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NewsPicks #さよならおっさん 問題考察の長文

企業のコミュニケーション施策の目的には、
・ブランドへの尊敬や信頼を得るためのもの(ブランディング)
・注意をひきつけ、購買喚起するためのもの(販促)

がある。

ざっくり言えば、
前者は煽らず事実や思想を真摯に伝えたほうが長期的成果につながる。
後者は目を惹くためにあざとく煽る表現をしないと短期的成果が出にくい。

両立すれば良いけど、これはなかなか両立しない。

となると、コミュニケーション施策のディレクションは、最後はブランドの人格的信頼をつくるためのものか、販売促進のためのものか、その目的が問われる。それが明確でないと、ディレクションも曖昧になるし、成果の評価もできない。

今朝のNewsPicksの #さよならおっさん  ネタは、ブランドへの人格信頼を得る目的であれば少々あざとい一面があるのは否定できないでしょう。実際にSNS上では反発の声も多数見かけます。

*補足のために書くと、広告のテキストでは、年齢や性別のようなデモグラフィック属性で「おっさん」を揶揄をしているのではなく、凝り固まった価値観やルールを象徴して「おっさん」と表現されているという主旨を説明されています
*定義が長いので、上記の痛い意味合いを含んだ人を”(イケてないオッサン)”と便宜的に本ブログでは書いておきます

ただ、販促目的の確信犯だとしたら、賛否両論ハレーションを含めて拡散されたことは成果の一部となり、社内で問題視されるものではないでしょう。


ブランドが人格的な尊敬を得る大変さ

ブランドが人格的に尊敬されるというのは、実現できるに越したことはないですが、本当に長い時間かけて一貫した態度の積み重ねが必要です。信念がないと難しいものがあります。

そのため、尊敬要素が購買基準にもなるBtoBサービスや、強い信念の持続性があるオーナー経営でないと、実際には実現が困難なのも事実です。

ちなみにブランドへの人格的な尊敬要素は、グローバルなブランド調査では”尊厳性”という概念で評価されます。IBM、GE、日本企業ならSonyやToyotaみたいな企業ブランドが高く評価されます。

そんなブランドコミュニケーション、持続できないのが普通です。

だから「コミュニケーション施策投資は、販促目的です!」になるのは、別に恥ずかしいことではないのですよ。一番まずいのは、コミュニケーション施策投資の目的が曖昧でブレること。目的が違えば評価の視点も指標も違う。そこの整理は超大事。

ブランドの信念を示すもっともわかりやすい姿とは、目先の金に転ばない姿勢を社内外に見せ続けること。つまり、短期的には回収の見込みがない顧客体験、技術、コミュニケーションなどの施策に投資を続ける狂った姿勢こそがブランドへの人格的尊敬を得る長くも最短の道なのです。コミュニケーション投資といっても、SNSやブログも立派な時間投資です。

小手先のテクニックでHackしようとしても、見透かされれる程度に、大衆は賢いし、騙せないぜ、です。


アンチテーゼ訴求はチャレンジャーにはROIの高いコミュニケーション手法

ついでに言うと、信念を示し続けるコミュニケーション施策投資は、事業や組織規模が小さければ、その実現と持続は容易です。尖った信念をそのまま発信し、それがニッチで9割に嫌われても1割に深く刺さればビジネスとしてのリターンが必要十分なので。小規模ビジネスは信念発信コミュニケーションにこそ経済合理があります。(そのため、個人や小規模な事業体は、極端な煽りを入れるプレイヤーが発生しやすい構造があります)

でも、大企業になり、市場の1割ではなく数割の市場シェア規模になると9割に嫌われてはいけないし守りたい既存顧客も増える。そんなときオーナー経営じゃないのに人類や産業の未来ビジョンを示し、有言実行で事業ポートフォリオを組み替え、長期的に高い事業成長も実現してきたからGEみたいな会社は尊敬されます。

市場シェアの小さなチャレンジャーのうちは、既存の権威や既得権益を否定するアンチテーゼ打ち出しが一番効率的に伝わりやすいコミュニケーション。でもその成功体験が強すぎて、市場シェア大きくなったのに、いつまでもアンチテーゼ訴求抜けないのが課題のブランドも世の中には多々あります。成功の復讐というやつです。

もちろん短期的にはGEやIBMも業績や課題の面で色々あるわけですが、それでも信念を感じさせるから尊敬される。これ、なかなか真似できないのですよ。

既存権威の否定となるアンチテーゼは、既存の価値軸が人々の頭のなかに形成済みだから、否定で対比すれば、言いたいことが伝わりやすい。だけど、未来の新しいビジョンを示す話は、人々の頭の中にない新しい価値軸を形成する話だから、なかなか伝わりにくい。それを丹念に丹念に伝える。ほんと大変。

今朝のNP広告の #さよならおっさん  は、誰もが頭の中に(イケてないおっさん)がイメージできるからこそ、その対比でメッセージが理解しやすいわけです。

スターバックスコーヒーも、声高にメッセージはしませんが、全店禁煙を徹底することで、「喫煙者」を排他し、店舗体験を向上させて価値をつくってきた一面があります。そう、排他は、それを声高に主張すると反発をうみますが、現実的には企業の顧客戦略の選択肢のひとつです。

