ブランド独自の個性とは何か?その源流とは何か?

ブランド戦略のコンサルティングの仕事をしていると、職業病として企業の商品・サービスに潜むDNA要素が気になります。

かなりざっくり言うとブランドコンサルの仕事の流れとして

・独自の思想~技術の発見(もしくはその素子となるものを組み合わせて構築)

・上記を顧客インサイトを踏まえて”魅力的な価値として伝わる”ように文脈調整、要素のパッケージング~ラベリング
*マツダのスカイアクティブテクノロジーなどは、その細かな技術要素のパッケージング且つラベリングです

・上記の訴求要素と商品・サービスを含めた顧客体験に一貫性がうまれるように全ての顧客接点施策のチェック~見直し

こんなことをお手伝いします。

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高級品に限らないことですが、何かしらファンから「独自の個性~味がある」と言われるブランドが世の中にはありますが、その個性や味が形成された源流は何か??を、よく考えさせられるんですよね。

その源流をたどると、
・美しく言えば、そこには商品・サービスを企画設計した人の思想
・下世話に言えば、少し偏執的で個人的な好みや嗜好
にたどり着くと感じることが多い。

数値にできる世界でも、そして数値化できない世界でも、商品・サービスの業界には、作り手側には「こういうものが良いものだ」という業界内の常識があります。

でも、何かの粘着性のあるファンをつくるブランドというのは、その「良いもの」とされる常識から少しズレて、既存の業界の常識からすると「何か劣っている」けど「今までにない体験ができるもの」が付加されているものが多い。

例えば・・・

・ライカのレンズの味のある描写というのは、あるレンズメーカーの方に教えていただいたのですが「レンズとしては、ある数値スペックのパラメータが低くバランスが悪い。うちの設計ならあれは社内を通らない。でもそれが他との違いになり、顧客には味として評価されている」という話

・ポルシェの911の走り味は、本来レイアウト設計の重量配分としては筋が悪いRR(リアエンジン~リアドライブ)ですが、それが他にはない後輪荷重=トラクションを生み出し、独自の走りの味を出しているという話

おっと、たまたまドイツブランドが並んでしまいましたが、化粧品のブランドであっても、ファンを獲得するブランドは「良い肌の仕上がり」「良い使用感」というものを再定義したものが多い。

例えば・・・

・ドモホルンリンクルは通称「ドモびかり」と呼ばれるような、肌の艶が強くでる。これはメーカーによってはやりすぎと考える水準。

・肌ラボは、化粧水=サラサラの常識を塗り替える、粘度の高い剤形バルクによって「しっとり潤う」使用感がある

などなど。

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これらの源流を掘っていくと、そこには商品・サービスをつくった誰か個人の「これが良いものだ」という個人的な嗜好があることが多い。その個人的な好みを市場に強く打ち出し、ファンができ、というサイクル。

でも、その志向が、言語化されず、無自覚なままの暗黙知として社内で継承されると、市場に向けて打ち出すことができず、伝わりにくく、市場から優れたブランドとしても評価されにくい。

日本企業には、素晴らしいプロダクト・サービスが沢山あるのですが「これこそが良いモノと私たちは考える」という強い自負心で自信を持って打ち出すことが気質として苦手だったり、そもそも社内ではその特徴が暗黙知で当たり前化しすぎて、自分では気づけていなかったり、ということが沢山あります。
*そこを冒頭のように掘り起こして見える化し、市場競争力に転化させるお手伝いがインサイトフォースの仕事だったりするのですが。

源流となる個人的な嗜好を持っていた人も、年数が経つと引退し、社内で受け継がれなかったり、受け継がれても言語化されていなかったり。それはもったいないのです。

少しエモーショナルな話ですが、ブランドの個性というものも、突き詰めて掘っていくと、その源流には誰か個人の偏執的な好みであり、常識から離れたアプローチを信じた個人がいましたよ、というお話でした。

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ちなみに、このような企業の主観的な好みを市場に訴求していくのは、啓蒙型アプローチのブランディングと私は呼んでいます。これは少し傲慢なくらいに、自分たちの思想ややり方を信じて与件としている組織。それで長期的にガバナンスしきれるオーナー経営の企業、市場シェアが小さなニッチに徹する企業には向いたアプローチです。
*オーナー企業ではないですが、最近のマツダはこの啓蒙型ですね。

逆に、市場~顧客のインサイトを理解したうえで、そこに響くような強みを創造する~適応させていくのを適応型アプローチのブランディングと呼んでいます。これは多種多様な顧客層~プロダクトブランドを持つ企業のマネジメントスキルとして必須のものです。
*最近のスバルは、自社にとっての最大市場の米国ニーズに合わせて商品を適応させています

もちろん前者の啓蒙型アプローチでやってきた企業の市場競争力が行き詰まると、大事にしているコアは維持しつつ、市場に受け入れられて伝わるようにアジャストしていくこともあり、2つのアプローチはゼロイチで分けられるものではなく、グラデーションです。

そして、市場シェアが低いうちは、ニッチに徹して啓蒙型に振り切ったほうが成果がついてきやすい。ただ、徐々に市場シェアが高まり、コアなファンではない顧客に買ってもらうことを意図すると、適応型の発想を取り入れないとビジネスとしては行き詰まる。そんな構図だったります。

この両立~バランスこそ、一筋縄ではいかない、ブランドやマーケティングのマネジメントの大きな要素のひとつです。

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私はMinimalというチョコレートの会社の社外取締役を担っており、そのカカオ豆の粗い粒子を残したザクザクした食感と香りが強い個性だなと感じているのですが、それは伝統的なショコラティエの世界では邪道らしく「チョコは滑らかでクリーミーである」ことが常識らしいのです。

チョコ作りには素人な私は、言われれば「確かにそうだなぁ」と。

世の中に無かったものなので、好き嫌いは別れるのですが、その新しい触感と香りでファンになってくださる方々の反応をみていて、今回のようなブランドの源流とはなんぞや?に思いを馳せて、こんなことを書いてみました。

繰り返しますが、ブランドの個性の源流とは、誰か個人の偏執的な好み、であり、独自のモノの見方ですよ、と。

よかったらMinimalのショコラティエのこだわりがつまったチョコ、トライしてみてください。店舗は富ヶ谷、銀座、白金高輪、そして来月は池袋に4店舗目がオープンです。ECでも買えます。

手前味噌ですが、コーヒーやお酒とマッチして美味しいですよ。この原稿も、日曜のオフィスでMinimalのチョコとNespressoのコーヒーすすりながら書いております。


P.S
お陰様でインサイトフォースも9月末で7期目が良い業績で終わり、本日10月より8期目です。本年度もどうぞよろしくお願いします!


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