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小さなご馳走 その17

お料理と名乗るのも憚られるけれど、
食べると幸せを感じるおかずたち。

紅白なます

今更お正月の御節料理!?と思われる方は沢山いらっしゃるだろう。

ええ、その通り。
正真正銘、御節料理のメニューだ。

結婚して、正月は自分の実家に帰ることはほぼ無くなった。
年末子どもを出産するために里帰りした時以外、主人の実家に帰省することになっている。

そこで人生で初めて出会った御節料理もある。普段の日の食事、つまりはケの日の食事でもその地方毎の特徴を感じることはあるが、一番顕著に感じられるのはハレの日の食事、御節料理であろう。
出される御節料理の品は大体が私の口に合い、毎年お手伝いもしていないのに (!) 美味しい料理を沢山頂いている。

が、やはり、私の実家でしか出てこないメニューがひどく恋しくなるのである。

その一つがこの干し柿と大根と人参を甘酢で漬けた紅白なますなのだ。


実家に居た時は、家事や食事については母親任せであった。
ぬくぬくと実家生活を満喫していた。

年末せわしなく御節料理の準備に取り掛かる母親。
こちらは味見と称してつまみ食いするだけ。
今は珍しいことだと思うのだが、きちんとした塗りのお重に一品ずつ丁寧に詰められていたのを思い出す。
黒いツヤツヤの塗りに、鮮やかな南天の実が描かれたお重。

今自分が母親になり、料理をする段になって、一人でこのお重いっぱいに御節料理を作って詰めることの大変さが本当に身をもって理解できる。
一日分の食事だって毎日大変なのに、御節料理は3日分も作るのだ。しかも何品も!

主人の実家から戻り、三が日も過ぎた頃、私はいそいそと干し柿を買い求めにいくのだ。
ずっと作ってもらっていた思い出の味がどうしても食べたくなって。

食べながら毎年、自分がしてもらっていたことの大きさ、母親のとてつもない深い優しさを感じている。

わざわざ三が日明けてから作ろうと思うのは、単にこの味にまた出会いたいからだけでなく、母親の温もりに会いに行きたくなるからかもしれない。


乳児から幼児になりかけの頃の我が家の子どもは、酢を使った酸っぱい料理は全く受け付けなかった。
(それは健全な味覚の成長段階であるらしい。酸っぱい→今から食べるものが腐っている可能性がある、と本能で判断するためのようだ。)

だが、今年は「美味しい!」と言って、この三が日過ぎてからの紅白なますを食べていたのだ。

主人の実家で作ってくれる御節料理然り、この小さな御節料理の一品も、薄い層が何層も重なっていくように、彼らの記憶や感情の土台を少しずつ形作っていくことであろう。

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