顧客プロファイル分析の落とし穴

昨日、こんな記事がSNSで拡散されていました。


【画像】トヨタの新型ヴェルファイアの販売ターゲットは「ヤンジー」らしい ヤンジーってなんだよ・・・

http://fesoku.net/archives/7653496.html

*リンク先より写真引用

インサイトフォースも、コンサルティング案件において、このようなターゲット像を定量~定性調査から定義し、クラスタのネーミングとプロファイル分析を実施し、似たような資料をつくることが多々あります。

ただ、販売店などに展開するときは、「販売店のセールスの方が直感的に理解しやすい」「ターゲット像記述を読んだ方が不快にならない」ことを意識し、もう少し配慮した名前と記述を心がけるようにしています。

「マイルドヤンキー」や「ヤンジー」という言葉は、SNSで局地的に一瞬話題になったことがあるキーワードですが、全国の販売店の現場の方々の多くが知っていてすんなり理解できるとは思えず、少し不親切な印象でしょうか。

しかしなら、自分達で実際に分析し、クラスタの解説コメントを書いてみるとよくわかるのですが、自分に近い価値観やライフスタイルはかっこよい前向きな形容詞やネーミングがスラスラと出てきます。逆に、自分と遠い価値観は、自分の立場から俯瞰してちょっと冷めて眺めたような、肯定感の薄い形容詞しか出てこないものです。(マイルドヤンキーというのは、その顧客クラスタの当事者が自分を形容する言葉ではなさそうですよね?)

わかりやすく例を出すと、自分が先端層という意識のある人は、先端層っぽいクラスタのプロファイルを「トレンドに敏感で、新しいブランドにも詳しく、新しい情報や体験はいち早く投資して手に入れるライフスタイル」とポジティブに書きますが、逆にそうでない人が書くと「実質的な中身を吟味することなく、トレンドやブランドに踊らされた消費生活をする人」と揶揄した目線で形容することになり、同じ嗜好の描写でも、自分の価値観次第で言葉の切り取り方が大きく変わりやすいものです。

これは、どちらも同じことを違う角度から表現した表裏一体の内容で、どちらも間違っているわけではないのですが、後者であれば、該当する方が読むと気分のいいものではありません。

このような視点で改めてチェックして見直し、その該当するクラスタの方たちの当事者の肯定的な気持ちとしてしっくりくる形容詞ワードを探すという作業を経て、初めて、多くの人が目にしても嫌な気持ちにならないプロファイル分析資料となります。

”読んだ人にとってのわかりやすさ”と”読んだ人が不快にならない記述”の両立、これ、実際にやってみるとけっこう難しいものです。弊社でも社内で議論が巻き起こるテーマです。

この件は、他山の石とすべきことで、私を含め、安易に嘲笑せず、真摯に自問自答すべきマーケティング関係者は多いのではないでしょうか。表面化しないだけで、リンク先にあったようなマーケティング分析の資料は、多くの企業内部に沢山存在しています。

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そもそも全国展開しているナショナルクライアントのマーケティング関係の仕事をしている人というのは、広告代理店の中の人、そして企業の中の人も、トレンドに敏感な東京在住~勤務者がその多くを占めています。

そのため、自分達とは心理的にも物理的にも距離が遠く、地方に住んでいて実際には日本人のマジョリティを占める価値観やライフスタイルへの理解度や共感度が低くなりやすいという構造的な問題を抱えています。その先端層であるという自意識が肥大化~悪化したケースになると、妙な優越意識のあるコミュニティになり、そうではない顧客層を見下しているような言動も、ごく稀ですが散見され、この問題の根深さを実感するところです。

人は、自分の価値観・ライフスタイルを自己肯定して生きる生き物であるために、そういう潜在意識がクラスタを記述する文章や絵となって浮き彫りになってしまうのは避けられないのが現実だと思います。しかし、だからこそ、顧客クラスタの分析記述は、注意深く見直すことが必須となることを改めて実感した出来事でした。

昔と違って社内秘だから流出しない・・という前提が通用しない。多くの販売店にばらまく以上、ほぼパブリックな資料だという自覚を持たないといけない時代ということですね。

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最後に・・・

「マイルドヤンキー」や「ヤンジー」という表現の良し悪しは別にして、過去にミニバン市場を分析した経験から申し上げると、まさにヴェルファイアのターゲット像で記載されたような方たちが購買ターゲットで出てくるのは事実で、断片的ですが記述されている内容には大きな違和感はありません。

何よりも実際にトヨタさんのアルファードやヴェルファイアは売れているわけで、それはこういうターゲット層の琴線をくすぐることを目指し、トヨタ内部の方々は商品、プロモーション、販売などの施策を実行されているわけです。その狙いすました「マーケティング感」に嫌悪感を持つ方がいるのも理解できるのですが、大手企業の中でヒット打率を上げるために通常行われていることです。

その昔、私が個人的にうまいなぁと唸ったのは、日産の高級ミニバンであるエルグランドが運転席のコンセプトを「キャプテンシート」と名づけたこと。

悪く言えば「家族の快適な移動の運転手」に成り下がりかねないミニバンのドライバーを、「大海原で航海する家族を率いるキャプテン!」と、見事に意味付けし、ターゲットのパパの「俺は家族を支えながら、次の行き先を指し示す、家族の頼れるキャプテンだ」という、ありたい自分の理想像とも言える気持ちを巧妙にくすぐる、うまいコンセプトだと感じました。

そういうコンセプトや発想は、まさにこういうターゲット分析とつながってくるわけです。

少々乱暴に言いますが、大きくて悪そうなフェイスデザインのミニバンは、「自分をちょい悪で強く、大きく見せたい男心」をインサイトとして意識し、自動車メーカーはつくっている面はあるでしょう。

ということで、そんな視点を持ちながら、こちらのヴェルファイアのCMを見ていただくと、なんとなくメーカーの意図するブランド・マーケティング戦略が見えてきて、今回流出した資料の内容ともつながるのではないでしょうか。

不定期で久々のブログですが、今回はこんなところで。ではでは。

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