NPは、明確にリスクをとって(イケてないおっさん)を排他することで、ブランドをつくろうという戦略を持っているのだと思います。


アンチテーゼ訴求は、言っても良い立場と、言ったら痛い立場がある

ただ、このアンチテーゼ訴求は、そのブランドのステージによって有効性が変わってきます。

個人で例えれば・・・

・10代なら大人の否定でアンチテーゼでも良い。
・20-30代も、自分達より上の世代のオッサン&オバサン否定のアンチテーゼでもギリギリ成立…
・でも、40-50代にもなって既存の社会や会社にアンチテーゼでイキってたら痛い

シビアに言えば、社会の中枢を担う良い年齢のオトナなら、当事者としてビジョンと行動でリードしろよ、という話です。つまり、アンチテーゼ宣言の訴求は、まだ若々しいチャレンジャーの立場だから、受け入れられるし、許されるコミュニケーションです。トヨタのような大人な王者の会社は、特定のターゲットや競合をdisるコミュニケーションはしません。あくまでも未来のモビリティのビジョンを描き、それを人々に示し続ける歴史があるからこそ、あれだけ尊敬されるわけです。

いつまでもアンチテーゼのままな会社や個人は、自分が主体者としてより良き社会や会社をつくる責務を放棄した子供に見えてしまう。アンチテーゼが必ずしも悪いわけじゃないですが、企業も個人も、そのステージに応じた成長なり、コミュニケーションのあり方を変えていかないと、行き詰まります。

NPの#さよならおっさん は、戦略論からみると、まだまだ日経と比べれば小さなチャレンジャーであるNPが、(イケてないオッサン)を仮想敵に仕立て、自らをイケてるオッサン(&オバサン)が集うコミュニティと位置づけることは、施策投資のROI視点では理にかなっています。

NPは、もはやスタートアップ=10代ではないかもしれませんが、まだ20代の若者とは言える立場であり、王者といえる日経に対してはチャレンジャーなのです。大局的にみれば、アンチテーゼ宣言訴求が、ビジネス的にはワークする事業ステージです。ネット業界にいる人は麻痺しがちですが、世の中全体の視点からすると、まだまだ日経の背中は遠いのです。

NPは、明確な顧客インサイトを見定めて刺している

今朝の広告施策の背景にあるメッセージ開発基準となったであろう顧客インサイトを推察すると、(イケてないオッサン)を仮想敵に仕立てた背景には、「NPユーザーは”既得権益にしがみつくようなイケてないオッサンではない”」と暗にほのめかしたいるだと考えられます。これは、NPユーザーインサイトとしては正しいのではないのでしょうか?
NPユーザーの特に発信されているコアユーザーの方達は、コメントを拝見していると、自らを「イケてないオッサン」とは対極な存在と位置づけている印象はあります。こんな推察をしている私自身も、自分のことをそう思っている節があります・・はい、そう思ってます。はっきりと言えば、そう思いたがっています(笑)

定性的な印象ですが、NPユーザーの最初のコミュニティは、ITベンチャー業界からスタートし、そこがコアユーザーに見えます。
ITベンチャーは、やはり既存既得権益へのアンチテーゼなメンタリティと切り離せないものがあり、そういう意味で、今回のメッセージは、NPのブランド戦略として筋は通っているように見えます。

そして日経に広告を出すからには、既存のエスタブリッシュメントな大企業の中にいる「自分は凝り固まった価値観やルールに縛られるイケてないオッサンじゃない!」という気持ちを持つ次なるターゲット層のサービス加入を狙っているのでしょう。ITベンチャー業界じゃないけど、NPさんの新しい切り口の企画コンテンツ~情報を求めている方は、大企業にも確実に一定数います。そこを全力で掘り起こす事業ステージなのでしょう。

ノンターゲットの排他~コミュニティの分断~対立構造がもたらす副作用

古くからある古典的な手法ではあるのですが、コミュニティの結束を高めるのに低コストなアプローチは、仮想敵をつくり排他することです。つまり、NPは(イケてないオッサン)を排他宣言することで、コミュニティ内のNPユーザー達に「私達は”イケてるほうの”オッサンorオバサン」と自らを巧妙にアイデンティファイしているとも言えます。

そのメッセージ内容、煽るコミュニケーションに対して、良し悪しや好き嫌いは個々人の価値観で受け取り方は色々とあると思うのですが、大局的に見れば販促効果としては理にかなっているコミュニケーション戦略=ポジショニングであり、コミュニケーション戦術=メッセージ表現なのだと思います。

自らを(イケてないオッサン)側と思う人々は、NPからするとターゲット外であり、仮想敵として対立関係に陥っても、NPは失うものは少ないと判断し、確信犯で排他してると推察します。

