マルチアートの天才・本阿弥光悦の大宇宙@東京国立博物館
冬の東博
銀杏の葉がすっかり落ちて、いかにも冬らしい上野。
前回やまと絵に行った時は晴れていたけれど、今日は曇天。
このモノトーンな風情が冬っぽくて好き。
10時前にも関わらず上野駅には人も多い。
私はいつも目指す美術館や博物館にまっしぐらだから、上野の街も上野公園の中も詳しくない。
それでも今日は少しだけ辺りを見渡して、こんなところにレストランがあるんだとかチケット売り場があるんだ・・・なんて今更なことを思いながら、東京国立博物館(東博)を目指す。
特別展「本阿弥光悦の大宇宙」
今回私が見たいのは、東博の「平成館」で開催中の特別展。
3月10日(日)まで開催中(会期中、一部作品の展示替えがあり。)の『本阿弥光悦の大宇宙』
私は事前予約をして行った。
当日券は結構人が並んでいたので、待ちたくない人は予約がおすすめ。
この特別展を知ったきっかけは確かやまと絵を見に行った時に、気がついたのだと思う。
「本阿弥光悦」にフォーカスした展示など見たことがなかったので、絶対に行こうとその時決めた。
本阿弥家とは
この刀剣の鑑定という職業で芸術的な感性を育くみ、刀剣の世界を超えてさまざまな分野で才能を発揮した「マルチアートの天才」が本阿弥光悦。
展示品の中に「折紙(おりがみ)」という刀剣の鑑定書があったが、
「折り紙付き」の語源だ。
本阿弥家が鑑定した刀であるという証明がつくことで刀の価値が高まったことから、この「折紙付き」という言葉が広がっていったそうだ。
特別展の構成と感想
第1章:本阿弥家の家職と法華信仰ー校閲芸術の源泉
第2章:謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち
第3章:光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技
第4章:光悦茶碗ー土の刀剣
と4章からなっており、作品数は110だった。
第1章:本阿弥家の家職と法華信仰ー校閲芸術の源泉
ここでは、本阿弥光悦の坐像(木製)や、国宝の刀剣などをはじめ、
本阿弥家の家系図や扁額(門戸や室内などに掲げる横に長い額。この展示では、お寺の門などに掲げられていた扁額)や光悦筆の紙本墨書などを見た。
家系図の女性がすべて「女子」となっていて名前がないことに時代を感じる。
名前くらい書いたって良さそうなものなのに・・・。
展示室は2階に上がってから左右に分かれている。
左側の展示室の入ってすぐに特別展のパンフレットにも掲載されている国宝「舟橋蒔絵硯箱」がある。
(作品リストでは第2章の55番。)
硯箱の蓋が盛り上がる独特の形。
真ん中に鉛の橋がかかり、さらに文字が象嵌されている。
国宝の刀剣も見事だったけれど、以下リストの重要文化財13番の短刀と14番の鞘も見事だった。
ここでは国宝の刀剣も4本ほど見ることができる。
刀剣をそんなにたくさん見たことがなく、刀剣だけを見に行ったのは過去三重県の桑名市博物館だったかと記憶を辿る。
日本刀を鑑賞の観点は、3つだと桑名で見たときに学んだことを思い出す。
・そもそもの姿
・刀文(はもん)
・地鉄(じがね)
刀剣に明るくないが、今回4点も国宝を見る機会に恵まれたことは良かった。
(リストの7・8・10・11番)
鎌倉時代、南北朝時代に作られた刀剣が今とても美しい状態で残っていることにも驚く。
また9番の刀剣・・・「試し斬り」をしたと書いてありちょっと恐ろしい。(帰宅してから、「試し斬り」のやり方を見てさらに恐ろしくなる。)
刀剣の他、書状や紙本墨書も展示。
「立正安国論」(32番)は光悦が書いたものだが、楷書から始まり、だんだんと字体が草書に変化していく。
『立証安国論』は、日蓮が執筆して、時の鎌倉幕府第五代執権の北条時頼に提出した文書。
日蓮は相次ぐ災害が浄土宗などの邪宗によるもので、「邪宗への布施を止め、正法である法華経を中心(「立正」)とすれば国家も国民も安泰となる(「安国」)」と説いた。(Wikipediaで検索)
この批判がもとで、日蓮は伊豆に流罪となる。
本阿弥光悦は法華経の熱心な信者であり、熱い信仰心を持っていたことが展示を通して理解できた。
「紫紙金字法華経䮒開結」(34番)はとても美しい文字が金色で書かれており、見入ってしまった。小野道風の筆らしい。
本阿弥光悦は、徳川家康から57歳の時に京都最北部の鷹峯(たかがみね)に約90,000坪の広大な土地を与えられている。
