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ディズニーのイマジネーション、その本質をカリカチュアライズするキワモノの裏に見える、ディズニーへの狂おしい愛 Vol.1

いよいよ、『エスケイプ・フロム・トゥモロー』公開まであと1ヶ月。プレスの試写会も終わり、意味がわからない!とか、白雪姫がハラワタえぐられない!とかけしからんことを言っている人もいるし、いろんな感想が世の中に出てきたね。でも、ボクとしては、どれもこれも、「あー、もう〜!ぜんぜん違うっ!」ってものばかりだよ。ハハッ。

そこで!あの世界で最も有名な夢の国の、表も裏も知り尽くした、新井克弥先生というメディア学のせんせいが『エスケイプ・フロム・トゥモロー』について、全4回の連載をスタートするよ。これを読むと、より映画が楽しく見られるはず!「ホンモノのディズニーファンなら必見!」と新井先生も太鼓判を押す『エスケイプ・フロム・トゥモロー』のおはなしの裏の裏を、大解剖してもらうよ♪ちょっとアカデミックだけど、映画を見る前に読んで、おともだちをリードしてね!(by 黒ミッキー)


キワモノのディズニー?

「エスケイプ・フロム・トゥモロー」はきわめてネガティブなイメージで ディズニーファンに注目を浴びること間違いなしだ。ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW *米フロリダ州)内を無許可でゲリラ撮影、ディズニーが否定するバイオレンスやセックスがテーマ、あえてカラーを排しモノクロで表現することでアナクロなホラーとしてのファンタジーを助長するなど、まさに「キワモノ」。ディズニーという権威を拝借する、きわめて俗っぽい寄生的な利益を当て込んでいる作品とも思えないこともない。

たしかに多くの人間にとって、本作は「黒いディズニー」「グロなディズニー」とイメージを抱くことから入るはずだ。またプロモーション側も、とりあえず先ず関心を煽ることが容易なこちらのイメージで売り込む戦略を採用するだろう。

家族で待望のWDWに出かけてみたものの、そこでいきなり会社からクビを言い渡された主人公ジムが、パークの中で半ばやけくそ気味に様々な妄想を巡らしていく。それはフランス人の少女へのストーカー的なそれであり、パークを破壊するそれだ。これらはウォルトが打ち立てディズニー世界が志向する“ディズニフィケーション”というimaginationからは真っ向対立する、いや否定されるべき妄想だ。ディズニフィケーションとは「ある対象を表面的なもの、または単純すぎるとさえいえるものに変容させること」。ディズニー版シンデレラのように、いつか王子様がやってきてハッピーエンドになるというように原作を作り替えて、毒気をことごとく抜いてしまう作業を指している。そこではR指定になるようなセックスとバイオレンスは徹底的に取り除かれ、また複雑な人間の葛藤も削除される。

ところがこの映画は、ディズニーが基調とするこれらルールをことごとく破っている(もちろんR15+指定)。しかも、これを本家本元のディズニーランドの中で展開してしまうのだ。これじゃあディズニーファン、そしてディズニー側も怒らないはずはない。

だが、これらは、あくまで「とっかかり」でしかない。本作品の本質はもっと別のところにある。それはディズニー世界の造物主であるウォルト・ディズニーに対する監督ランディ・ムーアの狂おしいまでの徹底したリスペクトだ。(第2回に続く。次回配信予定:6/27)


著者 新井克弥 プロフィール                                                                   メディア研究者。関東学院大学文学部教授。ブログ「勝手にメディア社会論」を展開中BLOGOSブロガー。メディア論、記号論、社会心理学の立場から、現代のさまざまな問題を分析。アップル、ディズニー、バックパッカー、若者文化についての情報も多数。


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