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透析室 / 透析液供給・軟水化装置の仕組み

透析室は5つの血液透析機器・装置によって構成されます。水道水から透析用水を製造する「水処理装置=RO装置」。透析用水を用いて原液の粉末を溶解する「A剤溶解装置」と「B剤溶解装置」。A原液とB原液を透析用水で希釈混合し透析液をつくる「多人数用透析液供給装置=セントラル」。そして「患者監視装置=ベッドサイドコンソール」です。

水処理装置

下の図は「水処理装置」TORAY TW-HI を例に透析室を構成する5つのシステムを図解したものです。構成部品、一つ一つを説明していきます。原水、地下水や水道水はまずSV100(元栓、バルブ)を通過し、H (ヒーター)により加温されます。T1は温度計ですね。原水の加温は装置内の結露防止、RO膜の水透過性を高める役割があります。P1(原水ポンプ)にて加圧された供給水はまずPF(プレフィルタ)に送られます。PFは25μmのフィルタで原水中の比較的大きな鉄さびなどの濁質を除去します。プレフィルタの前後はPi1、Pi2、二つの圧力計で監視されています。目詰まりが起これば抵抗が増し、入口圧と出口圧の差圧が大きくなります。この圧力損失を臨床工学技士は日常点検し、フィルタの交換の目安としています。

透析室の構成

軟水化装置

次に送られるのが軟水化装置です。軟水化装置は供給水中の硬度成分、カルシウム、マグネシウム等をイオン交換により除去する装置です。水の硬度は簡易式でCa×2.5+Mg×4.0 [mg/L]と表され、100以下を軟水、300以上を硬水といいます。ミネラルウォーターのラベルにも記載されています。下図はフランスのミネラルウォーター、コントレックスの表示です。100mlあたり、Ca 46.8、Mg 7.45ですので468×2.5+74.5×4.1で硬度が1468mg/Lと表示されています。

硬水:コントレックス

軟水化処理を受けると硬度は一桁まで低下します。Ca、Mgはスケール成分ともよばれ、RO膜まで運ばれると膜表面で析出しモジュールを劣化させます。お風呂の鏡を洗わないと頑固な白い汚れが付きますがこれも同様に、釜泥、スケール成分です。原水中の陽イオンはイオン交換樹脂中のNaイオンと置換されます。この反応は交換樹脂にNa+が 残っていれば継続しますがNa+が消費されると軟水化能力がなくなります。定期的な塩による樹脂再生工程を要します。イオン交換樹脂は細菌対策が課題でしたが弱電解酸性水による殺菌を行うシステムも発売されています。

活性炭濾過機

次に送られる活性炭濾過機は塩素をターゲットとしています。水道中の消毒に用いられている遊離塩素を活性炭への吸着により除去します。地下水を原水として利用している透析施設の患者がROを通過したクロラミン(結合塩素)により溶血性貧血を起こす事故がありました。地下水中のアンモニアと消毒用に添加した塩素が反応、水処理装置の能力を超えたクロラミンが生成されたのです。総塩素濃度は遊離塩素+結合塩素で表されます。通常の水道水は遊離塩素で消毒されるため残留塩素測定は遊離塩素の測定で運用されてきましたが結合塩素の確認も必要です。水道水には地域差があり、塩素濃度が1ppm以上ある場合もあります。水道事業者に対し最新水質データの開示をもとめ、原水の質を把握する必要があります。CF(チェックフィルタ)は5μ程のフィルタで活性炭濾過機の出口におかれ、活性炭粒子を除去します。PF(プレフィルタ)とCF(チェックフィルタ)の出口にはドレーンバルブが置かれ、定期交換時のエア抜きに利用されています。チェックフィルタの前後にはプレフィルタと同様にPi3、Pi4、二つの圧力計が目詰まり、圧力損失を監視しています。