博物館の解説では、本阿弥光悦が街を離れて自然豊かなところで暮らしたいと言ったらしいが、こんな考察もある。
第2章:謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち
この章は、『桜山吹図屏風』という
俵屋宗達と本阿弥光悦の今でいうコラボ作品から始まった。
桜と山吹は落ち着いた色合いで華やかというよりは「渋い」雰囲気の屏風だった。
俵屋宗達が描いた屏風に本阿弥光悦の書いた色紙がところどころに貼られている。
ここではいろんな謡本を見ることができた。
能を見たくて京都の観世会館に何回か行ったことがありその際に能の本を読んだりしたので、演目は見聞きしたものも多く、再び見に行きたくなった。
「今年のやりたいこと」にも書いたなあ・・・。
謡本は、雲母(きら、きらら)を使い装丁も美しくて素敵だった。
また嵯峨本の『伊勢物語』も展示。
角倉素庵や本阿弥光悦らによって製作された豪華な木活字の本。
とても綺麗な状態で残っていた。
この章の蒔絵の硯箱や絵棚も素晴らしくて、ここまででだいぶ長い時間がかかってしまった。
特に「忍蒔絵硯箱」の蒔絵、
「花唐草文螺鈿経箱」も螺鈿が本当に美しくて、見応えがあった。
この章でも国宝がひとつ。
「蔦蒔絵唐箱」
広島県厳島神社に奉納された経典を入れた唐櫃。
他にも凝った絵棚などがあり、見応え充分。
第3章:光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技
ここまで見てきて、だいぶくたびれてきた(苦笑)。
この章で一番見たかったのは、俵屋宗達が描いた下絵に本阿弥光悦が三十六歌仙の和歌を書いた「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。
本阿弥光悦の書もいいのだが、私は下絵の鶴が良くて何回も往復して見てしまった。
残念なのは、やはり昔の文字が読めない自分。
あれが解読できたら、もっと「書」を楽しめると思う。
若い頃から勉強していたらよかったと後悔している。
今の時代、「くずし字」を解読できるのは0.01%くらいいらっしゃるらしい。数千人程度。
それが読めたら、もっと昔のも読めるのだろうか?
「くずし字」の辞書を買うことから始まるらしいけど・・・。
この章では、本阿弥光悦の書状が多く見られるけれど、中風という病で字を書くのも大変になってきた苦労もうかがえた。
私もくたびれて、全部の作品はちゃんと見たが、やはり一番記憶に残るのは俵屋宗達とのコラボ作品だった。
第4章:光悦茶碗ー土の刀剣
そして楽しみにしていた、4章の茶碗。
ここもかなり長い時間いたと思う。
本阿弥光悦は、ろくろを使わずに茶碗を作っていたらしい。
楽家から、土をもらい、作成したものを楽家で焼いてもらって作品にしていた。
黒楽茶碗の「時雨」「雨雲」「村雲」。
この銘に「雨」がつく3つを眺め、「自分はどれが一番好きか」なんて特に1番を決めなくてもいいのにそんなことを考えて、また時間が経っていく。
今日の気分は「時雨」だった。
鈍翁が好きだったのが、99番の赤楽茶碗 銘「乙御前」。
これは第4章の一番はじめに展示されていた。
小ぶりで形も丸みを帯び可愛らしい茶碗だった。
赤楽茶碗では他に銘「加賀」も印象的だったし、
101番の「赤楽兎文香合」も良かった。
そう思ったら、「加賀」も「赤楽兎文香合」も本阿弥光悦のサイトの「章構成」で紹介されていた。
どれも記憶に残る作品だが、白楽茶碗は本阿弥光悦にしては珍しいらしい。
銘「冠雪」は、個人的に何故その銘なのかピンとこなかった。
クリーム色と微妙に淡い淡いグリーンの釉薬があり、あたたかみを感じる茶碗で、銘を見て意外だった。
ともあれ、この4章も楽しかった。
帰り道
今回、初めて美術館で何も買わなかった!これは快挙では?!
そして有楽町へ向かう。
有楽町に着いて、次の目的地に向かう途中、鹿児島のアンテナショップがある。懐かしいが今日は時間もあまりないから寄らなかった。残念。
久しぶりの東博。
展示数なのか、今週の疲れなのか結構くたびれた。
来週は、根津美術館だ。
『繡と織
華麗なる日本染織の世界』
を見に行く。
根津美術館は久しぶりなので楽しみだ。
長々書いてしまう備忘録。
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