「時間とお金を使う順番を間違える」#マーケの落とし穴 02

巨額の資金調達をしたスタートアップ、すでに売上・収益の規模が大きな大企業には潤沢なマーケティング投資資金があります。

しかし、世の中の大半の企業は、巨額の投資資金は持たない企業です。そのような大半の企業は、マーケティングの何から投資すれば良いのでしょう?


マーケ投資は、顧客獲得=売上と距離の近いところから投資するのが原則


投資リソースの少ない企業のマーケ投資の鉄則は、

1.売れるものをつくる~調達する(顧客と接点があったら、一定の確率以上で売れる需要のあるもの)

2.売ったあと、顧客が満足が得られるようにする(商品・サービスを買った顧客が、一定の確率以上でリピートする満足をつくる)

3.コミュニケーション施策で販売・営業を支援する場合は、売る現場に近いところから順番に投資をする(顕在化需要の顧客層の数が尽きてくるなら、潜在顧客層を掘り起こす施策に投資を徐々に増やしていく)

これが考えかたの原則で、1~3の順序も重要です。

売れないものにコミュニケーション施策投資してもリターンがなくて無駄ですし、売ってもリピートされないものはコミュニケーション施策投資を続けてもLTV(*超ざっくり言えば顧客あたりの累積の売上・収益)が伸びないので、長期的には投資の持続性がありません。

成長を急ぎ、巨額の資金調達済みなスタートアップの場合、あとでリピートやクロスセルが増え、LTVがあがって収支の計算が合うようになると仮定し、3の販促やマス広告まで先行的に同時に実行する会社もあります。でも、考えかたの順序の原則は変わりません。
*世間の成功話の影で、巨額投資したものの思惑通りのリターンに繋げられなかった会社も沢山あります。見切り発車の先行投資は慎重に。

投資リソースが少なく、財務的余力の少ない大半の企業は、目の前の売上に効くものから順序立てて投資配分しないと(最悪の場合、業績として)死にます。


マーケ施策の重点投資配分は、大きく3つのフェーズで変化していく


金額イメージは業界によってだいぶ異なりますが、例えば、ダイレクトマーケティングの化粧品ならば、こんな流れで重点投資テーマは変わっていきます。

Phase1:売上0→10億円規模
単品ヒット商品で実現
(PMFと販促重視)

Phase2:売上10→30億円規模
商品ラインナップ拡大~クロスセルで実現
(コア顧客層のニーズの充足と販促)

Phase3:30→100億円規模
ブランド認知と有益な価値の浸透
(潜在顧客層にブランドの認知と価値の浸透=耕しをすることで、顧客獲得数を増やしながらも顧客獲得コストを維持~改善できるようにする)
*ダイレクトチャネルの成長限界が見えてくると、リアルなチャネルや卸の併用も検討していく

Phase3まで辿り着いて成長が持続する企業は、下記の図みたいな成長のポジティブスパイラルがまわっているイメージです。

160216_ブランド戦略セミナー【配布版】_加工用


そもそも多くの企業がPhase1の単品ヒット商品創造までたどりつかないですし、その次はPhase2から3に移行しても思い通りに数字が伸びずに成長が止まるのが大半です。

それを人は「成長の踊り場」と呼びます。

「成長の踊り場」の具体的な状況とは、顧客獲得コストとLTVが見合わなくなってきて、顧客獲得の投資を拡大・継続できなくなっている状態です。(その数字測定ができている企業は、かなり優れているとも言え、多くの企業は定量的に把握できていません)

市場の幅広い層にまでスムーズに市場シェア拡大を続けるには、潜在顧客層を耕す=ブランドの有益な価値理解を伴った認知を拡げることが欠かせません。それは、ブランドを認知し、優れた価値があると期待している人のほうが、同じ販促施策に触れたときに、顧客への転換率(コンバージョン)が高く、顧客獲得コスト(CPA)を低い状態を維持して顧客獲得数を増やせるからです。

Phase3にたどり着く前のPhase1-2で、販促ではなく『ブランディング目的の広告にお金を使うこと』はあまりおすすめしません。Phase1-2のブランディングは広告以外のやり方で下地づくりで充分です。ただ、Phase3になって慌ててブランディング意識してもタイミングは遅く、巨額な広告以外のブランディングは意識して仕込んで地ならししておいたほうが、Phase3での成長打ち止めとなるリスクは減ります。

