地雷という概念のない世界
昔々、腐女子が目を覚ますと、そこは地雷という概念のない世界でした。
朝起きて布団の中でTwitterをチェックし、深夜投稿されていたすてきな漫画をリツイートしたあとで、彼女は思い出しました。見過ごしていましたが、それは彼女の友達の腐女子の地雷要素が含まれていたのです。
彼女は慌ててリツイートを取り消そうとして、おどろきました。
友達がその漫画にいいねをつけていました。
彼女はおそるおそる友人にLINEをしました。「さっきの漫画……」
友達は言いました。「うん、敵意を表明しないとね」
その世界では、「地雷」という言葉は、カップリングや作風に対する、一応隠語としての表現が含まれた不快感あるいは敵意をしめす言葉ではなく、単に兵器の種類でした。そして一応隠語として隠されていた不快感は全て明確な敵意の表明となり、TLじゅうあっけらかんと表明していました。あまりにもかんたんに皆敵意を表明し行動するので、Twitterやpixivのアカウント凍結は日常茶飯事でした。みんななにも気にしていません。
「敵なんだから潰して当たり前でしょ」
「BANされたらすぐに新しく作らないと兵隊がいなくちゃ戦争にならないよ」
「別に誰も死んでないんだからいいじゃない、オフではみんなちゃんと平和にしてる、それはマナーだよね」
「敵なんだよ? 存在してるのが間違ってる、勝つまでやるしかない」
いつしか腐女子は自分でも敵対勢力のアカウント凍結のために戦うことをなんとも思わなくなりました。それは当たり前のことでした。自分の敵対勢力だけではなく、友達の敵対勢力や、憧れの人の敵対勢力のためにも戦いました。それは当たり前のことでした。
あの日眠りにつく前、腐女子は言ったのです。
「誰も地雷なんて言わなければ、みんな楽しいだけなのに」
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