経営者の見極め極意は、経営者を見ない。

いきなり禅問答のようなタイトルで恐縮ですが、これからnoteで、企業向けのコンサルティング経験を通じて得た学びを書いていきたいと思います。

本日のテーマは、よく聞かれる「経営者の見極め」。ちょっと大きすぎるボールですね、あくまでも私の経験則で。

経営者の本質は、外部からはわからない。

私は人事・組織の専門家ではなく、ましてや転職を支援するコンサルタントでもないのですが、ブランド~マーケティング領域でそこそこの年数を仕事しているうちに、知り合いから転職の相談を受けることが増えてきました。(相談者は、セカンドオピニオンとして、本職の転職コンサルタントと違う視点のアドバイスを期待されているようです)
そこでは現在所属する会社や、転職先候補の会社の「経営者をどう思うか?」という話が必ず出てきてきます。

これは非常に難しい質問で、その際、私がお伝えするのは「経営者と接触時間の短い外部からの評価はアテにならない」ということです。

これまでコンサルタントとして多くの企業や経営者と接してきた経験から、外部から見える情報だけでも「きっとこんな戦略パターンで、この手の経営判断傾向があるな」というパターン分類程度の推察は可能です。

しかし、仕事を通じて様々な経営者とお付き合いを深めるほどに、良い方向にも、時には悪い方向にも、事前期待とはギャップが生まれることは多いものです。つまり、外部からわかる範囲での情報では、理解の解像度は低く、転職に悩む人に応えられる精度ではありません。

万能に見える名経営者と呼ばれる人でも、実際はかなりの比重を参謀に依存していたり、良き経営チームのサポートがあって成立していることは多いものです。他の人と協調し、協力を得て経営しているのは決して悪いことではなく、外からの見え方と実際は異なることがあるという理解が重要です。


経営者の本質は、意思決定シーンの現場に現れる。それに直接触れている部下達が一番よく知っている。

経営者の本音や本質が現れるのは、意思決定の現場です。社内外からの見られ方に細心の注意を払う経営者も、実際に人・モノ・金を何に投資するか?という経営判断には、その本音が妙実に表れます。

「従業員の可能性を信じ、大事にします」と声高に言いながら「従業員に教育投資しない企業」も沢山ありますし、「お客様第一」と言いながら「自社利益のためにモラルを逸した顧客の不利益につながる」判断をする企業も現実にはあるわけです。
また、悪気のないケースで「技術が第一」信仰で盲目になりすぎて「顧客視点が欠如した技術開発への過剰投資」というシーンもあります。でも、それは良し悪しを別にして「技術開発を重視している」という経営者の強い本音が表れていると理解できます。


経営者と直接コミュニケーションの多い取締役や部長レベルというのは、経営者と一番長く直接ふれあい、意思決定の質や、そこで現れる人間性や本音を一番深く感じる機会の多い人たちです。

そのため、経営者の本質を短時間で深く知るための判断材料としては、

・経営者についてきている直属の部下の方たちのレベルはどうか?どのような特性の方たちか?

・その直属部下の人たちは、経営者をどのように評価し、対応しているか?


この2点を観察することが良いのでは?というのが、現在のところの私の解です。”部下のレベルとはなんぞや?”という問いには、様々な視点と解があるため、ここではあえて触れません。当然ながら、有名な出身学校やMBA行ってるほうがレベル高い!という安直な話ではありません。優秀の定義なんて、業界、企業、役割などで、”所変われば定義も変わる”だと個人的には思います。

このように部下を観察することによって得られる気づきとしては、見せ方がうまいだけの経営者では、結局のところ優秀な部下たちは外部に流出し続けるということです。長期的には、経営者に相応わしいレベルの部下しか社内には残りません。(このあたりは自分のレベル以上の相手とは付き合えないので、より高いレベルの相手と付き合うには自分を磨くしかないという、恋愛の俗説と一緒ですね)

そして、経営者が部下にどのように接しているかは、部下が経営者に接する態度を見ればおおよそ理解できます。
異論を歓迎する経営者であれば、部下は臆することなく異論を発言しますし、ある部分であきらめられ見切りをつけられてしまった経営者であれば、会議終了後に部下から隠れた本音がところどころで出てきます。
部下の対応というのは「私は、こういうタイプだから・・・」と経営者自身の自己解説(やプレゼンテーション)よりも、アテになる情報です。

優れた経営者というのは、自分の能力の凹凸を冷静に理解し、それを補完するようなポートフォリオで、優れた部下を配置し、尊敬を勝ち得て、素晴らしい経営チームを長期的に維持しています。(ちなみに、経営者の個人的な業務遂行能力の高さと、優れた部下を使いこなす経営能力は別物という話は大変重要なのですが、これはまたの機会で)

結局のところ、外部には見せ方のレベルで短期的には実像以上に期待を高めることはできますが、内部の直属部下には、日々一挙一投足を見られ、本質が伝わっているので、誤魔化しはききません。

すでにお気づきの人も沢山いると思いますが、これはマーケティングにおいて顧客インサイトを理解するときの原則と同じです。

つまり”経営者も、消費者と同じように、言ってることと、やってることが矛盾しがちな存在”であるため、対象を深く理解するためには”発言を聞くよりも、実際の経営判断(消費者なら購買行動)というファクトを観察することが重要”ということです。


経営者の人間性が良いから事業が成功したのではない。成功したら負の側面に目が向かないだけ。

このような「経営者をどう思うか?」という質問を受けるたびに、私は上記のように「経営者だけでなく、部下の方たちを見て判断するのが賢明」と答えるのですが、この質問の背景には常々危険な落とし穴を感じます。

