統合に向けて振り子がふれるマーケティング業界について考える雑文

数年前から動きは沢山ありましたが、また最近、立て続けに、戦略コンサルティングやクリエイティブの垣根が取り払われ、能力の統合を試みる買収のニュースが増えてきています。

デロイト、カンヌ8冠の制作会社買収:止まらないコンサルの広告業拡大http://digiday.jp/agencies/deloitte-acquire-cannes-winning-creative/

コンサルとクリエイティブの統合ではありませんが、最近ではこんなニュースも。

博報堂DYHD、IDEOに出資 過半数取得も視野にhttp://www.advertimes.com/20160210/article217313/

言い尽くされていることですが、戦略コンサル、広告代理店、クリエイティブ、デザイン、テクノロジーなどの専門分野の垣根が取り払われ、それらを統合して提供することが求められている、という背景があります。

この手のニュースがあると「どう捉えているの?」とご質問をいただくことが多いため、私が感じていることをブログに速記でざっくり書いておきます。

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買収が増える背景は?

マーケティング業界の何かのカテゴリやアプローチに特化した会社の専門的能力というのは、そこに特化して業務経験を積み重ねて深掘りするからこそ、際立つレベルまで育つものです。

ITによって新しく産まれた、ネット広告、ソーシャルメディアなど・・・新しい媒体カテゴリが出てきた黎明期というのは、その領域でのマーケティング活動は誰もが未経験で素人です。そのため新領域に特化した専門会社が生まれやすく、特化することで経験を深め、プレイヤーとしてのポジションを確立していきます。

同時に、デザインシンキング、リーンスタートアップのような、媒体に紐付かず、考え方・アプローチのようなものも、特化した専門会社が啓蒙しながら拡げ、プレイヤーとしてポジションをとっていきます。

しかし、それもやがて数年でノウハウがコモディティ化し、専門会社も、その領域の専門性の深さだけで戦うのが営業面で辛くなり、マーケティングにおけるその周辺領域のノリシロをうまくつなぐか?という、統合力を身につけないと、競争として厳しくなっていく力学が働きます。

◯◯マーケティング専門!と標榜していた企業が、少し上のレイヤーにずらし訴求テーマを変えてきたり、コンサルティング訴求の色を強めてくるのを目にすると、ノウハウのコモディティ化が始まったのだな、と実感します。

*特に日本においては、総合広告代理店が圧倒的な強さとブランドを持つため、発注側である大手企業からすると、総合系にはない専門能力が期待できなければ、独立系の専門会社にオーダーする理由はありません

逆に、総合化した大手コンサルティング会社や総合広告代理店からすると、その手の新しい領域のノウハウを内部に取り込み、新しいソリューションへの対応力に磨きをかけるために、専門会社を外注として使って連携したり、買収によって内部に取り込むことで補完したい、という動機があります。

もちろん総合広告代理店も、組織の内部に、その新領域の専門性あるチームリソースを持っていることも多々あり、素晴らしい能力を持つ方々にも実際会うのですが、求められるニーズの量に対して、リソースの絶対量が足りないことが多く、それらの先端ノウハウのチームは巨額な広告予算のクライアントまでしか手が回らなかったり。
よって、専門領域ノウハウをもった人~組織をまとめて調達したい、専門特化のブランドを買収することで、専門性が高まったと発注側企業にプレゼンテーションしたい、という補足的な理由もあり、この手の買収は増えていきます。

俯瞰して整理すると、

・新しいイノベーションが猛スピードで進んでいるうちは専門特化した会社がそのノウハウをリードし、新領域の専門性が市場競争力となる

・しかし、いずれイノベーションの速度がおさまり、コモディティ化していくと、その競争の力学は、マーケティングの様々な領域の連携・統合力へと市場競争力がシフトする

マーケティング支援業界の世界では、昔からIMCや統合マーケティングのような”統合”というキーワードは語り尽くされていますが、言うは易く行うは難しの典型的なテーマです。

市場では、このような分散と統合の競争力学が様々なレイヤーで入り乱れつつ、最近は、デジタル化した支援ソリューションのコモディティ化が一段とすすんできたせいか、再び「統合」に競争力の軸がシフトしてきているのがメガトレンドだと私は捉えています。

そもそも「マーケティング施策の統合は発注主である企業側がすべきでは?」という正論な問いかけはありますが、ジョブローテーションが頻繁にあり、マーケティング全体を統括する専門職がキャリアとして育ちにくい背景もあり、現実的には日本の大手企業の多くは、”マーケティングのコミュニケーション施策部分の統合”に関しては外注サイドのプロジェクトマネジメントに期待しているケースも多いのが実情です。(もちろん、コンサルティングフィーを支払っていなくとも、その工数費用は、何かしらの費目に隠れて回収されているわけですが・・・)

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で、買収してから、うまくいくの?

