「マーケティングが弱いコンプレックスで投資を見誤る」 #マーケの落とし穴 09

世の中では、自社のマーケティング力に強い自信を持った会社はごくわずか。皮膚感覚としては90%以上の会社の経営層は「自社のマーケティング力に大きな課題がある」と感じており、マーケティングの強化策を(潜在的には)求めていると感じます。

マーケ力の実際は、一発で施策を当てる華麗な力ではなく、軌道修正を積み重ねる組織力

企業の売上・収益が成長したときの話は、さも凄腕のキーマンがマーケティング施策を一発で華麗に狙いすまして当てたようなストーリーになりがちです。でも、現実は異なることが多い。

失敗の混ざった施策の試行錯誤と顧客理解を積み重ね、多くの軌道修正を繰り返すうちに、顧客ニーズとマーケティング施策が噛み合ってきて、売上が増えていくのが実際の感覚に近いところです。

ある日突然にPMF(プロダクトマーケットフィット)するのではなく、1mmずつ正解に向けて積み重ねていき、「おっ?売上が増えてきた」という期間に入る。いつかまた変化しつづける顧客や競合との関係のなかで「あれ?売上が停滞してきた」という期間がやってくる。(停滞前に次の手を打てているのがもちろんベスト)
基本的にはこれのイタチごっこで、顧客理解の更新に基づいて、商品やコミュニケーションの施策内容の調整を積み重ね続けていくのが実際です。

マーケティング力強化で成果を出すのに必要なのは「一発で場外ホームランを持つ奇跡の個人力」よりも「変化する顧客ニーズにしぶとく適合させていく顧客理解(データやインタビューの併用)と、その顧客理解をマーケティング施策に俊敏に反映させていく組織力」です。

外からは突然ホームラン打ったように見える企業も、その前段階では三振から始まり、徐々に球筋=顧客の理解を深めて、ヒットを打てるようになり、徐々にその飛距離を伸ばしていったというのが大半です。

目新しいマーケティング手法に、多くの企業が目を奪われる理由

なぜ、突然に場外ホームランを打てそうな期待を持たせる新しいマーケティング施策に惹かれる企業が多いのでしょうか?

【事業会社側の理由】
マーケティングの施策は他社事例も含めて、目に見えるからわかりやすく社内で説明しやすいし、予算もとりやすい

【マーケ支援会社側の理由】
マーケ支援企業も、同じ施策を繰り返し売るほうが経営効率は高くなりスケールしやすい

逆に、「顧客理解を重視し、それらをマーケティング施策に俊敏に反映させていく組織力」は、なぜそこまで着目されないのでしょうか?

【事業会社側の理由】
顧客理解とアジャイルな軌道修正ができるデータ活用と組織力は、目に見えないし、内部事情で外に出る事例が少なくわかりにくく、予算がとりにくい

【マーケ支援会社側の理由】
マーケ支援会社も、話の説明の難易度も、企業内で動かしていく支援の難易度も高いため、提供できる人材が少なく、事業もスケールしにくい

他にも細かな理由はありますが、そんな事業会社の社内と、マーケ支援業界の双方の事情が重なりあうことで、マーケティング投資に偏りが生じているようにみえます。

また、派手な成功に見えるマーケティング施策は、マーケティングに自信がない企業からは眩しく見えがちです。自社も同じ施策に投資すれば、マーケティング巧者になれるのでは?という「最新の施策に取り組むマーケティングに強い会社」というわかりやすいラベルが生む期待も、判断を鈍らせます。

マーケティングにかぎらないですが、どのような業界でも、地味に積み重ねる取り組みは選ばれにくいし、やってみても続きにくく回避されがちなのは似ています。

業種は違いますが、英語やダイエットのビジネスも構図が近いでしょう。英語力も健康も、多くの人が高めたいと願っていますが、毎日地道に続ける方法ではなく、最新や流行の手法に飛びつき、成果が出ない失敗を繰り返す人が多数出てきます。

企業におけるマーケティングも、それと少し似たところがあり、悪い言い方をすると「自社がマーケティングに弱い状況をいち早く脱したい」というコンプレックスを刺激する「最新のマーケティング手法」訴求に惹かれ、誤った選択をしてしまう企業は一定数出てきます。
必要なマーケティング施策・手法は「最新」ではなく「最適」であるべきです。(結果的に最新が最適ならOK)


マーケで成果をだす、基礎土台=OSと、施策=アプリケーションの関係性


マーケティングの新しい施策や手法がダメだと言いたいのではありません。ただ、どんなに優れた施策手法でも、

・【OS力の高さ】的確な顧客理解と、それの施策への反映
・【アプリケーションの良さ】施策の企画・クリエイティブの完成度の高さ
・【予算配分の良さとタイミング】限られたリソースのなかでの優先投資すべきタイミングであること


この3つが噛み合わないとうまく成果がでません。

顧客理解というと、よく定性的なインタビュー調査でのインサイト発見が難しいという話が出てきます。それは私も同意しますし、プロのインタビュアーには暗黙知の掛け算で成り立つ奥行ある職人芸な技もあります。

ただ、インタビュー行為を複雑に考えすぎて、予算確保のハードルをあげて、実行の足が止まるのは損失が大きいのです。

・自社の商品・サービスを買って満足した顧客
・自社の商品・サービスを買って不満足な顧客
・自社の商品・サービスを検討しつつ、最後は他社を買った顧客



最初はシンプルに、この3種類の属性だけでもよいので、それぞれ3~5人ずつ話を聞いてみて、それぞれのグループの特性や自社の商品・サービスへの満足と不満のポイントを洗い出すだけでも実行してみてください。(もちろん個人単位ではなくグループ単位で聞く方法もあります)

やることはこれだけですが、いちいち調査会社を使わずに、自分でインタビューしてみるのが個人的にはおすすめです。インタビュー設計は稚拙でも良いので、やってみれば案外できて見えるものがあります。この顧客理解の基本動作を素早く実施したうえで

・顧客理解で更新された知見を組織内で丁寧に共有し、各種マーケ施策への反映徹底

これを継続するだけでかなりの進歩と成果が得られるはずです。私の経験上、この内部の時間コストだけの投資と努力は地味ながらかなりの高確率で売上成果に出てきます。

これぞ英会話やダイエットにおける毎日の地道な努力に該当するもので、これなしで、なにか最新の手法を導入して簡単に成果が出る!ということは、残念ながらほぼ無いのは、マーケティング業界も同じです。
(こんな風に書くと、筆者は健康と英語に自信ありそうですが、このふたつに自信はまったくありません苦笑)

落とし穴と、それを避けるポイント-------

・大ヒット期待させる目新しい施策への投資の偏りが、多くの企業で起こる落とし穴。

・ 最初に投資して身につけるべきは「顧客理解と、その顧客理解をマーケティング施策に俊敏に反映させていく組織力」で、その基礎習得に意識と時間を投資したうえで、有効な施策を慎重に選別して組み合わせ、投資するのが成功の道だと理解しておく

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