図2

人によって「ブランド」と「マーケティング」の定義が異なり議論がかみ合わない。

「ブランド」と「マーケティング」は、組織や立場で定義と理解は大きく異なる

ブランドとマーケティングという言葉の定義は組織や個人によって大きく異なるのが常。「ブランド」は“CIロゴ”や“広告による人格イメージ訴求(かっこいい、親しみやすい)”など、ごく一部の要素をイメージして話している人が多く、「マーケティング」も同様に“調査”、“営業・販売”、“広告”という狭い理解で使われがちです。

メーカーの場合は子会社の社名で「○○販売」を「○○マーケティング」と変更した会社が多いものの、実態の業務は営業・販売のみというケースがあり誤解が蔓延しやすい環境といえます。

 “ブランドやマーケティングの知識が豊富な人”と、逆に“知識の弱い人”との会話は、この定義レベルでずれて分かり合えないまま空回りしていることが多く、相手の理解レベルを注意深く考察して、そこをすり合わせるのが最初のステップになります。

解決の鍵その1 ブランドの定義共有

ブランドには学者や本によって様々な定義がありますが、ここでは「識別記号」と「知覚価値」がつながった総体をブランドの定義として提案したいと思います。


私たちは、赤白のロゴやカラースキームを見ればそれが「コカ・コーラ」と識別し、”さわやか~刺激的”という知覚価値を想起します。さらに言えば、コカ・コーラくらいに強いブランドになれば「爽やかな気分転換」から「コカ・コーラ」を想起するというように、知覚価値から識別記号を逆想起することすらできます。

識別記号というと一般的にはブランドのロゴが代表的存在ですが、原則としては五感で識別できるものなら何でも良いわけです。ソフトバンクにおける犬のお父さん、アクオスにおける吉永小百合さん、プレイステーションのCMで冒頭になる「ボンッ!」という音声も、あれだけ定着してしまえば立派な識別記号と言えるでしょう。(以前何かの記事で見た曖昧な記憶ですが、日本人の90%以上は、犬のお父さんを見ただけでソフトバンクだとわかるそうです。)

では、ブランドは、どのようにすれば生活者の頭の中に根付くのでしょうか?

多くの企業で意識から抜け落ちているのは、「ブランドをつくるのは、ブランド体験の一貫性」という黄金律です。

商品、サービス、広告、接客など、個々の施策の体験がどれだけ魅力的でも、バラバラな印象や、バラバラな識別記号の運用では、生活者の記憶には効率的に残りません。


魅力的な商品・サービスをもちながら、そして広告にも投資をしながら、強いブランドになりきれないブランドは、えてして一貫性に欠けていることが多いと言えます。

そして、一貫性は、顧客接点間の一貫性と、時系列の一貫性という2軸があります。もちろん市場ニーズが刻一刻と変わり続けますし、最近ではネット上にニッチなメディア(例:ITオタクばかり集まったガジェット系メディア)もあるため、市場ニーズの変化や個別接点の特性と、ブランド側の一貫性をいかにバランスさせるかという難しい舵取りも求められます。


解決の鍵その2 戦略と4P施策間の位置付けの共有

ブランドとマーケティングの議論を整理するには、ブランドとマーケティングの相互の関係性理解も大切です。特に経営者には「ブランド戦略は事業戦略とマーケティング4P施策を整合させる核」という理解を、担当者には「ブランド戦略は、全ての顧客接点で同じ印象を与えるための基準となり、4P施策間と時系列の一貫性を産み出す核」という理解を共有することが重要となります。


また、ブランド戦略が明確であれば4P施策のPDCAサイクルはまわりやすく、失敗時も戦略まで遡って変更し続ける迷走を回避できます。


マーケティング4P施策というのは、どれほど細心の注意をはらっても、必ず失敗がつきものです。そのとき、毎回ブランド戦略にまで遡って再検討する企業は、シーズンごとにターゲット顧客像や訴求すべき知覚価値がコロコロと変わり、市場からは「迷走しているブランド」と思われてしまいます。

簡潔ではありますが、このあたりの認識を揃えるだけでも、ブランドとマーケティングの議論はグッと噛み合ってくるものです。
-----
本コンテンツは、『ブランディングの教科書には書いていない10の落とし穴』より抜粋し、加筆・修正したものです。詳しくは上記のリンク先をどうぞ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?