前述のように、発注側の企業からすると「統合されたソリューション」へのニーズは間違いなくあります。

しかし、今度は買収した企業と、買収された側の企業の統合が、なかなか難しい。

一般的には、戦略コンサルサイドは論理的で左脳的な文化。クリエイティブサイドは感覚的で右脳的な文化。どちらが正しいか?ではなく、それぞれのビジネスモデルや業務特性に最適化し、培ってきた異なる文化があります。

この異なる文化の融合が、組織として本当に難しいのです。

戦略サイドとクリエイティブサイドは、健全な衝突と議論をし、相互に尊敬し、協力し、同じ目標を乗り越えていく。。この理想を掲げつつ、実際は、けっこう大変なんですよね。組織文化の衝突というのは、生き様の衝突でもあり、こじれがちでして。

前にTwitterでも書きましたが、戦略コンサル側とクリエイティブ側の協働シーンにおいては、戦略コンサル側から変にクリエイターを見下す居丈高な人が出てきたり、逆に「自分はクリエイティブわからないから」と丸投げしたり。

逆にクリエイター側からはコンサル側を「あいつらの戦略は、机上の空論だろ?」「クリエイティビティにとっては制約にしかならない」と猜疑心に満ちた目線があったり。

これらの問題は、私自身、戦略サイドの人間として、クリエイターの方々と協業させていただくときに留意しながら仕事をするわけですが、社外同士の距離感だからこそ、互いのアイデンティティに踏み込みすぎずにうまくやれる面があることも実感しており、「本当に、戦略サイドとクリエイティブサイドが、同じ組織文化として統合されることはうまくいくのか?」と疑問を感じることが多々あります。やはり人間のサガとして、自分の能力や気質がスターとして扱われることが、本能的には気持ちが良いのです。

組織文化の融合~変化とは、やや偏狭な見方ですが、当事者からすると、自分が社内でスターではなくなっていく恐怖心との戦いという一面もあります。

私は、クライアント側の立場にたって、総合広告代理店のプレゼンに同席させていただくこともあるのですが、戦略チームの入念な市場分析結果報告が終わったあと、スタークリエイターがプレゼンしはじめたときに「まぁ、分析結果はこうですが、それは置いておいて・・」と、前段のプレゼンとはまったくつながりのない自説を展開しだしたシーンに遭遇した経験も何度かあります。
それはどっちがいい悪いという話ではなく、戦略とクリエイティブの建設的な協働の難しさを実感するわけです。社内に各種リソースがそろっていても、良い協働が保証されるわけではないのが、この問題の難しいところです。

では、資本として買収した会社を、組織内部に統合せずに、外部においたまま連携すればいいのでは?

こんな話も出てきます。これは、組織の給与体系の格差や、組織文化の差を、認め、残したまま展開できるので、非常に現実的なナイスアイディアに見えます。優れたコンサルタントやクリエイターは、他社からも声がかかります。そのため居心地の悪い組織になれば、すぐに去ってしまうため、無理な統合による人材流出も怖かったりします。

ただ、「それだったら、買収せずに、その都度、案件ごとに外注していれば良かったのでは?」という話に戻ってしまう。

などなど、けっこうすっきりといかないものです。

そうなると、、

「組織統合はしないけど買収するというのは、長期的に互いのリソースを出し合って新しいイノベーティブなソリューション共同開発するためのコミットメントの現れである・・」

という、まぁ、そのとおりだけど、ちょっとモヤモヤ感が・・・という落とし所になりがちです。

ちなみにコンサルではなくITベンダー~ソリューション系のビジネスモデルの会社が、クリエイティブ系企業を買うジャッジは、経営レベルではリターンが大きいと感じています。組織統合の難しさは同じくあるものの、その付加したクリエイティブ系の魅力を軸にITシステムなりマーケティング・オートメーションなどのシステム開発~運用支援の受注があれば、収益として回収できる金額効果の桁が大きくROIの算段は立ちやすい。(組織として本当に統合されなくても、言葉は悪いですが見せ球として「クリエイティブもあります!」と言えることで得られるものが大きい)

また、コンサル系企業による買収であっても、クリエイティブ系の会社というのは、基本的に買収される金額が小さいことが多く、シナジーをうみだし、根付かせることを失敗したところで、財務的なリスクは小さいといえます。
*リスクが小さいからこそ買収が増える構造とも言えます

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じゃあ、どうすればいいの?特に日本では?

