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ディズニーのイマジネーション、その本質をカリカチュアライズするキワモノの裏に見える、ディズニーへの狂おしい愛 Vol.3


『エスケイプ・フロム・トゥモロー』公開まであと13日。あー、まだそんなにあるのか、待てない!だって?じゃあ、ホンモノの黒ウィッチが出てくる『マレフィセント』が公開されたから観てみると良いよ。ボクもしょうがないから行こうかな。ハハッ!

世界で最も有名な夢の国の、表も裏も知り尽くした、新井克弥先生というメディア学のせんせいが『エスケイプ・フロム・トゥモロー』について語る、全4回の連載。今日が、第3回目の配信だよ。最初から読み進めると、黒い夢の国のことがよ〜く分かるはず!新井先生は、「ホンモノのディズニーファンかどうかを試すリトマス試験紙のような映画」と言ってるんだよね。キミもホントに夢の国が好きなのかな?ちょっとアカデミックだけど、映画を見る前に読んで、おともだちに自慢してね♪(by 黒ミッキー)


ウォルトの狂気を自ら実践して見せた、
ランディ・ムーア監督

ムーアは本作の中でディズニーランドという創造とジムの妄想を対立させることで、結果としてウォルトのimagination(イマジネーション)の本質を浮き彫りにする。つまり、繰り返すが、なんであれimaginationはエキセントリックでマッドなものであることは本質的に同じであることを。そして、それこそがウォルトがディズニー世界という矛盾のない理想世界を創造させたものであることを。

 ムーアはこういったウォルトの狂気をこよなく愛し、この狂気を描き出すために、自ら作品の中にウォルトの手法=狂気という名のimaginationを徹底的に取りこんでいく。つまり自らウォルト的な狂気を”師”に倣って実践してみせるのだ。 

 ゲリラ的な作品であるはずのこの映画。だがよく見てみると実に丁寧に作られていることがわかる。先ずカメラ。許可を得ていないので当然隠しカメラだ。用いられたのは、なんとキャノン製デジタル一眼レフカメラ5D Mark II。しかし、アングルといい、その映像の安定具合といい、一般のカメラで撮影したとは思えない精度にまで仕上がっている。ロケーションも完璧。思わず悪夢を見てしまいたくなるようなアトラクションのシーンが絶妙なかたちでチョイスされている。主人公のジムがパーク内で食べ物を購入したり酒を飲んだりするシーンが何度か登場するが、これまたWDWを遊び尽くしたようなゲストでなければわからないような”逸品”ばかりが選ばれている(いったいどれだけロケハンを繰り返したんだろう?)。

また、演出の音楽やタイトルロールのロゴも、ものの見事にオリジナルをコピーし、しかも黒いimaginationにアレンジし直されている。例えばメインテーマは”It’s a Small World”をちょっとだけ変えたものなのだが、これを聴きながらアトラクションを回れば、人形たちがどれも邪悪な存在に見えること請け合いだ。

そう、ムーアは作品のなかにディズニーマニアでなければわからないような様々なギミックをエキセントリックかつマッドに、これでもかとばかりギッシリ詰め込み、これをちょっとひねって徹底的に押しつけることで「黒いディズニー世界」を完璧に作り上げているのだ。(第4回へつづく)  

著者 新井克弥 プロフィール                                                                   メディア研究者。関東学院大学文学部教授。ブログ「勝手にメディア社会論」を展開中BLOGOSブロガー。メディア論、記号論、社会心理学の立場から、現代のさまざまな問題を分析。アップル、ディズニー、バックパッカー、若者文化についての情報も多数。

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