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警察官とオトモダチ

住民から警察署や交番にかかってくる電話の内容は老若男女千差万別悲喜交々で、中には笑ってしまいそうになるのを必死でおさえる案件や、聞いてるこっちが血の気が引くものまである。まあ大体は「いやおまえ自分で対処しろよ・・・」っていうものである。

たとえば「2階の夜の営みの音がうるさくて眠れない」とかいうものだ。

警察官は通報があればほぼ必ず現場に駆けつけなければならないことになっている。(わたしの所属ではそうだった)その後にどうなったかを報告しなければならないし、現場に行かないと後々「110番したのに来てくれなかった」とかいう苦情に発展しかねない。大体そういった電話をしてくる人はクレーマー気質が多いしほんとめいわry

そういった理由から、夜の営みがうるさい家をノックした経験もあるし、ゆっさゆっさ揺れているハイエースをノックしたこともある。めっちゃ恥ずかしそうにしていたあの女子大生は元気だろうか。相手の男は地元で有名な悪いやつだったので心配しながら対応した記憶がある。


『彼氏の指が切れて血が出て大変なんです助けてください!!!』

ある日の深夜3時。悲鳴に似た泣き声が電話口から聞こえてくる。

(いやいや交番に電話じゃなくて119番しなよ・・・)

そんなことを思いながら現場といきさつを聴取して電話を切る。すぐに消防へ連絡した後本署に報告。一緒に泊まり勤務の小嶋さんと現場急行。

なんでも、小指を刃物で誤って傷つけてしまったらしい。場所は交番から2キロほど離れた公園。こんな深夜の公園で刃物で遊んでるんじゃないよ若者よ。仕事中のぼくらは眠いし早く交番で仮眠させてほしいのである。(警察官をやっているとどんな通報があっても割と冷静に頭が働く。たとえ急行した現場で何が起こっていても、高速道路シートベルト無し事故の車内の惨状よりひどいものは無いだろうと脳が覚えているからな気がする。)

現場に到着すると、若い男女が噴水の周りでうずくまっている。男の指は噴水の中の水に突っ込まれていた。君は死にたいのかい?(cv.キュゥべぇ)と思いながら慌てて引き抜いた。男女はどちらもパニックになっていてわけのわからないことを言っている。傷を見たところ、切り傷は骨までは達しているけれどもそこまで酷いわけではないようだった。救急車がもうすぐ来ること、傷は多分大丈夫なことを伝え、名前や住所を聞きながら救急車の到着を待つ。


公園を一周してきた小嶋さんと小声で話をする。

「無いですよねえ・・・」

刃物が無い。

わりと慌てていたのか、現場に着いたときに軽く何で切ったのか聞いたくらいで、ブツを確認していなかった。救急車が到着したら救急隊員にも切傷の原因が何かを伝えなければならない。男女に聞くと「カッターで切ったんですけど・・・どこいったんですかね」みたいなことを言っている。もう怪しさの塊。もののけ姫のジコ坊。スタバのアムウェイ。株クラのウルフ村田。


画像はイメージです。


「ちょっとそのバッグの中見せてもらってもいい・・・?」

小嶋さんが問いかける。自分たちが臨場してからも、ずーっと大事そうに持っていた趣味の悪い(失礼)バッグ。怪しい。中身を見せてください。嫌だ。の、押し問答が続く。

そうしてるうちに救急車が到着したので状況を説明。刃物はカッターと言ってるけど多分違うこと、判明したら追って消防にすぐ連絡することを伝えた。若い男は行きたくなさそうではあったが、消防車で病院へ運ばれた。

男が救急車に乗せられていなくなると、女は泣き出してバッグの中身を見せてくれた。男に絶対出すなと言われていたそうだ。

後生大事に抱えられていた趣味の悪いグッチからは、ノミとトンカチが出てきた。

男は反○の下っ端の下っ端のさらに下っ端の舎弟だった。もちろん構成員名簿なんかには載っていない。自分のやっている生活が嫌になりケジメをつけたかったらしい。しかし1人では自分の指は落とせない。ノミを自分で固定し、彼女にトンカチでおもいっきり叩いてもらったようだ。女性の力では指は落とせなかったのか、彼女は途中で怖くなりやめてしまったというのが真実だった。


女を家に送り届けた頃にはもう朝の6時も近かった。

交番に戻ると交番所長がソファでふんぞりかえっている。ふんぞりかえっているこの人は元○暴対策班の班長である。ヤ○ク○ザと麻雀しているところを誰かに見られた上に本部に通報されて死ぬほど怒られ、今は担当を外されて交番で余生を過ごしている。

ことの顛末を話すと誰かに電話し始めた。詳細は省くが若者は指を落とさなくても、その気概のおかげで何か他の奉仕活動()で真人間に戻れる手はずになったらしい。人とのつながりって大切ですね(棒読み)


次の当番日の昼前、交番の前にコテッコテのグロリアとセルシオがとまった。

「・・・自首かな??」

そんな風貌のお兄さん3人が車から降りて交番に入ってくる。


3人「迷惑かけてすみませんでした!!!」
なんかすごい謝ってくる。

所長「おう元気してらが?今どさいってんだ?」

・・・・・・・。


オトモダチが持ってきた横○屋のうなぎがその日の昼ご飯。人生で初めて特上のうなぎを食べた日になった。


エ○コ詰めの若者よ、めっちゃ美味しかった。ありがとう。


でも最近は指より現ナマのほうが喜ばれるそうだ。
生き急いでも何もいいことなんてない。


大体のほんとにやばい案件は警察に相談するとなんとかなる。
反○の人にだってアドバイスくれる本部生安の人もいるはずだ。
勇気を持って相談してみてほしい。

(ストーカーの被害がエスカレートした結果手遅れになったみたいなことが報道されるじゃないか!!なんともならないじゃないか!!職務怠慢!!みたいに言われることも多い職業ですが、極論を言えばいい大人なんだしほんとにやばいと思ったなら自分で手の届かないとこに逃げろ、もしくは親族を頼れって話ですしね。)




この物語はふぃくしょんです。

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