すいません、私もすっきりと答えは出ていません(苦笑)

それらの検討をしていて常に感じるのは、机上ではソリューションのシナジーが出ていいですね~となる案件も、資本投入に伴う組織統合には、茨の道があり、その解決策は見えていない。その一方で、資本関係がなくても、外部の優れたクリエイティブリソースと連携するハードルは年々下がっているという流れです。肌感覚として、優秀で独立した個人やクリエイティブブティックは増えています。

”マーケティングの統合的ソリューションの提供が目的”であった場合、その唯一の解答は買収ではないと感じており、資本関係の伴わない、案件ごとの発注や、ソフトアライアンスでも良いのでは?という思いは年々高まっております。

その昔、自動車業界では「400万台のスケールメリットがなければ生き残れない」と言われた時代があり、各社買収したものの、その結果はうまくいかなかったものも多数あります。コンサル業界がクリエイティブ系を買収する話も、みんなで煽られて同じ橋をわたっても、同じ道をたどる危険性があるのでは?と感じています。

ちなみに安易な欧米礼賛はしたくないですが、何度か米国のクリエイティブエージェンシーと仕事をさせていただいたとき、そのクリエイターの方々の戦略への関心度や理解力の高さが大変印象的でした。これは俗に言われる日本より理系と文系を区別しすぎない教育効果なのか?たまたま私が触れた人材がトップクラスだったのか真相はわかりませんが「もしかしたら米国のほうがこのような組織統合の壁は低いのかな?」と感じました。一般化するにはあまりにもサンプルが少ないですが、日本のほうが、戦略とクリエイティブの現場の相互理解が進んでいない印象が強く、より組織統合のハードルが高く感じています。

ただ、これは業界で働く人の資質の違いというよりも、日本は総合広告代理店の力がマス広告のメディアバイイングを梃子に圧倒的に強く、そもそも事業や収益環境において海外と大きく異るためという見方もあり、一律に論じるのはあまりに雑な話です。

今回はその雑さを理解しつつ、大きくざっくりで論じております。

私自身も、マーケティング支援業界の端くれの独立系企業の経営者として色々考えるところはありますし、弊社インサイトフォースでは、少なくない数のマーケティング支援業界のクライアント企業さまがおり、今回のような統合能力を高めるための買収や提携の経営戦略策定を支援させていただくこともあります。また、インサイトフォース自身も、コンサル会社の立場として、クリエイティブ系リソースを内製化することを考えたことはゼロではありません。(考えてみても、内部でクリエイティブを持つメリットは少ないな、と毎回確認されて終わるのですが)

つまり、客観的に書いてはおりますが、これらの流れを考えて対応すべき当事者でもあります^^;

そんなこんなで、今のところ私の個人的な考えとしては”マーケティング支援業界の競争力として鍵になるのは統合力にシフトしていくが、特に国内においては買収というアプローチにはちょっと疑問を感じている”が正直なところです。すっきりしないのですが、案件ごとの外注や資本関係の伴わないソフトアライアンスが、ベストではないかもしれないですが、ベターチョイスかと。

このような心境で、各社が発表する国内外での買収チャレンジのニュースの行方を興味深く注視しております。

付け加えるのであれば、これらの課題をわかったうえで組織統合という茨の道をチャレンジされている経営者の方は、そのガッツをリスペクトしております。ぜひ成功事例となっていただきたい。

良いマーケティングを実行するには、各種施策を統合する能力は極めて重要であり、支援企業にそれが求められているのは間違いないから、です。

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最後に余談ですが、マーケティング支援の専門会社の経営の立場からすると、広告代理店経由の案件比率が膨らみ、クライアントとの直接取引が少ないと、売上~人員は膨らんでいても、収益力が低下しやすくなりがちです。

そうなると、広告代理店が案件発注のはしごを外した瞬間に自社の経営が傾くため、自社に不利な条件での買収に持ち込まれがち。広告代理店とうまく協働しつつ、いかに経営や営業面で首根っこをつかまれた状態にしないか・・・このあたりのマネジメントは、マーケティング支援専門会社が拡大する局面で経営面のテーマになったりします。

なんてあたりの、「マーケティング支援企業の経営面の話とマーケティング業界のマーケティング戦略」は、色々と奥深く面白いものがあるのですが、その話は、またそのうちどこかで。

ではでは殴り書きの雑文で失礼しました!


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以下、追記補足(2016.03.03)


このブログを読んでくださった多くの方がソーシャルでコメントくださり、ありがとうございます。もう少し見解の細部を補足しておきますと・・・

単なる組織統合のしやすさという意味では、デザイン思考の組織文化に、そこにフィットさせられる戦略思考の持ち主が参画するのがハードル低いと思うのですが、それだと売上や案件が増える事業シナジーのインパクトが弱い感覚があります。

逆に売上が増えるインパクトでは、戦略思考が軸の組織にデザイン思考系の方が加わったほうが、提案の相手が経営層になるため、トップダウンでまとめて競合のリプレースを仕掛ける営業が可能になり、売上をあげやすく感じるのですが、組織文化的にデザイン思考の方の居心地が悪く、もたない印象があります^^;

この着地点、どっちもどっちで、最後は、組織統合はしないまま維持し、そして買収側の経営者が交代したころ、次の世代の経営層から「あれ?なんでこの会社に資本入れてるんだっけ?別に外注すればよくない?」なんて言われて、また切り離される・・・そんな未来がありそうな気もします^^;

ほんとに、難しい。


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