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小さな冒険

いま帰り道。小さな冒険。

何年も前から行きたかった場所。
地図を見てここなら必ず魚がいるはず。
ネットに情報なし。
さらに、最寄り駅なし(徒歩一時間半)
バス停なし。
グーグルマップが途切れる。

柏から格安で行ける鉄道にフォールディングバイクを担いで。
考えておいた経路でゴー。

着かない。遠すぎる。
徒歩一時間半は絶対嘘だ。
バイパスの道には電灯もなく真っ暗。
チャリ爆走30分以上。
入り口についた。


大きな海浜公園だがほとんど人が居ない。
目星をつけたところは乗りやすそうなテトラ帯
だが、夜に一人でテトラには登らない様に
一応決めてある。(登りたいけど、こういうとこはすぐ死ねるから、一人では登らない)

釣り場探しに地図にらめっこしてどこまでも。
なんて広いんだ。
海岸線に二キロ、というが完全な無人で
冗談じゃなく広い。もっとある。
奥まであって引き返し川を渡ってもっと長い方へ。

もはや人がいなさすぎてゾワゾワする。
護岸されてるけど、ここ絶対、死んでるよなあ
後ろ振り返りたくない。真っ暗闇。

親水護岸ぽい(危険すぎる)切れ目を見つけて
渓流竿に糸とオモリと針とエサだけつけて
前打ち、という手法で試す。

釣り仲間さえ少ないのだけど前打ちをする人とは死ぬまでに知り合えるのだろうか?
たぶんないな。こんなに釣れるのに。

水深はあまりない。
煌々と満月の月明かり、今日は大潮だ。
釣りにおいて月齢最高の日。
釣りサンダルと半ズボンが腰まで波に浸かる。
死ぬなよ俺。

いるはずなんだ、ここにはやつらが。
東京湾だとなかなか拝めなくなってしまった
大好きな奴らが。

反応あり。
切られた餌の潰され方は、正しくヤツ。
戦法は間違ってない。
この浅さで、奴らの視線はどこを向いているのか?
通常なら上から落ちてくるものを見るためだけに神経を使ってあるはずなのに
この場所であたりがあるのは、
海底についた餌を穂先の弾力で少し持ち上げるときだけ。
こんな難しいアタリとれるか!
取らなきゃ。

何度か逃したあと、手中にした。
クロダイ。関西でチヌ。
古語で「茅渟」と書く。
大阪湾の古称「茅渟の海」は黒鯛の海だから
という説もあった。

せいぜい25センチの若魚。
関東だとチンチン、古くは海津(かいづ)。
鈎の名前にもあるのでここは海津と言いたい。
大きく育てば、合戦武者の鎧よろしくいぶし銀の黒味を帯びるのだが、
若いときの青みががった縞も、とても美しい。

現代の強い道具ならなんてことは無い海津も
渓流のか細い魚を釣る竿で相手すると
素晴らしく強い。
最初は探るように軽いアタリ、強風の中で
感じるのが難しかった、それを少し穂先の
弾力だけで少し跳ね上げると途端に鈎掛かる。

そこからはグクっと、5.6㍍の竿の弾力だけで
海面に浮かし、また潜られ、走られ
あたふたと慌て焦り、嘆き、祈り、歯を剥いて
近くに寄ってくれる事を渇望し、
最後にやっと手中にする。

ありがとう。

いつも思う。

なんで釣りなんかしてるかわからない。
ただ、この一連の心の動きと体の動きが
一致して成就する事の
小さくとも大きな一体感を感じるために
こうして怖い海に独りでやってくる。


待ってたらもっと釣れるのはわかってたけど
三つでやめると決めていた。

もう一つ、人が入れなさそうななんの情報もない長い沖に伸びる堤防を見つけた。
グーグルマップでは出てこない、グーグルアースで仔細に調べたときだけに出てくる。
海に伸びる棒。いかいでか。

ヤバいわ、ここ。
海に垂直に、1キロはないと思う。長い。
突端の灯台まで来たけど、いま岸から
気狂いが襲ってきたら、逃げ場ないね。
柵も何も無い。強風。

底は砂地だ。
しかし嘘みたいに浅い。波が高すぎる。
あれこれ仕掛けを変えるが無駄っぽい。
でも来てよかった。
来ないと何もわからない。

ちょっとこれ以上やると危険かもな、
というところで引き上げる、前に
ラオガンマ具にした玄米おにぎりと麦茶。
潮風で食べるおむすびは美味い。
これもまた楽しい。

ここからまた一つ冒険したけどまた後で。

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