多額の資金調達をし、投資リソースを得たベンチャーは、通常の馬なり成長だと10~20年かけてPhase1→3に向かうのを、ハードワークと精緻で長期目線でのROI計算と巨額資金調達の合せ技を繰りだし、わずか数年で一気にPhase3までの成長を目指しています。
*マス広告が必須か否かは業種と競争環境次第で個別判断です。近年は動画も昔より安価なTV-CMやタクシー広告という手段が増え、早い時期からの動画広告活用ベンチャーは増えています。

では、巨額の資金調達をしない~できない会社は、他に戦う手立てがなく、黙って指を加えて見ているべきか?と問われると、そんなことはありません。投資のお金が少ないなら、少ないなりに努力できることはあります。


巨額の初期投資がなく、うまくいけばレバレッジが効くのは、PRと営業・販売チャネル拡大


巨額の初期投資がなくとも、うまく成功すれば成果にレバレッジが効くのは、PRと営業販売チャネル拡大です。

PRをすごく乱暴に言えば、オウンドメディアと第三者の報道メディアとSNSでの(事業に意味のある文脈での)露出により、ブランドの認知・信頼やポジティブな期待を獲得することです。(特にBtoBだと優れた本を出版し、その領域の有力なプレイヤーと認知されるのは有効な手段のひとつです)

自社スタッフの業務でうまく内製化できるのであれば、オウンドメディアは社内での記事制作ですし、報道メディア露出はメディア関係者への営業仕掛けコストのみです。SNSも自社運用で発信するだけであればスタッフの稼働費だけでタダです。

ただ、このようなPRとSNSですが、高度な戦略を考えようにも、創業したてのフェーズだと、そもそも売り物は、社長の熱意・ビジョンとキャラと経歴くらい・・という会社は少なくありません。

そのため社長自身や社長のコンテンツがメディアやSNSに向いていたら、そこをうまく使い倒せば良いですが、そうでない場合は、ネタがなくて現実的には打ち手がないことも多いのが実情です。(向いていない会社や人はSNS活用に見切りをつけるのもひとつの判断です)

また、営業販売チャネルアライアンスはうまくいくとメディア露出と同様にレバレッジが効く要素です。しかし中小企業が、良いチャネルと不平等条約にならずにアライアンスを組むのは、これまた社長や経営陣が個人的に先方と信頼関係があるみたいなコネも重要だったりします。

PRやチャネルでレバレッジを効かす話は、経営陣にその適性とパワーあるかどうかが、このあたりの成否を決めてしまう面が強いのが現実です。PRやSNSは最終的には内製化がベストですが、自社にノウハウなければPR会社やSNS支援会社を頼るなり、プロを内部に引き入れて雇いましょう。相応の金額はかかりますが、うまくいけば事業成長へのレバレッジがかかります。

*ちなみに個人的に、オウンドメディアの内製化による発信で抜群な成果をあげていらっしゃる事例は、BtoB企業向け特化のWeb制作会社を謳うベイジさんだと思います。記事の質も量も本当に素晴らしく、代表の枌谷さんにお伺いしたところ年間数百件の問い合わせを生んでいるようで、事業成長への貢献に疑いようのないレベルの成果です。


眩しい施策に目がくらんだら、冷静に自問自答しよう

大企業やAppleみたいな眩しいばかりの派手なマーケ施策やクリエイティブに目を奪われたり、支援会社の最新手法に目を奪われ、自分の会社でもこんなことやりたいと感じたら、「いま、うちの限られたリソースで優先順位高くやるべきことだっけ?」と自問自答しましょう。

売上と距離の遠い顧客の掘り起こしに、過度な投資リソースを振り向けると、中小企業は投資資金回収の効率が悪くて死にます。

逆に言えば、大手企業のように投資リソースの額が増えて変わることは、潜在顧客の掘り起こし~育成という売上に距離の遠い顧客に向けた投資配分を増やせる、ということです。そして市場シェア拡大とともに、異なる顧客インサイトや便益を期待する層が増えていき、マーケティングの複雑性が多少あがる。極端に言い切れば、違いはそれだけです。

あとは、組織が大きくなると、社内の利害関係者が増えて、合意形成にかかるコストが大きく増えます。逆に言えば、中小企業は組織が小さく即断即決しやすいのでスピード感で戦う、ということです。


落とし穴を避けるポイント----

・投資する順序は、まずは商品・サービス、次は、売上と距離の近い施策から。その順序を間違えない。

・巨額投資しない、もしくは”できない”なりにレバレッジが効いた成長を模索するなら、PRや営業・販売チャネル拡大など、巨額な初期投資はかからないけど有効な施策を模索する

この2つの要点は、投資リソースが不足した世の中の大半の企業にとって重要な経営テーマです。

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