連載終了から十年後、続編が掲載されました。ふたりの腐女子はあらゆる感情の渦のなか久しぶりに興奮して雑誌を買いました。

 攻が新キャラ(♀)と結婚していました。

 ふたりの腐女子はTwitterで一週間泣き喚き、そして、はじめてお互いのtweetをふぁぼりました。

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