逆浸透/RO装置

逆浸透/RO装置

活性炭濾過器にて塩素を除去された原水はP2ポンプにて加圧され、逆浸透/RO装置(RO膜)に入ります。 RO膜は分子量数十~数百の分画特性をもち、多くのイオン、菌、エンドトキシンを除去します。セシウムやヨウ素などの放射性物質も除去します。RO装置を透過する「透過水」は原水の60%程度で、残りの40%はRO膜を透過せず、捨てられています。この60%を回収率といい、供給水量に対する透過水量の割合です。膜を透過しない残りは「濃縮水」と呼ばれ、排水され、一部は「リターン水」として再度RO装置に送られます。図のF2(流量計)を通過して捨てられるのが濃縮水、図のF3(流量計)を通り、原水と混ざって再度RO膜に挑戦するのが「リターン水」です。逆浸透装置の膜表面では膜を通過しない溶質が蓄積し、溶質濃度が上昇します。これを濃度分極といい、膜の性能を低下させる原因となります。溶質濃度の高い水を「濃縮水」として排水し、一部を「リターン水」として膜表面に戻すことで膜面流速をあげ、膜表面の溶質を吹き飛ばし、濃度分極を抑えています。臨床工学技士会の透析液清浄化ガイドラインでは供給水の水質、性状により、回収率は50%~75%に設定すべきとしています。RO膜もPi5、Pi6の2つの圧力計により圧力損失が監視されています。

RO水タンク

RO水タンク

透析用水はUV(紫外線殺菌灯)の設けられたRO水タンクにプールされ、P3ポンプにて供給されます。活性炭濾過機以降のラインは塩素が抜けるため以降、細菌の繁殖に注意が必要です。水のよどみは細菌の繁殖を招きます。P3ポンプ後にRO水タンクに戻るラインがあります。これは透析が一時中断した時もポンプの運転を続け透析用水の停滞をなくし菌の繁殖を予防する役割があります。水処理装置の中にはタンクレスのもの、使用時以外に低濃度次亜を封入するもの、日曜日もパルス運転をするものなど様々な細菌対策がなされています。

血液透析機器・装置

A剤溶解装置・B剤溶解装置

水処理装置により透析用水が完成しました。水処理装置から供給される透析用水はA剤溶解装置B剤溶解装置に送られ粉末のA剤、B剤からA剤原液、B剤原液をつくります。これらA、B原液は多人数用透析液供給装置、セントラルに送られ、使用の直前に混合、透析用水により希釈されます。浸透圧の高いA原液に比べ、B原液は細菌を繁殖させやすく、以降、配管は必要以上に太くせず、盲端、屈曲、高低、分岐等、淀みをうまない工夫が必要となります。供給装置の出口、患者監視装置の入口にはエンドトキシンカットフィルターを用います。

多人数用透析液供給装置

A原液とB原液を混ぜ合わせるとシュワシュワと音がして気泡が発生します。A剤に含まれるカルシウムと重炭酸水溶液であるB剤は反応して炭酸Caを析出させます。炭酸Caの析出は透析装置内部のバルブを固着させるなど、ダメージを与え、アルカリ化剤である重炭酸濃度を低下させます。そのため透析液はつくりおきできず、使用の直前にある透析液供給装置にて混合、作製することが必要となるのです。透析液供給装置(セントラル)でつくられた透析液は患者監視装置へ送られます。患者監視装置のうち、透析液供給装置を内蔵したものを個人用患者監視装置、透析液の供給を受けるものを多人数用といいます。多人数用患者監視装置では一律につくられた透析液が送られますが患者の状態によっては透析液組成や濃度の変更が必要となることがあります。個人用患者監視装置では透析液供給装置を内蔵しているため濃度を上げたい物質を添加したり、希釈率を変更、原液を目的の組成に作成、または濃度の異なる原液を混合することで濃度の平均値を使用するなど、個人にあわせた処方が可能です。日本では多人数用透析液供給装置を使い、海外では個人用透析装置を使うのが一般的です。その違いを下図に示します。

多人数用透析液供給装置と個人用透析装置

患者監視装置

患者監視装置に関しては東レニプロのコンロールについて別noteにて紹介します。

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