転職を考える人で、真面目でピュアな人ほど、何かしらの理由で「現在の会社の経営者は志が不足している」と人間的な不信感を持っていることが多く、事業が伸びない理由を、経営者の志や人間性の問題と捉えていることが多いのです。
しかし、私が知る限りでは「完全無欠な人格と志を持つ、聖人君子な経営者など滅多にいない」ため、経営者への人間性への不信というのは、本質的な問題ではないのでは?と思うケースが多いのです。

わかりやすく言うと、業績的に成功している経営者も、業績が沈んでいる経営者も、志や人格面で、元々大きな違いがあったようには感じられないことが多い。

でも、周囲の従業員は、業績の良い経営者には”あばたもえくぼ”とばかりに、負の側面に目が向かない(笑)。基本的に業績が良ければ、社内のポストは増えて昇進機会は増え、給料も増える傾向にあるため、社内の不満は少なくなります。そして、その経営者の欠点を私に伝えてくるときも、不満のはけ口ではなく、好意的な笑顔とセットで微笑ましいエピソード扱いです。

しかし、業績が悪化したときには、ポストも給与も増えず、場合によってはリストラも発生し、従業員からは”坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”モードが発動し、経営者の人間的な負の側面が目立ちやすくなり、叩かれがちです。

そう、経営者の人間性が本質的な問題ではなく、業績が悪いことが真因で、人間性が目につくのは単なる結果としての事象ということは意外にも多い印象です。(そして、叩かれだした経営者からすると業績悪化の責任は頭では理解しつつ、「自分の人間性は以前から何も変わっていないのに」と感情面で意固地になり、部下との関係性が悪化する負のスパイラルに陥りがち)


そもそも経営者に限らず、人は強みと弱み、良いところと悪いところは表裏一体です。あの大成功企業であるAppleをつくりあげたジョブズも本を読む限り聖人君子とは言い難い。でも、事業が成功したからこそ、偏執的なまでの商品へのこだわりと表裏一体な、部下を罵倒するような欠点まで含めて、多くの人に受け入れられ、尊敬されているのが現実でしょう。

経営者というのは、外部からは、その人物像や仕事の実態が見えにくいだけに、良くも悪くも神格化されたり、逆に悪い面ばかりがフォーカスされるなど、毀誉褒貶が激しく、評価が両極端に振れてしまいがちです。

ビジネスパーソンのあるべき心構えとしては「聖人君子な経営者などいない」と冷静に判断し、志や理念はしっかりチェックしながらも、人の欠点よりも、肝心の業績を高める経営能力があるか否かを見極めることのほうが重要だと私は思います。(もちろん人間性やモラルの欠如は程度問題で、度が過ぎれば、どんな能力があってもNGという意見には賛成です)

逆に、経営者としての心構えは「良い業績はすべてを癒やす」と考え、経営の成果を出すことに専念するのが重要と常々思います。リストラによって淀んだ空気も、業績が回復し、その恩恵が従業員に感じられれば、社内の不信感や悪い空気も一掃されます。

私のつたない経験則ですが、モラルが高く、能力的に素晴らしい経営チームが部下として揃って機能していれば、経営者はそれらの人を惹きつけ続ける人格や能力を持っている可能性は高く、企業の先行きも明るいと言えます。
逆も真なりで、どんなに経営者が高尚なことを言っても、それに相応しい部下達がいないのであれば、何かが経営者には足りない可能性が高い、ということです。

特に創業者である経営者というのは、何もないゼロから事業を生み出したミラクルを実現した人々なので、面接では自社や自分を実像よりよく見せるプレゼンテーションは抜群にうまい。全て鵜呑みにしすぎず、自分なりの視点で見極めることが大切です。

別に部下が辞める経営者は一律に良くないということではありません。辞めずに残っている部下の特性こそ、経営者の本質を理解する手がかりということです。

ビジネスパーソンである限り、自社や取引先の経営者と何かしら関わりはあるはずです。その関わりのある相手を少しでも正しく理解し、その人間性の一端を愛し、サポートできるようになることは、きっとビジネスパーソン人生を豊かにする彩りになると信じ、この文章を書いてみました。

まぁ、実際に経営者と距離が近いと、魅力だけでなく負の側面の被害もダイレクト(笑)なので、そのように冷静に考えることが難しいことも沢山あるんですけどね。きっと歴代の私の部下達に聞けば、私の問題や被害報告も掃いて捨てるほどでてくるでしょう(苦笑)

わかりやすくするため、ちょっと極論めいたタイトルや内容になりましたが、読者の皆様に主旨がうまく伝われば幸いです。

もちろん経営者を見極めるには、経営者自身を見ることも大切です。でも、それと同じくらい部下を判断材料にするのは有効ですよ、とお伝えしたくて。あと、加藤貞顕さんの「人目を引くタイトル付けの7つの方法」を参考に”④常識の逆をつく”を取り入れてみました。”極意”とか大袈裟に表現して煽ってしまったのはどうかご容赦ください。

ずいぶん長くなってしまいましたが、初回はこんな感じで。

最後に経営者のフォローではないですが、経営者という人たちは、多くの修羅場をくぐり、人として経験する振れ幅が大きい分、魅力を持った人も多いです。その欠点を含めて自分がリカバーしたいと思えるような上司に巡り会えた人は本当にラッキーで、なかなかの幸せ者だと思います。

そしてまた私自身も経営者の端くれとして、そのような優れた部下を得て、関係を持続できるよう、人間力と経営力を磨かねばと思う次第です。

ということで、読者の皆様が良い経営者と共に仕事ができる幸せに巡り会えることを祈りつつ、ではでは。







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