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「自前のモノと技術にコダワらない強さ」勝手に戦略考察ソフトバンク_02

ソフトバンクは元々パソコン用パッケージソフトの流通事業からスタートし、その後は出版社事業を展開するなど、いわゆるハードウェアや技術を自前で提供することが源流の会社ではありません。そのせいか、外からの勝手な印象でちょっと乱暴に言ってしまうと、自前で技術をゼロから投資して長期的に育てる企業文化は薄いように見えます。
(あくまでも企業体質の相対的な印象で、広いグループの中で真剣に技術開発をやっている方もいらっしゃると思うので、読んで気を悪くされたらすいません!)

では、技術でなければ、ソフトバンクは何にこだわっているのでしょうか?第二回目は、そのあたりを”勝手に考察”してみたいと思います。

モノと技術は必要な時に、外部からベストなものを調達

ソフトバンクの事業の意思決定パターンを観察していると「自前でモノや技術を抱え込む」よりも「その時の必要性に応じて、モノ、技術は外部から調達する」傾向が強い印象があります。
ただ、これは企業としての技術理解度が低いという意味ではありません。適切な調達を行うには、非常に高度な技術リテラシーは必須です。(特に新規参入業界のビジネスでは、その業界の技術や知見に明るいキーパーソンとなる人物をしっかり社内に中途採用している印象です)


2010年に孫さん自ら熱弁した「ソフトバンク新30年ビジョン」を見てもわかるように、長期目線の戦略では、本質的に世の中を変えていくテクノロジーを重視した姿勢の印象が非常に強く、投資先にはロボット開発企業のアルデバラン・ロボティクスのようなバリバリのテクノロジー企業も存在しています。

しかし、自前で経営している事業の判断を見ていると、技術投資コストと顧客メリットのバランスの見極めに大変シビアで、市場競争力や収益に寄与するか不透明なスペックや技術開発には過剰投資しない印象があります。

自前でモノや技術にどこまで投資すべきか否かには、ひとつの正解はなく、基本的には企業や事業ごとの固有解となりますが、少なくともソフトバンクは「自前で長期にわたって育ててきた技術が少ない」ことを別の要素でリカバーし、ビジネスを勝ち抜いてきているようです。


ソフトバンクの技術面の強さは、破壊的イノベーションの目利き力にあり

自前投資の技術資産が弱いことを逆手にとった大きなメリットは、世の中に新しく現れた「これまでのコスト構造を変えてしまうような破壊的技術」を躊躇なく調達して採用しやすく、そのメリットを活かせることにあります。

特にIT業界は、グローバル化しており、世界のどこからか過去の技術投資をご破産にしかねない画期的技術や、既存技術の欠点を解消するブレイクスルーが数多く生まれてくるため、その活用は事業の成否を分けていきます。

例えば、NTTは90年代にISDN回線に投資し、そのサービスによって収益を得ていたからこそ、ISDNの収益を脅かす当時の新技術ADSLの普及にアクセルを踏めず、そこを躊躇なくADSLを低価格で展開したYahoo! BB!が市場を切り拓いて市場シェアを奪っていきました。(その後、市場が光回線にシフトするなかで劣勢にはなりましたが)

ソフトバンクは、自前の技術開発投資は弱くとも、業界のコストや競争の構造を変えてしまうような“破壊的イノベーションの目利き力”が高く、それに躊躇なく投資し、マーケティング力を組み合わせることで自前で技術を持たないデメリットをカバーして戦っていると言えるでしょう。(自由なインターネット接続によって、携帯電話キャリアの料金体系、ネットサービスの生態系、端末のインターフェースあり方まで一変させてしまったiPhoneの導入はその最たる例でしょうし、Yahoo!BBにおけるADSL技術も、当時では画期的アーキテクチャを採用して、低コストでハイスペックなネットワークを構築したと言われています)

マクロ視点で乱暴に見れば、モノや技術のコモディティ化の速度は加速し続けており、コモディティ化の速度が早くなるほど、モノも技術も柔軟に外部から調達して戦うソフトバンクのビジネススタイルのハンデは薄まっていきます。(携帯電話メーカーで高いブランド力と収益性を誇るアップルも、基幹技術の多くは買収によって得ており、必ずしも基礎から自前開発した技術は多くありません)


ソフトバンクの真のコダワリは“事業の成長”であり、そのための手段は柔軟に適応していく

ソフトバンクは「自前の技術にこだわりがない」と指摘してきましたが、では、代わりにソフトバンクは何にこだわっているのでしょうか?私なりの解釈すると“事業で勝ち続け、業績を成長させつづけること”には尋常ではない強いこだわりを持っているように映ります。

 “事業の成長”を最大の目的と捉えれば、商品・サービスも、技術も、すべては“手段”であり、その時々でもっとも効果的なものを選べば良いと考えられます。(あえて事業成長を目的としていると強調したのは、企業によっては、自社技術の活用や、自社工場の稼働率UPが半ば目的化していることもあります)
言葉は少し悪いですが、その“節操の無い柔軟性”こそ、急速に変化する市場に適応しつづけるソフトバンクの強み
のひとつと言えそうです。

しかし、勝手な妄想になりますが、もし孫さんが100年前に登場していたら、成長性が期待できる産業はITではなく製造業であったため、経営理念はまるで松下幸之助の水道哲学のような「製造革命で人々を幸せに」となっていたのかもしれません。

こればかりは孫さんご本人は異論があるかもしれませんが、そう推察してしまうほどに“事業の成長性”を最上位においてピュアにこだわり続け、あとのことは技術も事業ドメインも躊躇なく可変させていく手段と捉えているように見えます。

孫さんご自身の時間リソースの投下先は、成長性の限界が見えた事業からは手を引き、更に高い成長性を期待できる事業へと躊躇なくシフトしてきた歴史です。Yahoo!BBに始まり、国内モバイル事業、そして現在は米国スプリントに専念しているようです。

私たちがソフトバンクから学べることのひとつは、企業やブランドの存在意義である“理念”や、“ビジネスの成長性”には強いこだわりを持ちながらも、他の商品・サービスの技術などは、可変する手段として柔軟に捉える姿勢と、必ずしも自前の商品・技術でなくても、ブランド・マーケティング力によって自社の競争優位をつくっていく戦い方ではないでしょうか。(このあたりはブランドコンサルティングを生業にしている私が言うとポジショントークになってしまいますが・・・)

もちろん、この話は、一律に自前技術志向の経営を否定するものではありません。現実には、何を自前で、何を外部化するかは、経営戦略の根幹であり、企業ごとに固有の最適解をつくるべき話です。

しかし、日本企業は、技術こそが組織のアイデンティティとなり、それでビジネスを勝ち抜いてきた歴史が長いため、そうではない勝ち方のイメージを持ちにくいことが多いようです。もちろんソフトバンクモバイルは厳密には携帯電話キャリアであり、メーカーではないため、直接比較できるものではないのですが、自前での技術開発をアイデンティティとせず、ビジネスを勝ち抜くその方法論は、多くの企業にとって学びのサンプルとなりそうです。

考察その2は、こんなところで。


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