「大手でも小規模でもない中堅企業は市場で埋没しがち」 #マーケの落とし穴 06

業界において、売上や組織規模が最大級規模でもない、でも、小規模とも言えない。そんな中規模な中堅企業には、中堅企業なりの悩みがあります。

中規模な中堅企業は、“市場におけるポジショニングが中途半端になりやすい”という構造的な問題があり、今回はその対処について。

*説明がしやすいので、この記事ではBtoBサービス企業を念頭に説明します

大手ほど総合力に説得力がなく、小規模な会社のようにニッチにも振り切れない中堅企業の難しさ

企業の規模に応じたポジショニングのセオリーパターンとしては、業界で大手と言える会社なら「業界でNo.1」や「すべてのニーズに対応する総合力」と言った「大手と認識されていおるからこそ説得力のあるポジショニング」が存在します。

この記事を読んでいる人はマーケ関係者が多いとすれば、大手=電通さんを思い浮かべていただければ、素直に「No.1」であり「総合力がある」というイメージに異論は持ちにくく、想像しやすい例だと思います。

一方で、世の中に沢山存在する小規模な会社であれば、大手ではなくあえて自社を選んでもらうためには、「価格がすごく安い」もしくは「大手にはない差別化された強みがある」というどちらかのポジションが認識されないと仕事は得られません。

マーケティング支援の業界であれば、新しい考えかたのアプローチに特化(例:デザインシンキングで支援)、新しい今後拡大する技術に特化(例:VRを使ったソリューション支援)、何かの業界のクライアントに特化(例:マンション販売やゲーム業界のマーケティング支援)みたいなものがないと「大手より大幅に安い」という貧乏暇なしなポジショニングに陥ってしまいます。

では、その間に挟まれた中規模な中堅企業は、どういうポジショニングがあるのでしょうか?

これが実に難しく、

・それなりに規模があるため「総合力」と主張するし、実際に豊富なリソースを持っているが、市場からは大手ほどの説得力がない
・小規模な会社のように「特化」するには、維持しなければいけない売上や組織人員の規模が大きくて、特化では事業規模を支えられないことが多い

という感じで、どっちつかずになりがちです。

その結果、ぼんやりと「(小規模企業より)総合力がある」と主張しつつ、大手ほどの総合力期待は持たれず、でも、小規模企業よりは確かに総合力がある。大手よりは価格は安いけど、小規模企業よりは高い中価格帯。

そんな感じの、よく言えばバランスがとれた、でも裏返せば”中庸なキレのないポジショニングに結果的になっている”ことが多く、クリアなポジショニングが見いだせない悩みを持つ会社が多いのが中堅企業のリアルです。


中堅企業は「顧客への密着度」が基盤。高い成長率を目指すなら、新事業・サービスを矢継ぎ早に


中堅企業は、ポジショニングとしてはすっきりしない中途半端に見えがちですが、顧客企業からすると

「小規模な会社より価格が高い分、サービスや人的なバックアップが手厚く、トラブル発生時にリカバリが効きやすいし、大手企業よりは安くて小回りの効いた柔軟な対応をしてくれる」

というような、良い点を見いだされて評価されていることは多く、その事業規模を実現するだけあって「顧客への密着度がありつつ、大手よりは安い」という便益を顧客に提供できているのが、優れた中堅企業が持つ特徴です。

「顧客への密着度の高さ」とは、様々な切り口がありますが、顧客企業やその事業・顧客への理解度、対応のマメさ~融通をきかせる、リソースの厚みで補充が効くなどがあげられます。

業界によっては、顧客側は大手企業に「No.1かもしれないが、価格が高くて、融通がきかない」『テーマによっては過剰スペックで高い』「対応がお高くとまっている」という不満をもっていることも多く、そのペインを解消するような体験を提供し、評価される中堅企業は多いと感じます。

但し、顧客企業の要望に対してうまく線引したり、生産性を高める仕組みを持たないと、大手より価格が安い”便利な小間使い”に陥ってしまいます。このあたりのバランスをとるのが難しく、注意が必要です。経営的には、ポジショニング=付加価値の曖昧さの皺寄せは収益性や社員の給料水準に響くことがあります。大手と同じような仕事はしつつ、単価は下回るなか、社員の足や時間で頑張って価値を出構造があり、その皺寄せが会社の収益と社員の給料にやってきてしまうという。

