昔々、腐女子の嫁が死にました。

　ここでいう嫁とは娶りたいくらい好きなキャラクターという意味です。

　腐女子は二ヵ月泣き暮らし、ダイエットに成功しました。みんな「やせたね」と言うのを憚るほどでした。

　しかし腐女子は嫁の死を受け入れました。それはとてもとてもひどい死にざまで、あらゆる側面において受け入れ難く、何の愛も救済もなく、どうして死ななくてはならなかったのか、それすらわかりませんでした。そしてなにより、殺したのは嫁の婿でした。それゆえに腐女子は、完全に見切りをつけることができました。腐女子は再度泣き、そして、死という形で完結した嫁の短い生涯についてひたすら思いを馳せて、日々を送りました。

　嫁が死んでしまったあと、腐女子は同ジャンルの友人知人との関係を全て断ち切り、ただ嫁が死ぬまでの物語を繰り返し繰り返し見つめ続けました。嫁が死ぬまでの出来事に萌えていた気持ちだけは本当でした。腐女子は自分の萌えの中に閉じこもり、それ以外の一切から目を逸らしました。

　そして年月が流れ、腐女子は、驚きのうわさを耳にしました。

　なんと嫁が生き返ったというのです。

　腐女子はそれを確認しました。

　腐女子はpixivの投稿画面を開きました。あらゆる感情のただなかで腐女子は投稿ボタンを押しました。そうして呟きました。

「おかえり」