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初心者でもバッチリ楽しめるオペラ講座「わたしをオペラに連れてって」―小山ゼミメンバーによる公開ゼミVol.3

オペラは16世紀にフィレンツェで創始され、当初は貴族的な宮廷演劇だった。17世紀からは大衆的な芸能に変わり、19世紀にイタリア・オペラは期を迎える。イタリア・オペラの代表作品としては、ヴィルディの『アイーダ』や『椿姫』、プッチーニの『トスカ』、『ラ・ボエーム』などがある。オペラには、歌や管弦楽といった音楽的な要素の他に、台本や台詞などの文学的要素、演技や演出といった演劇的要素が組み合わさっている。

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商業音楽としてのオペラのビジネスモデル

今日はビジネススクールのゼミでもあるので、商業音楽としてのオペラのビジネスモデルを紹介してみたい。19世紀頃はオペラ作品(楽譜)の著作権と版権が同一視されていた。作曲家から版権を買い取った出版社が出版権、所有権、上映権を持ち、利益を独占していたのだ。

代表的な出版社には、イタリア・オペラの名作を独占していた老舗のリコルディ社、コンクールなどで新しい作家を発掘していた新興のソンツォーニョ社があり、それぞれビジネスモデルが異なっていた。

リコルディ社は、スカラ座と独占契約を結び、スカラ座で上演される作品すべての版権を買い取ることに成功する。これにより人気作品含め膨大なライブラリーを確保することができた。リコルディ社の独占にはスカラ座提携独占ループが働いている。

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一方のソンツォーニョ社は新興であったため、有名な作曲家の作品を買い取ることは難しかった。そこで、新人を発掘するためのオペラ作品の作曲コンクールを実施する。新人作曲家発掘ループにより、リコルディの独占に立ち向かおうとしていたのだ。

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プッチーニの作品『ラ・ボエーム』

プッチーニはもともとソンツォーニョ社のコンクールに作品を応募したが落選し、逆にその才能に目を付けたリコルディ社が契約を持ち掛けたという経緯がある。

オペラというのは敷居が高そうだが、実際にはそれほど高尚な話をしているわけではない。ストーリーを知れば、身近に感じられるのではないか。

(LINEのようなメッセージ画面を使って、かんたんなストーリー説明)

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観どころ・聞きどころ

それでは実際の舞台を見ていこう。

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オペラ冒頭の古いアパートの屋根裏部屋の場面。登場人物のロドルフォやマルチェッロにはそれぞれを表すメロディが紐付けられていて、これをライトモチーフという。これらのメロディはオペラ全体を通して繰り返し演奏され、誰の場面なのかがわかるようになっている。

続いて、ロドルフォのアリア「冷たい手を」。オペラ冒頭の情景描写と異なり、ロドルフォの長い独唱が続く。このメロディは、さきほどロドルフォが登場したときと同じものが使われている。

ミミのアリア「私の名はミミ」では、ミミが自己紹介をする中で後半のストーリーにつながる伏線が張ってある。歌詞中に「4月の最初のくちづけは私のものなの!」という部分があるが、第四幕ではそれを待たずに死を迎えてしまうのだ。ストーリーを知っていると、この部分を聴くだけで泣けてしまう。オペラの脚本はかなり練られており、あらすじを知った上で聴くことでより楽しむことができる。
(ちなみに歌い終わったあとに観客がブラボー [bravo] またはブラバー [brava] と言っているが、ブラボーは単独の男性に対するもの、ブラバーは単独の女性に対するものである。)

次に、第二幕の冒頭、クリスマスでにぎわうカフェ・モミュス。これはにぎやかな繁華街の場面で、渋谷のセンター街みたいなところ。すごい人混みの中に繰り出していく場面だ。そこで、音楽家のショナールは楽器を買い、哲学者のコッリーネは外套を買っている。ここでも伏線が張ってあり、コッリーネが買った外套は第四幕で薬を買うお金を得るために売られてしまう。

さらに第二幕、ムゼッタのワルツ「私が街をあるけば」。これについては、演出違いで別のものを見てみよう。日本人が演じたものと、外国人が演じたものという違いもあり、ずいぶん雰囲気が違う。ちょっとした仕草や、歌手同士の位置関係も変わってくる。

第二幕のムゼッタ大騒ぎは、派手な場面だ。ムゼッタは靴が合わなくて足が痛いと騒ぎ、パトロンのアルチンドロを靴屋に走らせる。アルチンドロが戻ってくると、ムゼッタはマルチェッロ達とともにいなくなっており、給仕から会計を渡されて腰を抜かす。オペラ全体で最も華やかな部分であり、喜劇的な要素が強い。

第四幕は、最後ミミの死の場面だ。ムゼッタが持ってきたマフを喜ぶが、意識が朦朧としておりロドルフォが無理して買ってくれたものを勘違いする。ロドルフォは泣き崩れる。次第にミミの歌声が弱々しくなっていくが、このメロディは第二幕でロドルフォとミミがであった時のもので、二人の出会いを回想させる効果的な使い方になっている。

事前にこうしたストーリーと見どころをしっておけば、オペラの楽しみはグッと増すはず。次はぜひ劇場で楽しんでほしい。

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講師:佐藤裕
宮城県仙台市出身。重工メーカー勤務の傍ら、江東オペラ管弦楽団にトランペット奏者として参加。これまでに『ラ・ボエーム』、『トスカ』、『トゥーランドット』、『蝶々夫人』、『道化師』、『アンドレア・シェニエ』などを演奏している。また、ハックシリーズ著者の小山龍介率いるバンド、STARS IN BLOOMのホーンセクションでも活動中。

未来のイノベーションを生み出す人に向けて、世界をInspireする人やできごとを取り上げてお届けしたいと思っています。 どうぞよろしくお願いします。