「顧客への密着度の高さ」という価値は、確かに素晴らしい価値ではあるのですが、ポジショニングとしては曖昧さや伝わる速度に問題が残ります。

実際に仕事で取引をすると良さが伝わるけど、取引前の新規潜在顧客には、価値や強みがつたわりにくいのがマーケティング上の課題といえます。

「顧客への密着度」レベルが高い会社は、現場がまじめで誠実な会社が多く、その結果、取引のリピート率も高く、急成長は難しくとも、顧客企業の成長と共にリピート取引を拡大し、自社も手堅い着実な成長を実現していることもあります。

ただ、「顧客への密着度」だけでは、急成長の実現は難しい。

もし、急成長を目指さないのであれば「顧客への密着度」は大きな武器で、長い時間をかけて市場浸透を目指す価値はあります。いわゆる中堅で安定した老舗を目指すという選択です。
そのような会社には、顧客の密着度を高める具体的な取り組み施策とコミュニケーション訴求を、丁寧に実施するのが吉です。

中堅企業で高い成長率を目指すなら、新しい事業・サービスを次々と

中堅企業で高い成長率を目指すのであれば、今後の市場で拡大可能性が高い、有望と思える成長領域の新規事業立ち上げや、既存の新興勢力の事業・サービスのM&Aでの取り込みを数多く活発にやるのが、中堅企業のポジショニングを改善する有力な手です。

「最近の新しい考えやサービスなら、まずはあの会社に相談」というポジショニング。見せ方のポジショニングというより、実際の事業活動の内容のほうが重要ですで、ポジショニングは副産物程度の感覚でしょうか。

企業のブランディング~ポジショニングとして、全社に横串を通すというのであれば、新サービスが次々にアグレッシブに展開される孵化器インフラのような、成長ベンチャー感を打ち出す方向が基本パターンです。

マーケティング業界の支援会社なら、大手企業よりも早く、新しいコンセプトのソリューションやメディアは全て立ち上げてメニューとして揃えていくというイメージです。大手には対応のスピードで勝り、小規模企業にはリソースの投下量で凌駕することで局地戦の制圧を繰り返すイメージです。新規サービスの局地戦勝利の積み重ねと、新規サービスのどれかを大きくあてる成長によって、成長率をつくりだすという発想です。

このような新しい事業・サービスを続々投入の経営は、既存顧客とじっくり丁寧に付き合って関係を深めてきた中堅企業は比較的苦手なことが多く、その転換を目指すなら、社内生え抜きで上がった経営層よりも、違う文化で育ってきた経営層に変わらないと実現が難しいことは多いのが実際です。

あとは、大手総合系の子会社の中堅規模だと、グループ内での棲み分け方針によって、多少は新規事業サービスがやりにくいことがありますが、そこは本社の承認を通すロジックを組み立ててやっていかないと、大きな成長は見込めません。

細かく言えば、「顧客への密着度」と「矢継ぎ早に新規事業・サービスを仕掛ける」以外の道や、小さな差別化との掛け合わせなどありますが、中堅企業は、企業全体としてのポジショニングに制約事項が多く、現実的にはこの2つの類型に集約されることが多いというのが、私の経験則による見立てです。

もちろん「顧客に密着する」というのは、細分化すれば様々なやり方がありますし、それをブランドコミュニケーションに落とすときは、様々な比喩でエモーショナルなコピーに昇華され、ぱっと見は多様に見えます。

ただ、表現は多様に見えても、その背景を深堀りすると、本質的な戦略分岐のパターンはそこまで多くはない。これを覚えておくと、中堅企業を伸ばすためのブランディングなりマーケティングのポジショニングの思考が整理されやすいかと思います。


落とし穴と、それを避けるポイント-------

中堅企業は、何かに特化しにくく特徴が曖昧になり、市場で埋没するリスクがある。具体的には既存顧客からのリピートと紹介は潤沢でも、新規顧客獲得の引き合いが少なくなる落とし穴がある。

既存顧客と共にゆっくり成長を志向するのではなく、高い成長率を求めるのであれば、小規模な新興勢力が仕掛けているような、将来大きく成長するカテゴリでの、新しい事業やサービスの仕掛けを徹底的に強化することが重要になり、新しい興味深い新規事業・サービスを多数抱えている会社になることを目指す。

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