行動や言動には理由がある
前に、ドラッグストアを併設した調剤薬局に勤めていたことがある。
普通の調剤薬局のように処方箋が持ち込まれ、調剤してお渡しするだけでなく、売り場に出向き、お客さんの症状や悩みから適切な一般用医薬品をお勧めするということもしていた。
ドラッグストアは勿論その店の近所の方が訪れることが多いのだが、それだけでなく、あまり普段は来店されないような人、不特定多数の人も来店する。
その日私がお薬を選ぼうと接客したのは、後者の、普段あまり来られない方だった。
お仕事の合間に、あまりにも調子が良くないからと駆け込んで来られたらしい。
風邪なのだが。
「風邪にはコレかなと思ってA社の○○って薬を飲んだんだけどさ、ほんっと全然効かないんだよ。喉痛いし、身体辛いし。仕事なんて休めるわけないし、ほんっと困るんだよね。勘弁してよ。薬飲んだら普通効くよね?今度は本当に治したいから絶対絶対効くやつ選んでよ!」
相当な剣幕でまくしたてて、そのお客さんはかなり怒っていた。
一人で勝手に。
結論から言ってしまうと、風邪はゆっくり休んだら治る病気で、風邪薬は、風邪のウィルスを撃退するものではない。
鼻水が酷くて辛かったら少しの間鼻水を止めますね、咳き込んで夜も寝られなくて辛いなら、咳止めますね、...
といったように「対症療法」の薬なのだ。
自分の身体がいろんな症状で参っていて、立て直して風邪と戦っていきづらい、という時に、少しだけ助け船を出すような感じだ。
出ている症状も今まさに自分の身体が病気と戦っているからこそ出るわけだから、無闇矢鱈に止めるべきではない。
なので、私はこのお客さんのお話を伺った時、ちょっと悲しくなった。
なんで、そんな言い方になってしまうんだろう。
なんでもっと自分の身体を労われないんだろう。
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それから、私はいかに日頃の養生の考え方が大切かを広く伝えるべきではないか?と考えるようになった。
「未病」という言葉があるように、東洋医学の考え方が、西洋医学にくらべて、より身体の仕組みや健康の維持の仕方に対して一般の人にもその意味を伝えやすく、養生についても取り入れやすいものが多いと感じた私は、それを多くの人に知ってもらえたらと思ったのだ。
しかし、どの分野でもそうだが、結局そういう講座やセミナーに参加される方は、基本的に「元から身体や健康に興味がある人」。
私がドラッグストアで接客をさせてもらったような方には届きにくいのだ。
勿論病気についての知識や、薬の事、養生の考え方についてお伝えすることは無駄というわけではないし、地道にやっていかねばならないと思うのだが...
でもなんで、あの人は薬が効かないことに対してあんなに怒っていたのだろう。
ご本人はというと、仕事は休まず、見るからに身体を休めていたり必要な栄養を摂取しようとしている感じはなかったのに。
*
今でも調剤薬局で、透析の患者さんや癌の患者さんのお薬について服薬指導をさせてもらうことがある。
ええっ?なんでここで怒るの?
というところで大激怒したり、不満そうな態度を取られる方もいる。
その方たちを見て、ふと思い出したのだ。
あのドラッグストアで出会った怒り心頭のお客さんを。
透析や癌の患者さんは、とても身体が辛いことが多い。
通院や治療で多くの負担も強いられている。
自分がこれからどうなるのか?
いつまでこの状態が続いていくのか?
どんどん悪くなっていくのではないか?
いろんな不安がいつも患者さんの周りにはついて回っているのだろう。
その不安で仕方ない気持ちを、何か別にものを当たったり、怒りをぶつけることで代償しているのではないか?
ドラッグストアでのお客さんで言うならば、自分はほんとは休みたいけど休めない。休んだら職場で居辛い。身体の辛さをわかってほしい。
こんなような気持ちが、結果として薬が効かないことへの怒りに変化してしまったのではないか。
もしかしたら、あまり病識のない方だったのかもしれないし、健康に対して無頓着な方なのかもしれない。
でも少なからず、その裏に隠された気持ち、思いがあって、こういう行動になってしまったのではないかと考えた。
人は、自分で押し込めてしまった思いを、別の形にして外に表すことがある。
それが一見不可解な行動だったり、あるいは身体症状だったり。
そういったこともしっかりと丁寧に見ていかねば、そのお客さん、患者さんの本当の問題点は浮かび上がってこない。
表面だけを見て、瞬時に判断することだけは避けたいと思う今日この頃である。
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