「コミュニティの結束を高めるのに低コストなアプローチは、仮想敵をつくり排他すること」はきつく聞こえますが、欧州の高級ブランドは、階級差を意識させるように、望まぬ顧客を排他する効果も期待できるドアマンを店の入口に配置しているのは常套手段です。
同様に、北朝鮮をはじめ各国の政治家、我が国の野党も、仮想敵をつくり、そこを激しく非難することで、自らのコミュニティの結束を高めています。それは実に物悲しくも、普遍的な人間のサガを利用したポピュラーな手法です。

ただ、排他の手法は反発も生むので、後々で自分の勢力拡大の足かせにもなり、その塩梅が難しいのも事実です。
今の野党の支持率の低さは、まさに安倍首相とその支持層憎しの排他的メッセージが先鋭化しているため、野党支持層の身内の結束は高めても、その支持層が拡がらない要因にも見えます。排他は目先のROIが高いけど、弊害のしっぺ返しがあります。

NPを提供される会社の取締役である佐々木紀彦氏はメディアで拝見している限り、東洋経済に在籍されている時代から、「日経をはじめ既存ビジネスメディアのユーザーは高齢化しており、自分たちの世代向けのビジネスメディアはエアポケット」と主張されていた印象があります。(細かい文言や文脈が違ったらすいません。主旨としての印象レベルの理解です)
そういう意味で、今回の広告メッセージは、その立ち位置をより鮮明に伝えるものとして、手法の賛否はあれど、メッセージの背景意図には一貫性があり理解できます。

戦略判断として自覚的にジャッジされたのか、それともその背景にある思想が漏れ出てしまった結果としてあのようなコピーになったのか、そこは外部からはわかりません・・・

・・と書いたところで、NPさんのイベントタイトルで「劣化する“オッサン社会”の処方箋」というものを見かけました。これは、明確にブランド戦略として、(イケてないオッサン)を仮想敵にすることを会社として定めている可能性が高そうですね。意図的に”オッサン”キーワードを散りばめていると推察できます。

「人を脅さない」ほぼ日の覚悟

この手の煽りのメッセージに対する賛否ネタが出ると、私は、日経ビジネスオンラインで対談させていただいた”ほぼ日CFOの篠田真貴子さん”のコメントを思い出します。表現の詳細の記憶は曖昧ですが、「ほぼ日は、なるべく相手を脅かさないメッセージを選ぶ」というものでした。

そう、顧客インサイトを突くコミュニケーションという行為は、乱暴に分解すると、、
・より良い未来を想像させるチャンス喚起のアプローチ
・放置したらまずいことが起こるというリスク喚起のアプローチ

の二択しかありません。

ほぼ日は、基本的に前者の提案を心がけ、後者のリスク喚起で脅す行為はしないように留意されているという話でした。

それが鮮明に印象に残るほど、いま私達の生活には、ありとあらゆるリスク喚起のインサイトを刺してモノを買わせようとするコミュニケーションで溢れています。(私も、案件の一部では、リスク喚起のコミュニケーション施策に関わることがあり、断罪できる立場ではありませんし、それらをすべて否定すべきとも思いません)

リスク喚起アプローチから決別し続けるというのは、なかなか大変なことなのです。(基本的には、リスク喚起のほうが購買につながるコンバージョンは高いと言われています。だからこそ、健康~美容の商品のランディングページは、リスク喚起で煽る内容が多いのです)

好き嫌いが語られる時点でNPはブランドである

もう、これだけ語れて、好き嫌いのコメントがSNSに出る時点で、NPは立派なブランドです。こんなにも賛否を表明されるということは、ポジションをとっているということ。コアファンとアンチがいるなら、立派なブランドですよ。その好き嫌いは、それぞれにお任せしますが・・・

ちなみに、私は個人の価値観としては、タイトルに多少の違和感はあれど、憤怒するほどの気持ちはわきおこりません。社会に分断を引き起こすという批判の主張も理解はできるのですが、現実にそこまでのメデイアパワーはないのだろうな・・と。

私自身は、特に肯定も否定もないですが、今回の施策が世の中でどう受け止められ、評価されるのだろう?という関心はあります。
賛否のポジションを表明しないのが卑怯だ!と言われそうですが、上記が私の偽らざる本音です。

ネットで多くの方々が反応されていたので興味を持ち、観察したところ、NPさんは明確にブランド戦略を持って、それに沿って展開しているのだと私なりに興味深く理解でき、その内容のシェアでした。

と、これだけNPさんのことを題材に一方的に語っておいてなんですが、実はインサイトフォース社内では、「山口のNPアカウントのフォロワー数が少ない!けしからん!」という話が最近出てきております。


私はNPに興味ありつつ「専門性から外れる話題テーマが多くて、皆さんほどうまくコメントできないな」と思い、回り続ける縄跳びに飛び込めないまま指くわえて放置気味(苦笑)でしたが、寄稿記事や対談記事がメデイア掲載されたときはしっかり投稿していきますので、もしよろしければフォローを・・・という今回は実に厚かましい下品な〆で^^;

P.S
移動の多い日は、移動の合間のスキマ時間での投稿が増えてしまいますね・・・。

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